宿泊業の地域分析:景況DI値と客観的指標を組み合わせる
コロナ禍では経済指標の多くが、1回目の緊急事態宣言付近で大きく落ち込んだ。中小企業の業況も2020年II期(4-6月期)が底になっており、サービス業では図2に示すように飲食や宿泊といった観光関連のサービス業が長く大きな打撃を受けている。
図3は全国と9地域の宿泊業の今期の業況水準DIである。最も業況が低かった2020年II期(黄緑色)と比較するために、コロナ前の2019年II期(赤色)、翌年の2021年II期(紫色)、翌々年の2022年II期(水色)を描画する。同時期の比較により季節性も考慮できる。
出所:中小企業基盤整備機構の「中小企業景況感調査」より著者作成
Go To トラベル時の景況DI値と客観的指標:改善した東北、浮上しなかった北海道と沖縄
図3の破線に注目しよう。2020年IV期(10-12月期)はGo To トラベルキャンペーン期間で、東北のDI値(-21.9)が最も高く、コロナ前よりも高い水準となった。しかし多くの地域が回復するなか、北海道は-80、沖縄は-88.9と観光地として人気のある2地域のDIは浮上しなかった。
図4でGo to トラベルキャンペーンの需要増を客観的な指標でも確認する。2020年IV期の調査日が含まれる11月第3週の前年同週比は、コロナ禍にもかかわらず、全国121%増、全ての地域で前年同週を上回った。東北の230%増は前年同週の3.3倍にもなる。一方、北海道は75%増(1.75倍)で、他地域と比較して低い伸びとなった。沖縄はこの調査では九州・沖縄となっているので直接見ることができないが、全国平均を下回っていた。
出所:V-RESAS、観光予報プラットフォーム推進協議会(事務局:日本観光振興協会)『宿泊者数』を使用して著者作成
続けてGo Toトラベルキャンペーン時に北海道と沖縄のDI値が回復せず、東北が改善した理由を探索する。図5は、日々の感染者数の累積相対度数である。(a)は北海道と沖縄と比較のために東京と大阪を加えている。(b)は東北地方の6県の結果である。2020年IV期を灰色で網掛けし、調査日の11月15日は青色線で示した。沖縄は8月以降感染者数が急増し、調査日付近でいち早く全体の50%を超えている。北海道も10月に25%を超えた後はグラフが立ち上がり、短期間で急増している。
一方、東北6県は、10月時点で全体の25%を超えておらず、(a)の地域と比較して下方に分布している。青森は10月中旬、岩手と山形は景況調査の調査日付近まで総感染者数がほとんど変化していない。
この時期の東北地方のDI値の大幅な改善は、感染拡大のタイミングが他地域とずれ、低い水準を維持していたこととGo Toトラベルキャンペーン時の需要増が要因である。
出所:日本放送協会(NHK)の「特設サイト新型コロナウイルス」の都道府県別データ(注6)を使用して著者作成
直近(2022年4-6月期)の景況DI値と客観的指標:厳しい状況が続く沖縄
図3に戻って、直近の2022年II期のDI値(水色)を見てみよう。沖縄以外の地域は2020年、2021年と比較して大幅に改善した。北海道はインバウンド需要で活況だった2019年よりも高くなった。一方、沖縄は2020年、2021年と全企業が「悪い」と答え、2022年も依然として-80と8割の企業が「悪い」と答えており厳しい状況が続いている。
図6は、2022年6月第1週の宿泊者数の2019年同週比を示す。DI値が最も高かった北海道の前値同週比が17%増と最も高い。軸の目盛に注目しよう。図4と比較すると最大値が10分の1である。Go To トラベルの観光需要への影響は短期間かもしれないがあったと言える。
出所:V-RESAS、観光予報プラットフォーム推進協議会(事務局:日本観光振興協会)『宿泊者数』を使用して著者作成
沖縄の景況DI値が回復できなかった理由をもう一つの客観データで探索しよう。
図7は2022年1月から7月17日までの直近1週間の人口10万人あたりの感染者数の推移だ。北海道は人数も少なく、調査日付近に向かって減少している。一方、沖縄の人口10万人当たりの感染者数は3月末から増え始め、ゴールデンウィーク以降ピークを迎え、以降も高止まり後に急増している。沖縄の宿泊業が長期に渡り厳しい状況にあることがわかる。
この様に、2020年IV期と2022年II期の北海道と沖縄を比較することで、宿泊業の業況DIと感染者数の増減に関係があることがわかる。
出所:日本放送協会(NHK)の「特設サイト新型コロナウイルス」の都道府県別データ、人口は総務省令和二年の「国勢調査」を使用して著者作成
パッと見てわかる都道府県業況の推移:視覚化の工夫で理解を深める
地域の違いを示す図法として、白地図に色で指標の高低を示す方法があるが、今回は各地域の景況感の高低差を示し、コロナ前とコロナ禍の4時点を比較する工夫をした。図8はサービス業の業況DIの推移である(報告資料では他産業の結果も示した)。中心が-100で、輪が外側に向かう程、DI値は高くなる。破線は各時期の全国のDI値である。各時点の破線と実線を比較することで、自県が全国値よりも高いか低いかを比較できる。視覚化の工夫で、自県の産業間での高低を知ることで、政策の必要性の優先順位を付けることに役立つ。
サービス業は他の産業と比較して、各年の線が交差していないのが特徴で、時間の経過とともに、コロナ前の水準に近づいている。ただし、沖縄はコロナ前が高かったこともあり、コロナ前の水準に程遠い状況である。
出所:中小企業基盤整備機構の「中小企業景況感調査」より著者作成