中小企業の税金と会計

増税前に知っておきたい、消費税の基本的な仕組み(1)

最終更新日:2018年3月31日

消費税の増税が迫ってきました。2019年10月から消費税が8%から10%になります。本来は、2015年10月から10%になる予定でしたが、2度延期され、4年後の2019年10月からとなりました。そこで今回は、消費税増税前に知っておくべき消費税の基本的な仕組み(それに対して多い誤解も含め)をわかりやすく説明します。基本的な仕組みを知らないと、消費税で効果的な対処をすることもできません。

消費税貯金とは

まずは、消費税の仕組みとは関係のない話から始めましょう。中小企業にとって、消費税の納税はかなりの負担です。赤字でも消費税は納税しなければなりません。今でも苦しい消費税の負担が、消費税が10%になると1.25倍の負担になります。そこで筆者はクライアントに消費税の納税負担に備えるため、消費税貯金を勧めています。

消費税貯金は、売上の3%~5%の金額を普段使用していない銀行口座に毎月振り替えておくというものです。消費税が、10%に増税されたら、売上の4%~6%を貯金します。

そうしておかないと、いざ納税する段階になって資金繰りに困ることが今まで以上に発生すると思います。そのためにも、まずは消費税貯金を心がけましょう。

消費税の基本的な仕組み

消費税は、物の販売や貸付、サービスなどに対して課税される税金です。消費税という名の通り、最終的に消費者が負担することを予定しています。ただ、消費者は消費税を実際に負担しますが、それを納税するのは消費者ではありません。

そこで消費税がどのように課税されているのかを、小売店の取引の流れから簡単に説明しましょう。

  1. 小売店が、洋服をメーカーから54万円(内消費税4万円)で購入します。
  2. 小売店は54万円で仕入れた洋服を消費者に108万円(内消費税8万円)で販売します。
  3. 消費者は108万円(内消費税8万円)を支払い、洋服を手に入れます。

現在消費税は8%ですので、小売店が54万円で仕入をした洋服には4万円の消費税が含まれています。つまり小売店は仕入をした時点で4万円の消費税を支払っていることになります。一方、洋服を販売したメーカー側からみると、小売店から消費税4万円を受け取ったことになります。

その後、小売店は、消費者に108万円で洋服を販売しています。その販売をした時、小売店は消費者から消費税として8万円を受け取っています。つまり消費者は、洋服を入手する際に8万円の消費税を負担しています。

消費者が負担をした8万円の消費税は、受け取った小売店が全て納税をするかというとそうではありません。ここが消費税の仕組みのポイントです。小売店は、消費者から受け取った消費税をそのまま税務署に納付するわけではないのです。

小売店では、消費者から受け取った8万円に対し、メーカーからの仕入時に支払った4万円を引いた4万円だけを消費税として納税します。消費者が負担した消費税8万円の内、小売店は4万円だけ納税します。それでは、残りの4万円は誰が納税するのでしょうか?

残りの4万円は、メーカーが納付します。上述のように取引が3つしかない場合、メーカーは小売店から4万円の消費税を受け取っています。この4万円は最終的に消費者が負担をするのですが、メーカーが受け取っているためメーカーが納付するのです。

結果として、消費者が負担した消費税8万円のうち4万円を小売店が納付し、4万円をメーカーが納付しています。

このように消費税は取引の各段階で課税され、各取引段階の事業者が、最終消費者が負担する消費税を分担して納付しているのです。

消費税が10%になったら?

前記の事例で消費税が10%になったらどうなるでしょうか?

基本的な考え方は一緒です。消費者が負担する消費税は、税率10%ならば10万円です。消費税率8%では8万円でしたから、2万円増えたことになります。納付については、消費者が負担した10万円のうち、小売店は5万円、そしてメーカーが5万円を納付します。消費税率8%に比べて、小売店は1万円、メーカーは1万円納付金額が増えています。

1回の取引ですから増えた金額は少ないですが、同じ取引が100回繰り返されたとしたら、小売店の売上は1億円となります。売上1億円の時には、消費税の負担額は8%の時に比べて100万円増えます。メーカーも同じように100回取引を繰り返すと、消費税の負担額は8%の時に比べて100万も増えます。事業者の負担感はかなりのものになりますから、消費税貯金が大切になるのです。

納付税額の計算方法

消費税は取引の各段階の事業者が納付します。具体的な納付税額の計算方法は、「顧客から預かった消費税」から「自分が経費や仕入の支払の際に負担した消費税」を控除して計算をします。

顧客から預かった消費税を単純に納付しているわけではなく、自分が経費や仕入の際に負担をした消費税を控除している点がポイントで、ここが誤解の多いところです。消費税が課税されることになった時に、売上の8%を納税しなければいけないと思われている方が多いです。自分が支払った消費税を控除できるので実際の消費税の納税負担は、売上の8%ではなくもう少し少なくなります。

売上と仕入とは?

簿記や会計を勉強されたことがある方にとって、少し理解に苦しむ点が、消費税法における「売上」と「仕入」の考え方です。

会計学や損益計算書の「売上」「仕入」と消費税法の「売上」「仕入」は似て非なるものです。まずはこの点に注意して下さい。

消費税法での売上とは、まず一般的な会計用語の売上が含まれます。会計の売上のほか、固定資産を売却した時の売却代金も消費税法での売上となります。会計を勉強したことがある人にとってみると、固定資産を売却した場合には、売却代金からその時点の簿価を引いて、利益が出ていれば固定資産売却益となり、損失となっていれば固定資産売却損となると理解されていると思います。ところが、消費税法では、利益でも損失でも固定資産の売却の対価の額(売却代金)が売上になるのです。この点が会計の売上と消費税法の売上の考え方の大きな違いです。

経理の経験が長いと、売上は、売上や雑収入など収益の項目にばかり着目してしまいがちです。固定資産売却損益や有価証券売却損益の中にも消費税法でいう売上が含まれていますので注意が必要です。特に固定資産売却損、有価証券売却損の場合には見落としがちです。

消費税法での仕入とは、まず一般的な会計用語の仕入が含まれます。それ以外に、販売管理費、営業外損失に含まれる費用も仕入になります。また、固定資産の取得や長期前払費用や有価証券の取得なども、損益計算書には表示されていませんが消費税法では仕入として取り扱います。

会計を勉強したことのある方はご存知だと思いますが、固定資産について会計では、購入した年に一気に経費として計上できません。減価償却を通じて何年かにわけて経費計上されます。しかし消費税法では、固定資産等は購入をした年に仕入があったものとして取り扱います。

たな卸資産についても注意が必要です。会計では、売上原価に計上される金額は、当期中に売れた商品やサービスに対応するものが計上されます。消費税法では、売上との対応関係を無視して、当期中に購入をした商品やサービス(それが当期中に販売されず、たな卸資産になっていたとしても)が当期の仕入となります。

消費税法の売上、仕入は会計実務に馴染んでいる方にとっては、ちょっと異質な考え方となっています。そのため、会計を少し勉強したことがある方ほど勘違いが生じやすくなっていますのでご注意下さい。