支援機関によるカーボンニュートラル支援事例

特別貸付制度の適用要件で省エネ診断を提案 事業者の省エネ意識を高め、脱炭素経営を加速:日本政策金融公庫 神戸支店(兵庫県神戸市)

2024年 4月 25日


脱炭素経営に向けた資金面と情報面の双方から支援【日本政策金融公庫 神戸支店】

日本政策金融公庫 神戸支店

日本政策金融公庫 神戸支店

機関分類:政府系金融機関

所在地:兵庫県神戸市中央区東川崎町1-7-4 ハーバーランドダイヤニッセイビル13階

電話:078-362-5961(直通)

Webサイトhttps://www.jfc.go.jp/n/branch/index.html

日本政策金融公庫 神戸支店

政策金融機関として、中小企業事業では、各種事業資金の融資をはじめ、新事業・スタートアップ、事業承継、海外展開、事業再生など中小事業者が抱えている経営課題の解決に向けた支援を実施。環境・エネルギー対策資金や、2022年4月から兵庫県と連携し、地域活性化・雇用促進資金(地方創生関連)の運用を開始するなど、カーボンニュートラルに取り組む事業者に対して、資金面と情報面の双方から支援する体制を整えている。

支援事例

企業データ

企業名
嶋本ダイカスト株式会社
Webサイト
設立
1960年(昭和35年)年4月
従業員数
153名
所在地
兵庫県神戸市西区見津が丘2-3-6
業種
製造業(アルミダイカスト製品)

自動車関連、ガス器具、電化器機、通信機器、産業機械等に使用されるアルミ製の小型精密パーツを製造。金型の設計から、精密鋳造、精密加工、表面処理に至るまで、製品完成までのすべての業務を請け負う。

嶋本ダイカスト株式会社

[経緯]
取引先から指導を受ける前に、少しずつ対応を進めておきたい

アルミダイカストの製造工程では、電気炉、成形機、穴開け機、研磨機等の機器を使用している
アルミダイカストの製造工程では、電気炉、成形機、穴開け機、研磨機等の機器を使用している

1951年、ミシンやガス器具の一部に使われるアルミダイカスト部品の製造会社として創業した。当時は、従業員が7〜8人足らずの零細企業で、取引先からの注文に合わせて、多品種少ロットで生産していた。ところが、その後自動車メーカー向けに部品を製造するようになると、生産体制を一気に拡大。1999年、現在の神戸複合産業団地に移転し、これまで3つの工場を建設。2021年には、長崎に新工場を設立し、事業を着実に成長させていった。

嶋本ダイカスト株式会社 代表取締役 島本一成氏は、祖父が創業した同社を幼い頃から見てきた。
「自動車部品を製造するようになった頃、会社がダイナミックに変わりました。どんどん作らないと間に合わなくなり、生産キャパを増やして対応していました。お客様が求めるなら、どんなことでもそれに応えるのが、私たちの使命だと思っています」(島本氏)

素材となるアルミニウムインゴットを溶解する際、炉から大量の熱が放出されている。同社の工場がカーボンニュートラルの問題と非常に密接な関係があることを島本氏は理解しているが、カーボンニュートラルについて本格的に考えるようになったのは、取引先からの実態調査だった。
「現時点でお客様から、カーボンニュートラルについての取り組みや、削減目標の設定などといった直接の指示はありませんが、実態調査などでそういった話題に少しずつ触れてきているのは事実です。もし、今後指導があった場合、すぐに対応できるようにしておくことが大切だと思っています。そのため、今のうちから設備投資はもちろん、従業員のカーボンニュートラルに対する意識を醸成させていこうと考えています」(島本氏)

取引先から指導を受ける前に、自社で少しずつ対応を進めておく。島本氏は、カーボンニュートラルへの積極的な取り組みが今後必要になると考えていた。

[現状掌握]
事業者の脱炭素化の取り組みを促進する特別貸付制度を活用

島本氏(写真左)と省エネ診断について議論する日本公庫神戸支店 支店長 兼中小企業事業統轄 奥山浩己氏(写真右)
島本氏(写真左)と省エネ診断について議論する日本公庫神戸支店 支店長 兼中小企業事業統轄 奥山浩己氏(写真右)

嶋本ダイカストに対し、これまで各種融資や販路拡大、事業承継等で支援してきた日本政策金融公庫(以下、日本公庫)神戸支店。同支店長 兼中小企業事業統轄 奥山浩己氏に、中小事業者へのカーボンニュートラル支援について聞いた。
「日本公庫は、日本経済の成長・発展への貢献を行ううえで、経営方針の中で脱炭素などの環境・エネルギー対策を不可欠なものとして明確に打ち出しています。気候変動による脅威が年々深刻化する中で、今後はよりハイレベルな温室効果ガス排出量の削減が求められるようになると思います。公庫として、国の政策と事業者や地域を繋ぎ、支える役割を果たすことが求められており、カーボンニュートラルの支援に取り組んでいます」(奥山氏)

こうした考え方のもと、日本政策金融公庫総合研究所は、温室効果ガス排出量の削減に向けた中小事業者の取り組みの現状を把握するため、中小企業に対し、脱炭素化への取り組みに関する調査を実施した。それによると、3年後までに取り組む方針があるかという問いに対し、

  • 経営の負担になっても進めたい……………5.7%
  • 経営の負担にならない範囲で進めたい……65.1%
  • あまり積極的に進めるつもりはない………29.2%

約7割が取り組みに対して前向きに検討しているものの、経営の負担になっても取り組もうという経営者が少数であることが分かった。また、温室効果ガスを削減するうえで課題になっているのは、

  • コストが増える………………………………23.0%
  • 手間がかかる…………………………………15.0%
  • 資金が不足している…………………………14.1%
  • どう取り組めば良いのか分からない………13.2%
  • 必要なノウハウや人材が不足している……9.8%

脱炭素化の取り組みにあたって、資金面、オペレーション面、情報面の課題が存在していることが浮き彫りになった。
「公庫は、融資を通じた資金面での支援と、補助金等の情報面での支援、この双方の支援を行っていく必要があると考えています」(奥山氏)

日本公庫神戸支店は兵庫県と連携して、2022年4月に「地域活性化・雇用促進資金(地方創生関連)」の運用を開始した。
「同制度による融資は、事業者のカーボンニュートラルの取り組みを後押しするためのものになります。利用できる事業者には、いくつかの要件がありますが、その一つとして、一般財団法人省エネルギーセンターが実施する省エネ最適化診断を受診していただく必要がございました」(奥山氏)

日本公庫は、同制度融資の適用を見据えて、嶋本ダイカストに省エネ診断を提案。カーボンニュートラルの取り組みについて検討していた島本氏は、すぐに受診を決めた。

[解決策]
診断結果は良好。今後は設備投資にも力を入れていく

嶋本ダイカストは、これまで省エネ診断のような専門家による評価・提案を受けたことがなかったという。
「省エネ診断を受けるという発想がありませんでした。日本公庫から紹介いただき、専門家ならではの視点でいろいろなことを提案いただいたので、非常に良かったと思っています。自社の省エネの取り組みがどこまで実践できているのかを把握できたので、次のステップに繋がると思いました」(島本氏)

2022年6月、省エネ診断の専門家が第2工場を診断。同年8月の診断報告を、製造担当と環境担当の従業員とともに聞いた。
嶋本ダイカストのCO2排出量を可視化すると、工場の消費エネルギーのうち電力が60%、ガスが40%。また、全体評価は5.0満点中の4.6点という結果になった。
「点数を見る限り、それほど悪くなかったという印象です。やはり、日ごろからエネルギーを大量に消費しているという認識があるので、旧タイプの炉では環境への影響が大きくなると判断し、随時最新の設備に切り替えるようにしていることが良かったと思っています」(島本氏)
そのうえで、専門家から次のような改善提案が出された。

① 低放射遮熱塗料による金属溶解炉の遮熱損失低減

② 廃熱の再利用

③ 蛍光灯照明のLED化

④ 変圧器(省エネルギータイプ)の更新

⑤ 空調、コンプレッサーの吸い込み空気温度の低下

上記の提案に対して嶋本ダイカストは、

① 遮熱塗料より効果が高い遮熱シートの導入を現在検討中。

② 今後の課題にしている。

③ 工場内照明はすべてLED化済み。

④ ⑤ 機器更新のタイミングで検討予定。

すぐに取りかかれる運用改善については社内で対応しているが、一方で設備投資による改善提案に関しては、今後の課題になっている部分もある。
「将来的には工場の屋根に太陽光パネルを設置したいという話も伺っております。設備投資で多額の資金が必要になった場合は、公庫と地域の金融機関が協調しながら、カーボンニュートラルの推進を応援していきたいと思っています」(奥山氏)

(写真左)エネルギー管理状況の平均点は、4.6点でAランクと診断された (写真中央)工場内の照明はすべてLED化されている (写真右)大量の熱を発生する融解炉に遮熱シートを取り付ける予定にしている
(写真左)エネルギー管理状況の平均点は、4.6点でAランクと診断された
(写真中央)工場内の照明はすべてLED化されている
(写真右)大量の熱を発生する融解炉に遮熱シートを取り付ける予定にしている

[伴走支援・今後の取り組み]
脱炭素化の取り組みを加速させ、企業力を強化する支援を実施

「これからはカーボンニュートラルに取り組む企業こそが、消費者や取引先から信頼を得ていくものと考えている」と奥山氏
「これからはカーボンニュートラルに取り組む企業こそが、消費者や取引先から信頼を得ていくものと考えている」と奥山氏

今後の取り組みとして、工場建屋を新築・増築するタイミングに合わせて、太陽光パネルの設置を検討しているとのこと。ところで、カーボンニュートラルの取り組みに、なぜこれほど前向きになることができたのか。島本氏に聞いた。
「カーボンニュートラルの取り組みは、今後避けて通れない話だと思っています。我々はお客様の受注を確保することが最優先です。お客様がカーボンニュートラルを目指して走るのであれば、当然その方向に向かって一緒に走らなければなりません。いつかはカーボンニュートラルに取り組むことになるわけですから、できるだけ早く対応すれば、より大きな成果が出るだろうし、投資を抑えることができるかもしれません。また、そこから技術やノウハウが蓄積されれば、逆にこちらからお客様に取り組みのアイデアを提案するといったことも可能になると思います」(島本氏)

日本公庫は今後のカーボンニュートラル支援について、
「今回の嶋本ダイカスト様の支援が、地域活性化・雇用促進資金(地方創生関連)の第一号の適用案件になりました。この事例を公庫内の掲示板で公開したところ、高知支店においても高知県と連携した類似の融資制度を開始していると聞きました。これからも特別貸付制度等を活用してカーボンニュートラル支援に注力していきたいと考えております」(奥山氏)

今後は省エネ診断の提案にとどまらず、中小企業基盤整備機構 近畿本部と連携し、専門家派遣によるハンズオン支援で、事業者のさらなるカーボンニュートラルの取り組みを支援していくという。

担当支援機関からのひと言

日本政策金融公庫 神戸支店支店長 兼中小企業事業統轄
奥山浩己氏

省エネ診断というと、嶋本ダイカスト様のように熱を大量に使う製造業に適しているイメージがありますが、この省エネ診断をある倉庫業の事業者に受診していただいたところ、経営者の方が非常に喜んでいたという話を聞きました。倉庫業の方は、省エネ診断によってコストを削減できると思っていなかったようですが、実際に受けてみたら着実にコスト削減に繋がる提案を受けられたそうです。そういった意味でも、国の重要施策であるカーボンニュートラルの取り組みは業種関係なく、すべての中小事業者が取り組むべき課題だと感じています。

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