SDGs達成に向けて
竹からタオルや洗剤を生産、放置される竹林を“宝の山”へ【エシカルバンブー株式会社(山口県防府市)】
2025年 7月 7日

竹を使用したタオルや洗剤などの製造・販売を手掛けるエシカルバンブー株式会社は、未利用の竹を活用することで「竹害」を「竹財」に転換し、放置されていた竹林を“宝の山”へ変えつつある。行政や地域住民、事業者と連携した取り組みは、環境省主催のグッドライフアワードで受賞するなど高く評価されている。創業者の田澤恵津子社長は「私たちをロールモデルにして竹の利活用を全国に広げていきたい」と話している。
竹製品の展示や利活用方法の提案 廃校を“竹の学校”へ

山口県宇部市北部の中山間地に位置する小野地区では、奈良時代から和紙の生産が行われていた。戦後に和紙作りが途絶えた後も、同地区にあった小野中学校では校舎に紙漉(すき)場を設け、生徒自らが卒業証書用の和紙を作っていた。同校は2016年に廃校となったが、旧校舎を借り上げて2020年2月にオープンしたのが、エシカルバンブーが運営する竹の総合施設「竹ラボ」だ。竹で作ったホウキやザルといった日用品などが展示され、竹に関する情報を発信し、新たな利活用方法の展示・提案も行っている。
地域の住民や児童・生徒たちが訪れるほか、企業のSDGs研修や海外からの視察なども行われており、見学者からは「竹って、こんなに使えるんだ」との声が聞かれるという。かつての子どもたちの学び舎は“竹の学校”として復活したのだ。竹ラボの館長をつとめる田澤氏は「今はプラスチックなど他の素材に取って代わられたが、竹は日本人の生活と共にあった。『竹害』と厄介者扱いされがちな竹の魅力をアピールし、『竹財』になりうることを多くの人たちに知ってもらいたい」と訴える。
電力会社からの相談を機にタオルを生産

山口県で事業を展開する田澤氏は東京生まれの東京育ち。百貨店や総合商社、電機メーカー、広告代理店など多くの大手企業に勤務し、「サービスや商品の開発・ブランディング、広告・宣伝、さらにはグローバルな視点など、多くのスキルを身に着けることができた」と田澤氏は話す。
フリーランスとしてマーケティングの仕事をしていた際、大手電力会社から「竹の被害に悩まされている」と相談があった。放置された竹林が送電線にからみつき、停電が起きているというのだ。「伐採してもすぐに生えてくる。なんとかならないか」と聞かされた田澤氏は真逆の発想をした。「そんなに大量にあって、しかも生育も早い。計画的に伐採、手入れすることで半永久的に活用できる資源なのではないか」。竹林を“宝の山”にしていこうという取り組みが始まった。
田澤氏はこれまでの知識・経験をもとに、竹の繊維を使ったタオルの製造に行きついた。「竹の持つ消臭力や吸水性に加え、肌触りも良く、高付加価値の商品としてアピールできる」というのだ。国内に工場が見つからなかったが、2010年に中国で生産を開始。翌年の東日本大震災で協業先だった電力会社が竹の事業を中止するという不測の事態に見舞われたが、田澤氏はめげることなく、化学物質などを使わない、自然由来のオーガニック製品を扱う店舗などに絞って販路を開拓していった。
「飲めるほど安全」な洗剤を山口・防府で生産

田澤氏が得意とするブランディングや販売戦略が奏功し、1枚1500円ほどの価格にもかかわらず売り上げは順調。リピーターやまとめ買いの客も増えるなか、幼い子どもを持つ母親から、こんな声が寄せられた。「子どもがタオルを気に入り、口に入れている。すると口から柔軟剤の臭いがしてくる」。いくらタオルが自然由来で安全でも、洗濯すると洗剤や柔軟剤が付着してしまう。竹のタオルと同様に、安心して使える洗剤があったらいい、というものだった。
その声に田澤氏はすぐさま反応。安心・安全な洗剤をリサーチした末に、タオルと同様、竹から作った洗剤が販売されていることが分かった。竹のアルカリ成分には皮脂汚れを分解する働きがあり、昔は竹の灰を水に混ぜた灰汁(あく)で洗濯していたのだ。田澤氏は山口県防府市で竹の洗剤を生産していた伊藤清志氏のもとを訪れた。伊藤氏は自身と同じ80歳前後の高齢者とともに自宅で小ぢんまりと生産していたが、原材料にはもちろん、製造過程でも化学物質を一切使わず、「飲めるほど安全」(田澤氏)なものだった。
「商品にはストーリーがあり、ブランディング次第で付加価値を付けて販売できる」と直感した田澤氏は、伊藤氏から事業を買い取り、生産設備を整備するとともに、研究機関に成分分析を依頼して安全性に関するエビデンスを得た。2016年にエシカルバンブーを創業。準備期間を経て2018年に竹の洗剤「バンブークリア」の販売をスタートした。
販路は竹のタオルと同様に厳選。当初は産科医院や美容室などに絞り、その後、コインランドリーやクリーニング業界にも広がった。また2019年に千葉県を襲った台風15号の際、長引く停電で洗濯機が使えなかった住民の間で「バンブークリアなら、つけおきして、すすがずに干しても大丈夫」との評判が広がり、それをきっかけにアウトドア業界でも販売されるようになった。ただし、「すすぎなしは災害時の特殊ケース。通常は1回すすいで汚れをしっかり落としてほしい」と田澤氏は補足する。
竹資源を循環させて里山の整備、地域の活性化も

「竹の利活用は事業として成り立たせることが大事」と田澤氏は強調する。安易に安売りをせず、竹に付加価値を付けて相応の価格で販売している田澤氏の信念だ。「ボランティアや補助金に頼ることなく、竹林の管理者や伐採事業者、加工・製造や販売の事業者など、関わる人たちすべてが利益を得ることで初めて事業が継続できる」と田澤氏。竹という資源を循環させる事業を長年にわたって続けていくことで、里山が整備され、ひいては地域の活性化につながっていく。こうしたサステナブルな社会の実現を目指すのが田澤氏の考えだ。
この取り組みに注目したのが防府市に近い宇部市だった。「宇部でもなにかできないか」との市側の打診を受けて誕生したのが竹ラボだ。「これまでの事業活動を通じて得た、竹に関する多くの知識や情報を次世代へつなげていきたい」(田澤氏)として開設された竹ラボだが、地域の伝統にも大きく貢献した。施設の1階には旧小野中学校の生徒が使っていた紙漉場が残され、隣接する小野小学校の児童が卒業証書用の和紙を作っている。市職員で現在は竹ラボで広報紙を担当している中村健司氏は「廃校で途絶えた地域の伝統が竹ラボのおかげで復活できた」と話す。
業界団体からも表彰、「仲間入りできたと実感」

2023年8月には、行政・地域・民間の総合連携プラットフォーム「YAMAGUCHI Bamboo Mission(YBM)」が発足した。全国4位の竹林面積を有する山口県が継続的に地域の竹を利用していくことを目標に立ち上げ、竹の伐採・供給関係者や研究開発関係者、加工・製造・販売事業者、支援機関などが結集。これまでに各種イベントや竹林での勉強会などを実施し、県内外、さらには海外へも竹に関する情報発信を行っている。「行政や地域、民間が横連携し、効率的に取り組みを進めていきたい」と田澤氏は意気込みを語る。
エシカルバンブーの取り組みは全国的にも高く評価され、2023年11月には第11回グッドライフアワードの環境大臣賞・地域コミュニティ部門を獲得するなど数々の賞に輝いた。そのなかでも今年2月の日本特用林産振興会からの表彰は格別だったという。同振興会は、食用きのこ類や山菜、竹など、森林で採れる木材以外の産物(特用林産)に関わる業界団体で、これまで表彰されたのは長年にわたって伝統的な手法で特用林産の振興に尽力した人たちばかり。「振興会からの表彰は、これまでとは違った新たな取り組みを業界が認めてくれたといえる。私たちも業界の仲間入りができたと実感した」と田澤氏は話す。
フランチャイズ展開で「竹財」の利活用を全国へ

現在、所有を含めてエシカルバンブーが管理する竹林は約100haと、東京ドーム約21個分の広さ。また、同社の工場で使用する竹の量は1日あたり500~600本程度。起業当初に比べれば増加しているものの、「放置されている竹林を整備していくには全然足りない」(田澤氏)という。
竹林の放置や竹害が全国各地で発生しているなか、同社だけの取り組みでは手に負えない。そこで田澤氏が目指すのはフランチャイズ展開だ。「私たちをロールモデルにして、それぞれの地域の竹の特徴、さらに歴史や文化、伝統などを考慮したうえで、その地域にふさわしい竹製品を生産してもらいたい」と田澤氏。行政や事業者、地域住民と連携し、それまで未利用だった竹を「竹財」として利活用している同社の取り組みを、山口から全国に広げたいとしている。
企業データ
- 企業名
- エシカルバンブー株式会社
- Webサイト
- 設立
- (創業)2016年9月
- 資本金
- 500万円
- 従業員数
- 約 20 人(時期により多少前後あり)
- 代表者
- 田澤恵津子 氏
- 所在地
- 山口県防府市真尾12-1
- 事業内容
- 竹を使用した製品の企画・製造・販売・卸・輸出入(竹炭、竹灰、竹酢液) ▽竹水を使用した製品の企画・製造・販売・卸・輸出入(竹洗剤、竹虫よけスプレー)