~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第144回中小企業景況調査【平成28年4~6月期】

中小企業景況調査が示す熊本地震の影響

2016年4-6月期の中小企業景況調査では、前期に続き全産業・製造業・非製造業の業況判断DIが揃って低下した。全産業・非製造業は2期連続、製造業は3期連続の低下となり、その背景には、新興国経済の減速・軽自動車の燃費不正問題以外に、九州で発生した熊本地震の影響もあるとみられる。そこで、4月に発生した熊本地震により中小企業の活動がどのような影響を受けたのか、経営者から寄せられた声を手掛かりに検討する。

1.今期の地域別業況判断DIとその特徴

今期の地域別業況判断DI

今期の全産業の主要DI(前期比季調値)を見ると、業況判断DI▲19.5(前期DIとの差(以下、前期差)▲1.4ポイント減)、売上額DI▲19.3(前期差▲1.8ポイント減)、資金繰りDI▲13.9(前期差▲0.1ポイント減)と、2期連続でいずれも低下を示した。

地域別の業況判断DI(前期比季調値)を確認すると、北海道▲16.8(前期差6.6ポイント増)、東北▲20.5(前期差1.8ポイント増)、関東▲19.5(前期差▲2.8ポイント減)、中部▲17.2(前期差2.4ポイント増)、近畿▲18.1(前期差▲1.6ポイント減)、中国▲19.9(前期差▲0.6ポイント減)、四国▲20.2(前期差▲1.7ポイント減)、九州・沖縄▲19.9(前期差▲5.1ポイント減)となっている。北海道と東北、中部は改善しているものの、その他の地域では悪化が示されており、特に、4月に大規模な地震に見舞われた九州の業況判断DIの低下は大きい。

2.熊本地震関連のコメント

【コメント】

  • 熊本地震による影響で自動車メーカーが一時生産を停止したため当社全休で12%ほど生産がダウンし利益についてもマイナス傾向となっています。今後自動車メーカーでは挽回生産計画が実施されるため、今後に期待する。(自動車部分品・附属品製造業 宮城)
  • 熊本の地震の影響で畳表の価格が上がってきている。仮設住宅へ使う畳表が国産指定の為材料不足になるのは明らか。市場の動きをまめにチェックしなければいけない。(床工事業 茨城)
  • 自動車部品においては、熊本地震の影響により、一部の車種が生産停止となっている為に、設備の操業率が低下している。復旧も夏以降になる見通しであり、業況は悪化している。(自動車部分品・附属品製造業 三重)
  • 九州地区の地震の影響で熊本以外の九州も風評被害が出ており全体的に客足が遠のいた。西日本のJR九州方面は人気だったので売上減少になり厳しい。(旅行業(旅行業者代理業を除く) 兵庫)
  • 輸入材料の入荷が減少の見込みと熊本地震により国内材料の価格の上昇の影響が懸念される。(畳製造業 広島)
  • 取引先が大分県湯布院にあり、熊本地震による売上減少は避けられない。(他に分類されない木製品製造業(竹,とうを含む) 島根)
  • 3年前の当地の豪雨災害の反動により需要が停滞している。熊本地震によりイ草の仕入単価が上昇傾向で品薄となっている。高品質のものは特に品薄。イ草を織る人が、自宅、作業場が被災しており、気になるところである。(畳製造業 山口)
  • 4月5月は流通業界全般に物量が低迷し関東関西から九州方面への荷動きが落ちこんでいます。燃料も少しずつではあるが高くなりつつあります。九州内では熊本復旧工事等で輸送業界では荷動きはあるようです(一般貨物自動車運送業(特別積合せ貨物運送業を除く) 福岡)
  • 熊本地震でみられた木造住宅等の倒壊は、我々小規模工務店に対する消費者の印象を悪化させたと思う。今後消費者は増々ハウスメーカーへ流れていくだろう。会社の今後の方向性を早急に計画し実行したい。(木造建築工事業 福岡)
  • 熊本地震により、別府や湯布院が風評被害により消費が低迷している。長引く可能性もあり危機感を感じております。九州外に売り先を求めなければ減少し続けるので営業の見直しが必要。(清酒製造業 大分)
  • 熊本震災の影響により観光客が減少している。風評被害によって九州全体が危ないとの考えをもたれる様になり、回復には時間がかかりそうである。(旅館,ホテル 宮崎)
  • 熊本地震の影響で市況が見通せなくなった。これから計画される復旧・復興予算がどのような内容になるかによって需要の状況に変化があると思われる。大変難しい局面であると考えます。(生コンクリート製造業 熊本)
  • 今回の熊本地震において、当社の建屋・設備ともに大きな被害を受けた。主要取引先も、当社以上に被害を受け、稼動開始が大きく遅れ、その営業売上も大きく減少した。まずは金融機関の支援によって危機を乗り越える。(農業用器具製造業(農業用機械を除く) 熊本)
  • 今、復興事業に対しての注文が、少しずつ増加している。今年は県産材の需要の高まりで受注増を計りたい。(一般製材業 熊本)
  • 熊本地震でサービス等は大変な事になっています。今後のことが本当に心配です。県外に物産展等を積極的に展開していく必要があると考えられます。(製茶業 熊本)
  • 震災で本店が閉鎖になり、大変である。再開に向けての動きを頑張っているが手続きが多すぎて時間がかかるようである。頑張るだけである(野菜小売業 熊本)
  • 4月は、熊本地震で、阿蘇市も大きな被害が出ました。当店は、軽い被害で済みましたが、売り上げは去年より低くなりました。しかし、ご来店頂いたお客様が気分良く喜んで帰られて、これからも皆様が幸せな気持ちになられる様な仕事をがんばっていきたいと思いました(美容業 熊本)
  • 震災を受けて、ピンチはチャンスと受けとめて頑張るしかない。(旅館,ホテル 熊本)
  • 熊本地震の影響で県外からの観光客の減少は外食など業務用売上減となったが、なんとか昨年並で推移している。近々ソースの販売価格の値上げ実施を検討している。(しょう油・食用アミノ酸製造業 鹿児島)

3.見通し:地域経済を支える中小企業経営者の力強さ

突然の地震により九州の経済活動が著しく停滞する中で、多くの中小企業経営者が風評被害という将来の企業活動にも大きな影を落としかねない悩みを抱えていることが今期のコメントから確認できた。また、自動車部品などの生産拠点としてもあり、全国各地からサプライチェーンの寸断を懸念する声が届いている。

こうした状況の中、不安を抱えながらも、復旧・復興へ向け、中小企業経営者たちが懸命に計画の見直しや金融機関等との協力、顧客への丁寧な接客を重ねているというコメントも数多く寄せられている。風評被害への懸念を振り切り、中小企業経営者が力強く自社の経営活動に取り組む姿に地域の経済が支えられているということが広く人々に理解されると、地震の影響は収束していくのだろう。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

関連記事