中小企業の税金と会計

所得税の源泉徴収義務I−サラリーマンの給与所得を中心として−

最終更新日:2018年3月31日

日本の所得税は、納税者がその年の所得金額とこれに対する税額を計算し、自主的に申告して納付する、いわゆる「申告納税制度」を採用しています。しかし、サラリーマンの給与所得は、給与から源泉所得税を差し引いて支払われます。なぜなら、サラリーマンも一律で申告納税を行った場合、納税者にとっても税務署にとっても煩雑な手続きが増え、両者の負担が増大するとともに、税金の確保も難しくなると考えられるからです。つまり、源泉徴収制度は、サラリーマンの税金を給料から天引きして納めることで納税の手続きを簡素化し、より確実に税金を徴収する仕組みといえます。
ただし、源泉徴収によって自動的に税金が徴収されるサラリーマンには、自身が税金を納めているという実感が湧きにくいため、税金の使い道、つまり政治に対する関心が薄れてしまうのではないかという懸念もあります。
なお、この制度においては、給与や報酬を支払った(源泉徴収した)日の属する月の翌月10日までに支払者(源泉徴収義務者)が国に納付することを原則としています。

1.源泉徴収義務者

会社や個人事業主が、人を雇って給与を支払う場合には、その支払の都度支払金額に応じた所得税を差し引くことになっています。
この所得税を差し引いて、国に納める義務のある者を源泉徴収義務者といいます。源泉徴収義務者になる者は、会社や個人事業主だけではありません。給与の支払をする学校や官公庁なども源泉徴収義務者になります。しかし、個人が常時二人以下の家事使用人だけに給与などを支払っている者は、源泉徴収義務者になりません。

図1 源泉徴収税額と源泉徴収義務者

図1 源泉徴収税額と源泉徴収義務者

図1のように源泉徴収義務者は、その都度支払金額に応じて定められている所得税の額を計算し、その所得税額を差し引いて支払うことになります。
この源泉徴収制度により、源泉徴収された所得税の額は基本的には年末調整または確定申告という手続きを踏んで最終的に精算されることになります。
注意しなければならないのは、たとえ源泉徴収を怠って給与を支払ったとしても、源泉徴収相当額の納税義務は、給与支払者にあるということです。このため、預かり忘れた源泉所得税を給与支払者が負担することにもなりかねません。故に、開業直後からこの源泉徴収制度を十分理解することが大切です。
なお、会社や個人事業主が、新たに給与の支払いを始めて、源泉徴収義務者になる場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」を給与支払事務所等を開設してから1か月以内に提出することになっています。この届出書の提出先は、給与を支払う事務所などの所在地を所轄する税務署長です。
ただし、個人事業主が新たに事業を始めたり、事業を行うために事務所を設立した場合には、「個人事業の開業等届出書」を提出することになっていますので「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要はありません。

2.年末調整

給与を支払う会社などについては、役員や従業員に対して給与を支払う際に所得税の源泉徴収を行います。しかしながら、その年1年間に給与から源泉徴収をした所得税の合計額は、必ずしもその人が1年間に納めるべき税額とはいえません。それは、年の途中で給与の額に変動があった場合や扶養親族などが増加した場合、さらに給与支払い時の社会保険料控除が限定的であること、配偶者特別控除・生命保険料控除・地震保険料控除などが毎月の源泉徴収時には加味されていないなどの理由からです。そのため、「年末調整」の手続きを通して、1年間に源泉徴収をした所得税の合計額と1年間に納めるべき所得税額を一致させる必要があります。
年末調整の対象となる人は、「給与所得者の扶養控除等申告書」を会社に提出している人(甲欄適用者)です。2箇所以上から給与の支給を受けている乙欄適用者や、日雇い労務者のうち丙欄適用者は年末調整の対象とはなりませんので、税務署に所得税の確定申告を行う必要があります。
ただし、(1)1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人、(2)災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人についてはその対象から除外されます。 通常はその年の最後に支給される給与や賞与で年末調整を行いますが、次の特殊な場合には、年の中途で年末調整を行うことになります。

  1. 1年以上の予定で海外の支店などに転勤した人
  2. 死亡によって退職した人
  3. 著しい心身の障害のために退職した人(退職した後に再就職をし、給与を受け取る見込みのある人は除きます)
  4. 12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
  5. いわゆるパートタイマーとして働いている人などが退職した場合で、本年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である人(退職した後にその年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除きます)

年末調整の手続きについては、従業員等に支払うべき1年間の給与の額を合計し、下記の図表に示した順序で行います。

図2 年末調整の流れ

図2 年末調整の流れ

ただし、年末調整をした人でも給与所得に対してのみに限られるので、給与以外の所得(事業所得や不動産所得、譲渡所得など)がある人については、改めて確定申告を行うことになります。

3.源泉所得税の納付と納付期限

源泉徴収義務者が徴収した所得税は、その納税地の所轄税務署に納付することになりますが、この場合の納税地は、支店などで支払いをする場合には支店などの所轄する税務署とされています(国債の利子など特定の所得に対するものを除く)。
つまり、支店での給与支払事務を本店でなく支店自ら執り行う場合には、支払われる給与に対する源泉所得税の納税地は、本店ではなく支店の所在地になります。したがって、源泉所得税の納付に関しても支店の所在地の所轄税務署に行うこととなります。

源泉所得税の納期の特例

源泉徴収した所得税は、原則として、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに国に納めなければなりませんが、給与の支給人員が常時9人以下の源泉徴収義務者に限り源泉徴収した所得税を、半年分まとめて納めることができる特例があります。これを「納期の特例」といいます。この特例を受けるためには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を給与等の支払を行う事務所などの所在地を所轄する税務署長に提出する必要があります。
この特例の対象となるのは、給与や退職金から源泉徴収をした所得税と、税理士報酬などから源泉徴収をした所得税に限られます。この特例を受けていると、その年の1月から6月までに源泉徴収した所得税は7月10日までに、7月から12月までに源泉徴収した所得税は翌年1月20日までにそれぞれ納付することになります。なお、税務署長から納期の特例申請の却下の通知がない場合には、この申請書を提出した月の翌月末日に、承認があったものとみなされます。この場合には、承認を受けた月に源泉徴収する所得税から、納期の特例の対象になります。

  • 「納期の特例」の対象となる所得税は、給与・賞与・退職金から預かったもの、また、税理士や司法書士、土地家屋調査士の報酬にかかる所得税です。芸能人やホステス等に支払われる報酬や料金については「納期の特例」の対象とはなりませんので注意してください。