中小企業の税金と会計

給与を増やした企業に対する減税

最終更新日:2018年3月31日

アベノミクスの目標はデフレを脱却し、かつ景気を回復させることです。そのためには円安や株高だけでなく、個々人が所得増を実感できることが要です。そのため、従業員の所得を増やせた企業は法人税を減税しますという施策が用意されています。所得を増やした企業に対する税制の「所得拡大税制」です。景気回復を個人が実感できるような社会の実現を政府は目指しているようです。今回は所得拡大税制についてわかりやすく説明をしてみたいと思います。

所得を増やした企業とは?

所得拡大税制は、所得を増やした企業に対し、増やした所得の金額の10%に相当する金額を法人税の減税で支援していくという制度です。所得拡大税制の最大のポイントは、所得を増やした企業とはどのような企業かということです。具体的には以下の3つの条件を満たした企業のことをいいます。

  1. 適用年度の雇用者給与等支給増加額÷基準雇用者給与等支給額≧5%(その法人が中小企業者等である場合には、3%)
  2. 適用年度の雇用者給与等支給額≧比較雇用者給与等支給額
  3. 適用年度の平均給与等支給額≧比較平均給与等支給額

この3つの条件を満たした企業については、雇用者給与等支給増加額の10%相当額の法人税が減税されることになります。雇用者数が増えていなくても給与が増えていると適用対象となる制度です。

3の条件について、平成29年の税制改正により中小企業等以外の法人については、3の条件を平均給与等支給額から比較平均給与等支給額を控除した額のその比較平均給与等支給額に対する割合が2%以上であることに変更になりました。中小企業等は、従前通りです。

対象となる法人と適用年度は?

所得拡大税制を適用できる法人は、青色申告法人となります。青色申告法人の平成25年4月1日から平成30年3月31日までの間に開始する各事業年度について適用を受けられます。ただし、合併による解散以外の解散の日を含む事業年度及び清算中の各事業年度は除かれます。会社設立初年度については、条件を満たせば適用を受けることが可能です。

対象となる雇用者とは?

所得拡大税制の適用要件の判定をする際の、給与等の金額の集計の対象となるのは、法人の使用人のうちその法人の国内の事業所に勤務する雇用者となります。社員以外にもパート・アルバイトなど日々雇い入れられる人も集計対象です。ただし、法人の役員や役員の親族等は集計対象から除かれます。使用人兼務役員も除かれます。集計対象となるのは、給与、賞与になります。退職金は含まれません。

雇用者給与等支給増加額および雇用者給与等支給額とは?

少し細かな説明になりますが、適用要件を判定する際の給与等はどのようなものなのかについて説明をします。

雇用者給与等支給増加額とは、雇用者給与等支給額から基準雇用者給与等支給額を控除した金額となります。基準雇用者給与等支給額は後述します。

雇用者給与等支給額とは、適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額がある場合には、その支払を受ける金額を控除した金額とされています。

基準雇用者給与等支給額とは?

基準雇用者給与等支給額とは、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

最初に適用対象となる事業年度の直前の事業年度の給与等支給額のことになります。基準事業年度と適用年度で月数が異なる場合には、基準事業年度を調整して適用年度と同じ月数となるように調整計算をします。

また、設立初年度の場合にはその前の事業年度がないため、設立事業年度の給与等支給額の70%相当額を基準雇用者給与等支給額とすることになります。70%相当額としていることから、設立事業年度で国内の雇用者に対して給与等の支払がある法人については、必ず所得拡大税制の適用要件を満たすことになります。

なお、基準事業年度において国内雇用者に給与等を支給していない場合には、基準雇用者給与等支給額は1円とされます。

比較雇用者給与等支給額とは?

比較雇用者給与等支給額とは、適用年度の前事業年度の雇用者給与等支給額をいいます。基準雇用者給与等支給額と定義が似ていますが、基準雇用者給与等支給額は、平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度開始の日の前日を含む事業年度で、この事業年度は、適用年度が変わっても変わりません。一方で比較雇用者給与等支給額は、適用年度の前事業年度なので、2年目以降の所得拡大税制の適用からは、基準雇用者給与等支給額と比較雇用者給与等支給額は対象となる事業年度が異なってきます。

平均給与等支給額とは?

平均給与等支給額とは、雇用者給与等支給額から日雇い労働者に支払われる給与を控除した金額を、適用事業年度の給与等の月別支給対象者(日雇い労働者を除く)の数を合計した数で除して計算をした金額となります。

月の途中で退職や入社した人がいる場合には、その人数も含めて計算をします。

比較平均給与等支給額とは?

比較平均給与等支給額とは、比較雇用者給与等支給額から日雇い労働者に支払われる給与を控除した金額を、前事業年度における給与等の月別支給対象者(日雇い労働者を除く)の数を合計した数で除して計算した金額となります。新設法人のように前事業年度がない場合には、月別支給対象者数は1となります。

事業主都合による離職者がいる場合

適用年度と適用年度の前事業年度に事業主都合による離職者がいる場合でも適用を受けることが可能です。

減税される金額と手続き

所得拡大税制の3つの要件を満たしている企業については、雇用者給与等支給増加額の10%が適用年度の法人税額から控除されます。控除税額は、その適用年度の法人税額の10%(中小企業等は20%)が上限となります。

適用を受ける場合には、適用年度の法人税の申告書に雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書(別表六(十九))を添付する必要があります。

特別税額控除率の上乗せ

平成29年の税制改正により、賃上げ率2%以上の場合には、特別税額控除率が中小企業者等については12%、その他の法人については2%が上乗せされます。

賃上げ率2%以上とは、平均給与等支給増加額のその比較平均給与等支給額に対する割合が2%以上である場合をいいます。

条件を満たした場合には、従来の雇用者給与等支給増加額の10%と雇用者給与等支給増加額のうち、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額に達するまでの金額の2%(中小企業者等は12%)との合計額が特別税額控除額となります。

平成29年の改正は、平成29年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

適用する際の留意点

所得拡大税制の適用を受ける際の留意点は、設立事業年度でも適用を受けることが可能なことです。設立事業年度は、比較をする事業年度がなく所得が増えたかわからないため、要件を満たさないと誤解されている方が多いようですのでご注意ください。

なお、平成30年の税制改正でも所得拡大税制の延長・拡充がありました。平成30年4月1日以降開始する事業年度については、平成30年の改正による制度が適用されます。