~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第143回中小企業景況調査【平成28年1~3月期】

少子高齢化への対応を模索する中小企業経営者

2016年1-3月期の中小企業景況調査では、製造業・非製造業・全産業の各業況DIが揃って低下した。新興国経済の減速、暖冬・雪不足といった天候不順の影響もあって、全産業・非製造業では3期ぶり、製造業では2期連続の低下となった。製造業・非製造業・全産業の売上額DI、採算DIや資金繰りDIにおいても低下が示された今期。この背景について、経営者から寄せられた声を手掛かりに検討する。

1.売上額DIが低下する中、人手不足感にやや低下が見られる

今期の全産業の主要DI(前期比季調値)を見ると、業況判断DI▲18.1(前期DIとの差(以下、前期差)▲3.0ポイント減)、売上額DI▲17.5(前期差▲4.0ポイント減)、資金繰りDI▲13.8(前期差▲1.7ポイント減)と、3期ぶりにすべてが低下を示した。

売上額DI(前期比季調値)について、産業別に確認すると、製造業▲14.8(前期差▲3.8ポイント減)、建設業▲13.7(前期差▲1.4ポイント減)、卸売業▲11.2(前期差▲2.1ポイント減)、小売業▲26.8(前期差▲4.9ポイント減)、サービス業▲14.6(前期差▲3.4ポイント減)となっている。一方、売上の低下が皮肉にも貢献したのか、最近の中小企業を悩ませる雇用の状況を示す従業員過不足DI(過剰-不足)(今季の水準)を産業別に見ると、製造業▲11.4(前期差0.2ポイント増)、建設業▲20.6(前期差3.2ポイント増)、卸売業▲8.1(前期差0.8ポイント増)、小売業▲8.4(前期差▲0.9ポイント減)、サービス業▲18.5(前期差1.0ポイント増)とおおむね解消の方向に動いた。

しかし、売上額DI(前期比季調値)が低下した製造業や小売業、サービス業においても、依然として従業員不足の水準は高い。この背景には一体どのような問題があるのだろうか。

産業別売上高DIの推移
産業別従業員過不足DIの推移

2.今期の調査から見えた「売れない」の意味

今期の調査において寄せられたコメントでは、少子高齢化に対応するための従業員の獲得に苦心・奔走する中小企業経営者の姿がうかがえた。その内容を検討していく。

【コメント】

  • 従業員の確保が難しいので注文数に追いつけないので売り上げ増が出来ない。(野菜漬物製造業(缶詰,瓶詰,つぼ詰を除く) 鹿児島)
  • 従業員の確保がなかなかうまくいかず、定年退職等で人員が減少している為、受注を調整してはいますが、売上の減少になっています。(ニット製外衣製造業(アウターシャツ類,セーター類などを除く)秋田)
  • 問屋の注文が続けてあるので従業員の数を増やし生産量を増やしたい。広巾の機械により服地の試作も行っている。(絹・人絹織物業 茨城)
  • 熟練技術者の高齢化により、若手従業員を雇用したが、技術力が上達するまで時間がかかるので、従業員が退職するまでに、どうにかしなければならない。(建具製造業 宮崎)
  • 受注は増加したが、従業員や下請業者確保が困難。(一般電気工事 東京)
  • 新築物件が多い。年度末の工事が多いが来年度物件も多数あり、若手従業員の確保が困難。(一般土木建築工事業 鹿児島)
  • 当社の若い世代が着実に力をつけてきており4月以降、売上げも増加していくことが予想されます。但し業界としては需要減少の傾向があり、新規顧客の獲得により実現させていく予定です。(塗料卸売業 徳島)
  • サービス業、特に飲食業の従業員の確保難は深刻である。需要があっても人手不足で満足なサービスが提供できない状況が続けば業況は悪化する。早期に解消する必要があるが当面難しいと考えます。(食堂,レストラン(専門料理店を除く) 福島)
  • 従業員が足りず、単価を上げ仕事量を減らす方向で考えているが、大変不安である。(普通洗濯業 鹿児島)
  • 人が不足しているため、仕事があっても請けきれないことが現状である。中小企業への雇用促進の支援があればと思う。(ビルメンテナンス業 千葉)
  • 景気の回復感が感じられるようになった。受注は増えてきているが、反面人員確保が難しくなっている。従業員の確保について力を入れている。(受託開発ソフトウェア業 長崎)

3.見通し:今後を担う人材に伝えるべき自社の魅力を考える

全産業・製造業・非製造業に低下が見られた今期の調査結果。その背景には、本来であれば受注・獲得できる仕事を、従業員不足によりみすみす手放さなければならない状況に苦心する中小企業経営者の姿があった。

少子高齢化が進む中、今後を担う人材を獲得し育成していくために、自社の魅力をどのように伝えていくのか。中小企業経営者にとって、この課題をしっかりと検討していくことが求められている。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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