中小企業の税金と会計

役員給与はどうやって決める?

最終更新日:2018年1月25日

会社を経営する方からの相談で多いのは自分の給与をいくらにしたらいいのか?ということです。そこで今回は、役員給与を決める際に参考となるいくつかの考え方をお示しします。

基本的な考え方

会社のオーナー兼代表者(以下、オーナー社長)の方が自分の会社から収入を受け取るのにいくつかの方法があります。まず、代表的なのは会社から給与として受け取る方法です。これはほとんどの会社が行っています。
不動産や車など個人で所有している資産を会社に貸し付けた場合に、会社から利用料として受け取る方法もあります。利用料の金額が妥当かどうかは税務調査時に問題になることがあります。
また、会社にお金を貸し付けている場合には利息を受け取ること、会社の借入の保証人になっている場合は会社から保証料を受け取ることも行われています。
株主が他にもいる場合には、会社の税引き後の利益から配当を受け取るという方法も行われます。

このように会社からオーナー社長が収入を得る方法はいろいろとあります。その会社の状況に応じて税負担を考慮しながら最適な方法を選択していく必要があります。

役員給与の注意点

オーナー社長が会社から役員給与を受け取る際は特に注意が必要です。役員に対する給与は、オーナー会社であれば自由に変更できることから、税金を計算する際に経費として認める範囲に制限が設けられています。もし制限がないと、利益が出た時には、役員給与を増額することで法人税を節税することが簡単にできてしまうからです。

具体的には、役員給与の変更は、原則として事業年度開始から3カ月以内にしなければなりません。それ以外の時期に変更をした場合には、変更後の増額した金額は、税金を計算する際には経費として認められません。
また、事業年度開始から3カ月以内に変更したら、それ以降は事業年度が終わるまで同じ金額を支給し続けなければなりません。このように非常に厳しい規制があります。

また、従業員とは違い役員に賞与を支払っても、これも税金を計算する際には経費として認められていません。唯一の例外として賞与の支払が経費として認められるのは、定時株主総会等で賞与の支払を事前に決議し、税務署に事前に届出書を提出した場合のみ認められています。
ただしこの場合、支払日と支給額が届出書に記載したものと完全に一致していなければならないというように、さらに厳しい規制になっております。事前に届出した支払日と1日でも違っていても認められず、支払額が1円でも違っていたら全額税金を計算する際に経費として認められません。

以上のように役員に支払う給与については非常に厳しい規制があることをまず覚えておいて下さい。

以前の役員給与の決め方

役員給与をうまく決めることが法人税の節税のキモになりますが、その役員給与はどのように決めたらいいのでしょうか?その説明をする前にもう1つ覚えておいてほしいことがあります。
法人税の教科書を開くと最初にこのような説明があります。
「法人税は、所得税の前払いである」
つまり、法人の利益はいずれ個人に配当されるので、法人の段階で前もって課税しておこうという考え方です。この考え方によると法人の段階で課税されて留保利益を配当した場合には、個人の段階で所得税が課税されないはずです。

ところが、実際には法人の留保利益を配当すると、個人の段階でも課税されてしまいます。配当控除というものがありますが、法人段階、個人段階で二重に課税されてしまうことを完全に排除するには至っていません。法人の段階で35%ぐらい課税され、残った利益の65%について個人でも7.2%-43.6%(配当控除加味後)の税率で課税されてしまうわけです。法人の税と個人の税で合計して最大で約63%〔35%+(1-35%)×43.6%=63.34%〕も課税されてしまいます。

そのため、会社にはなるべく利益を残さず、個人で役員給与を多めに取るという税金対策が行われていました。役員給与を多めに取り、会社は常に赤字にしておきます。会社の資金が足りなくなったら、オーナー社長が会社に貸付をします。会社の貸借対照表には、役員からの借入金が多く計上されている。こんな貸借対照表をよく目にしました。

法人税の税率が高かった頃はこのように法人税をなるべく納付せず、個人に役員給与として多く払うというように役員給与を決めていました。ところが、最近は法人税の税率が下がる傾向にあり、一方で個人の所得税が増税傾向、社会保険は数年前から増加傾向という流れになっています。

最近の役員給与の決め方

最近の法人税減税、所得税増税、社会保険の負担増の傾向から役員給与の決め方が変わってきました。以前のように会社が赤字になるように役員給与として取るのではなく、支払前の想定利益をいかに法人と個人とで分けるかを考慮して役員給与を決めるようになったのです。

例えば役員給与の金額を少なくすれば、会社に利益が残り法人税が課税されます。役員給与には所得税、住民税が課税され、さらに社会保険料の負担が会社と個人の両方にあります。法人税の実効税率が利益800万円までは25%くらいのため、役員給与を少なくすることで所得税、住民税、社会保険の負担を減らし、会社に利益を残して法人税を納税するというような節税方法が行われるようになりました。

法人で留保された利益をその後に配当してしまうと、法人税と所得税、住民税の二重課税が生じてしまうため、留保利益をどうやって個人で受け取るかという出口戦略を考える必要があります。
会社の置かれた状況によって出口戦略は異なりますが、代表的なのは会社を閉じる時または2代目に承継する時に会社に残した内部留保を役員退職金として受け取る方法です。創業したばかりの会社の場合、あまり最初から出口戦略のことを考えずに、会社に残った内部留保資金と利益体質の会社の信用力を活かした資金調達で会社を軌道に乗せてしまうほうが得策です。

法人税が減税されたことにより、無理して個人で役員給与を受け取る必要もなくなりました。会社への貸し付けも現ったことで役員借入金額が減り、内部留保が蓄積されることで自己資本比率が高まり、利益体質になったことで銀行評価もよくなると、役員給与を余り取らないことで会社にとっていくつかのメリットをもたらすようになったのです。

とは言っても、役員給与をゼロにしたため生活資金が足りなくなり、会社の預金から引き出して役員貸付金になるというようなケースは避けなければならないので、生活費を賄うぐらいの給与は最低限取り、あとは法人と個人のどちらに残すのかのスタンスの問題になっています。

最も手取が増える役員給与は?

最後に具体的な事例で最も手取額が増える役員給与の取り方について紹介したいと思います。
役員給与支払前の想定利益を1000万円と前提します。夫婦2人の会社で配偶者には、扶養の範囲内で最大限に給与を支払います。役員給与を月額10万円から80万円まで10万円刻みで手取り金額がいくらになるかシミュレーションしてみました。

結果は、月額10万円の役員給与の時が手取も一番大きくなりました。手取が一番少なくなったのは役員給与が80万円の時です。役員給与が増えるごとに手取額が少なくなるのです。10万円と80万円の時の手取の差は約140万円でした。

想定利益が1000万円の時には、役員給与を余り取らないで所得税、住民税、社会保険の負担を減らし、法人税を納税して会社に留保をしたほうが有利になりました。
役員給与10万円では生活費が厳しくなるので、実際には20万円-40万円くらいの間で決めることになるとは思いますが、シミュレーションすることでどれぐらいの差があるのかがわかります。

想定利益が違ってくると結論が異なります。会社ごとに最適な役員給与を決めることが節税の第一歩であると共に、内部留保が強い会社をつくる基盤にもなります。想定利益が読めない時は、役員給与の金額を決めることが難しいのですが、個人・法人どちらにお金を残したいのかを考えて決めるといいでしょう。

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