支援機関によるカーボンニュートラル支援事例

省エネ診断を契機にカーボンニュートラルを意識 商工会議所の伴走支援によって脱炭素化を目指す:浜松商工会議所(静岡県浜松市)

2024年 4月 25日


会員企業の脱炭素化を支援し、経営力の向上に寄与【浜松商工会議所】

浜松商工会議所

浜松商工会議所

機関分類:商工会議所

所在地:静岡県浜松市中央区東伊場2-7-1

電話:053-452-1116

Webサイトhttps://www.hamamatsu-cci.or.jp/

浜松商工会議所

専門家派遣による省エネ診断の紹介と実施、脱炭素経営サポート人材の派遣、支援企業のマッチング情報や各種補助金情報の提供、再エネを活用した新事業のサポートなど、カーボンニュートラルの実現に向けた支援を実施している。省エネの取り組みの第一歩となる現状のCO2排出量を把握するため、浜松商工会議所が入居しているビルの省エネ診断を実施。専門家による診断結果で見えてきた課題を会員企業に提供し、省エネの取り組みに気付きを与える活動も行っている。

支援事例

企業データ

企業名
沢根スプリング株式会社
Webサイト
設立
1966年(昭和41年)年5月
従業員数
53名
所在地
静岡県浜松市中央区小沢渡町1356
業種
製造業

医療機器用、産業ロボット用、光学機器用ほか、各種ばね及びワイヤー加工品の製造販売。オリジナル商品の開発にも力を入れており、カスタムオーダーによる1個からの小ロットでの製造にも対応。ばね分野における新しい価値の創造を目指し、日々挑戦している。

沢根スプリング株式会社

[経緯]
取引先が話題にするカーボンニュートラルの取り組みを強く認識

ばねの製造に必要な機器は、すべて電気を使っている。そのため、沢根氏(写真)は、電気代の高騰に頭を痛めていたという
ばねの製造に必要な機器は、すべて電気を使っている。そのため、沢根氏(写真)は、電気代の高騰に頭を痛めていたという

1966年5月、沢根スプリング株式会社は、多くの製造業が集結する静岡県浜松市において、大手自動車メーカー向けのスプリングコイル(ばね)の製造会社として創業した。その後、自動車以外の分野に進出。長年のばねづくりで培った技術力を武器に、医療機器用や産業ロボット用、光学機器用など、緻密かつ高い精度が求められるばねの開発・製造にも力を入れている。

同社の三代目である代表取締役 沢根巨樹氏は、取引先との話し合いの中で、自社の脱炭素の取り組みの必要性を意識した。
「お客様から、カーボンニュートラルや脱炭素について、『御社ではどんな取り組みをしていますか』といった質問をされることがありました。そのあたりから、カーボンニュートラルについて関心を持ち始めるようになりました。また、とある企業からアンケートを依頼され、脱炭素に関する項目に回答しました。このような流れから、これはもはや要請に近いと受け止め、できるだけ早く取り組まなければという結論に至りました」(沢根氏)

現時点で要請ではないにせよ、脱炭素の取り組みが間接的な条件と提示されているケースがあるという。
また、沢根氏は、このところの電気代の高騰による光熱費の値上がりにも悩んでいた。
「一番高かったのは、2022年12月頃で、過去の電気代と比べると約2倍になりました。そこで、思い切って電力会社を変更し、これから本格的に省エネに取り組んでいこうと考えていました。そんな時、浜松商工会議所から省エネ診断を紹介され、これはベストなタイミングだと思い、お願いすることにしました」(沢根氏)

[現状掌握]
商工会議所が省エネ診断を実施し、事業者の脱炭素化を啓発

沢根スプリング株式会社 取締役会長 沢根孝佳氏(写真左)と、今後の脱炭素経営について協議する代表取締役 沢根巨樹氏(写真右)
沢根スプリング株式会社 取締役会長 沢根孝佳氏(写真左)と、今後の脱炭素経営について協議する代表取締役 沢根巨樹氏(写真右)

浜松商工会議所には、浜松地域の半数以上となる約1万3500の事業者が会員登録している。商工会議所として、会員企業の今後のカーボンニュートラルの取り組み、また具体的な支援策についてどのように考えているのか。浜松商工会議所 産業振興部 工業振興課 新海悟氏に聞いた。
「浜松という土地柄、製造業が多く、会員企業から省エネ診断やカーボンニュートラルの取り組みについて相談があるたびに、カーボンニュートラルについて何か支援できないか、と思うようになったのがきっかけです。そこでまず私たち自身、つまり浜松商工会議所会館のCO2排出量を把握することから始めました。省エネルギーセンターの省エネ最適化診断でCO2排出量を可視化し、専門家から電気料金やCO2排出量がどの程度削減可能なのか、といった数値目標の提案もいただきました。後日、その診断結果を公表し、カーボンニュートラルの正しい知識や、省エネ診断の内容、具体的な取り組み方などを事業者に知ってもらいたいと考えました」(新海氏)

浜松商工会議所が、会員向けに発行する地域密着の経済情報誌「NEWing」内に、「みんなでカーボンニュートラル 省エネ診断」という連載記事がある。同企画をスタートさせたのは、カーボンニュートラルについて事業者に関心を持ってもらいたいという狙いがあったからだ。
「会員企業のカーボンニュートラル事例を掲載し、他人事ではなく、自分事として捉えてほしいということで始めました。先般、沢根スプリング様にこの省エネ診断を提案した理由の一つには、実はこの企画にご協力してもらいたいという思いがありました」(新海氏)

沢根スプリングは、省エネやカーボンニュートラルへの関心が高かったこともあり、省エネ診断の受診を快諾した。

[解決策]
投資改善を積極的に実施し、さらなる省エネ化を目指す

省エネ診断を受診し、CO2排出量を可視化。さらに、売上高に対するエネルギー消費量を算出したところ、同業他社と比較して約3分の1程度という結果が報告された。
「弊社が省エネ型の企業であるということが分かったので、これまで自社で進めてきた省エネの取り組みは間違っていなかったと思いました。残業を極力減らしたため、工場の操業時間を抑えられ、それが省エネに繋がっているのだと思います」(沢根氏)

ばねの製造には、ピアノ線やステンレス鋼線などの素材をばね状に成形する成形機、熱処理する電気炉、ばねの両端を削る研磨機といった機器が使われており、それらの機器の動力はすべて電気を使用している。電力消費を減らすことが省エネに繋がるが、工場を日々稼働させている以上、使用電力を大幅に下げることは難しい。だが、沢根スプリングのように操業時間を正しく決めておき、終業したら電気を止めるといった取り組みをすることでも、省エネに繋げることができる。こうした取り組みのうえで、さらに専門家からは次のような改善提案がされた。

① 事務所換気量の低減

② 空調機設定温度の緩和

③ 北工場・エア漏れの削減

④ コンベア式熱処理開口部からの侵入空気量削減

⑤ インバーターコンプレッサーへの更新

⑥ 集塵機のインバーター化

⑦ 南工場室外機への風向調整板取り付け

これに対し、沢根スプリングは以下のように取り組んだ。

① 各部屋に二酸化炭素の濃度を可視化できるデバイスを取り付け、設定したレベルに達しなければ必要以上に換気を行わないということで対処した。これにより、エアコンの効率が高まり、消費電力を抑えることができた。

② 天井部のエアコンの吹き出し口にハイブリッドファンを装着。風の力で空気を循環させることで、エアコンの効率アップを図った。

③ メインホースを交換し、エア漏れによるロスを見直した。

④ 開口部にカバーを設置し、電気炉の熱が外に逃げないように工夫した。

⑤ 次の更新のタイミングで検討する予定。

⑥ 2024年度内に更新する予定。

⑦ フェンスを設置し、空気の流れを調整した。

省エネ診断を終え、これからのカーボンニュートラルの支援について浜松商工会議所は、
「沢根スプリング様から、建物の断熱や遮熱、太陽光パネルによる自家発電について取り組みたいという声をいただきました。その際、何か補助金があればお願いしたいとのことでしたので、こちらで補助金情報を探して提案しました」(新海氏)

(写真左)コンベア式熱処理開口部からの侵入空気量を削減するため、開口部の上部にカバーを設置した (写真右)室外機に風向調節板を取り付けたことで、吹き出す風の方向が調節され、空気の循環がスムーズになった
(写真左)コンベア式熱処理開口部からの侵入空気量を削減するため、開口部の上部にカバーを設置した
(写真右)室外機に風向調節板を取り付けたことで、吹き出す風の方向が調節され、空気の循環がスムーズになった

[伴走支援・今後の取り組み]
カーボンニュートラル診断で2050年に向けた取り組みを検討

「沢根スプリング様は自社で省エネの取り組みを進めており、脱炭素経営にも前向きな印象を受けた」と語る新海氏
「沢根スプリング様は自社で省エネの取り組みを進めており、脱炭素経営にも前向きな印象を受けた」と語る新海氏

沢根スプリングにとって、省エネ診断を受診したことが、具体的な取り組みを始めるきっかけになったという。
「専門家の診断を受けて確証が得られたことで、工場見学に来られたお客様に“弊社は省エネ型の企業です”と公表できるようになりました。ばねは加工する機械さえあれば、世界中どこでも同じ製品を作ることができてしまいます。そのため、弊社は自社で製品を設計し、汎用機を使わないばねの製造に力を入れています。他社では真似できない付加価値の高いばねを販売したところ、少しずつですが海外からも問い合わせが来るようになりました。今後は取引先から脱炭素化の取り組みを聞かれる前に、自社のカーボンニュートラルの取り組みをしっかり発信できる企業になりたいと思っています」(沢根氏)

今後の支援について、浜松商工会議所に聞いた。
「省エネ診断は、5〜10年先の省エネの取り組みになりますが、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みに対しては、カーボンニュートラル診断というものがございます。先日、この診断を沢根スプリング様に受診していただきました。その結果が出たら、今後の取り組みについても伴走支援していきたいと思っています」(新海氏)

カーボンニュートラル診断は、浜松商工会議所を含む地元機関(浜松市、浜松地域イノベーション推進機構、静岡銀行、浜松いわた信用金庫、遠州信用金庫、浜松新電力)とともに発足した「浜松地域脱炭素経営支援コンソーシアム」が実施している。これまでは各機関が個別に支援していたが、今後は支援機関が連携することで地域企業の脱炭素経営の実現を目指していくという。

担当支援機関からのひと言

浜松商工会議所 産業振興部 工業振興課
新海悟氏

浜松商工会議所会館が省エネ診断を受診し、その後一年間(2022年7月〜2023年6月)報告書に記載された内容改善提案を取り組んだところ、取り組み前と比較して電力使用量を年間13.7%削減し、電気料金を約300万円削減することができました。これほど大きな成果が出るとは思っていなかったので、省エネ診断の効果を実感しております。よく、事業者に省エネ診断を紹介すると、「本当にやる意味あるの?」という声をいただくことがありますが、省エネやカーボンニュートラルの取り組みにはメリットがあるということを、事業者にしっかり伝えることが大事だと思っています。

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