支援機関によるカーボンニュートラル支援事例

地元金融機関の支援で脱炭素化の取り組みを実施 2028年までにCO2排出量16.8%削減を目指す:岐阜信用金庫(岐阜県岐阜市)

2024年 4月 25日


信金初となるサステナビリティ・リンク・ローンを提供【岐阜信用金庫】

岐阜信用金庫 ソリューション営業部

岐阜信用金庫

機関分類:信用金庫

所在地:岐阜県岐阜市神田町6-11

電話:058-266-2328(代表)

Webサイトhttps://www.gifushin.co.jp/

岐阜信用金庫

地域密着型の金融機関として、愛知県内に29店舗、岐阜県内に60店舗を構える。信用金庫業界で初の取り組みとなるフレームワーク型「ぎふしんサステナビリティ・リンク・ローン(ぎふしんSLL)」を2023年3月より提供開始。中小事業者の脱炭素化を啓蒙し、カーボンニュートラルに取り組むきっかけとなる情報提供や、具体的な施策支援によって脱炭素化を後押ししている。

支援事例

企業データ

企業名
堀江織物株式会社
Webサイト
設立
1969年(昭和44年)7月
従業員数
86名
所在地
愛知県一宮市髙田字七夕田28
業種
印刷業(布印刷・加工)

シルクスクリーン印刷や各種デジタルプリント印刷による広告用のぼりや横断幕、企業ノベルティグッズ等を制作。縫製や加工等も自社で行う一貫体制を構築している。近年はオンデマンドアパレルにも力を入れ、一枚から制作できるオリジナルのTシャツやバック、各種グッズ等の制作も受注している。

堀江織物株式会社

[経緯]
2050年に向けて対策をしないと、企業は淘汰されると思った

「従業員の雇用を守りたいし、皆が気持ちよく働ける環境にすることも大切。ずっと存続できる会社でありたい」と語った武田氏
「従業員の雇用を守りたいし、皆が気持ちよく働ける環境にすることも大切。ずっと存続できる会社でありたい」と語った武田氏

1950年、合繊織物の製造会社として創業。1975年にのぼり旗や紅白幕等の店舗販促物を製造したことをきっかけに、広告用のぼりや横断幕、企業ノベルティグッズなどの制作を受注するようになった。主力のシルクスクリーン印刷をはじめ、昇華転写印刷、ダイレクト印刷、Latex印刷といった各種印刷方法に対応することで顧客のニーズを幅広く獲得し、事業を着実に拡大させてきた。2019年にオンデマンドアパレル事業を開始、2021年には新工場を設立した。

同社 代表取締役社長 武田浩志氏は、同事業を手掛けるようになったことで、環境を強く意識するようになったという。
「通常のアパレル製品は、商品を大量生産し、売れなくなったら廃棄処分されてしまいますが、オンデマンド印刷なら受注した分だけ生産すればいいので、環境に優しいと考えていました。とはいえ、印刷機やアイロンなどで電力を消費するので、事業を始めたものの、このまま作り続けてもただの見せかけのエコに過ぎないのでは、と思うようになってしまいました」(武田氏)

同社は2021年にSDGs(持続可能な開発目標)宣言し、その中で事業活動において発生するCO2排出量の削減や高度な排水処理を通じて環境保全に貢献することを公言している。
「脱炭素について詳しく調べていくと、2030年や2050年に向けて明確な目標があることを知りました。だからこそ、企業はそこに向かって取り組まないと、今後淘汰されるのではないかと。2030年はもうすぐなので、これは一刻も早く取り組むべきだと思いました」(武田氏)

本社屋上に太陽光パネルの設置を検討していたが、そのほかの脱炭素化に向けた具体的な取り組み方は分からなかった。そこで、日ごろから経営に関してアドバイスを受けていた岐阜信用金庫に相談した。

[現状掌握]
信用金庫が脱炭素化の取り組みに踏み出す第一歩を提案

武田氏(写真左)からの相談を受け、丹羽氏(写真右)は専門家を紹介し、CO2排出量の可視化を提案した
武田氏(写真左)からの相談を受け、丹羽氏(写真右)は専門家を紹介し、CO2排出量の可視化を提案した

岐阜信用金庫は岐阜県岐阜市に本店を構え、愛知県内や岐阜県内にある多くの中小事業者から信頼されている金融機関である。堀江織物株式会社を担当する木曽川支店 丹羽功太氏は、
「お話を頂いた段階で既に本社屋上の太陽光パネル設置に前向きに取り組んでいらっしゃったので、脱炭素化にとても関心の高い事業者だと思いました。そんな武田社長から相談を受けたので、まずは専門家(e-dash)を紹介し、現状のCO2排出量を可視化することから始めていただきました」(丹羽氏)
「岐阜信用金庫から、第一歩を踏み出すことの大切さを教えてもらいました。自社のCO2排出量を把握し、月ごとの推移を知り、今後どのような脱炭素の取り組みをすればいいのかを専門家から教えてもらえるので、これで本格的に進められると思いました」(武田氏)

工場内にある印刷機はすべて電気を使い、印刷後の布を乾燥させるために必要な熱風発生装置はガスを使用している。専門家によるCO2排出量を可視化したところ、CO2排出量の約65%が電力使用であることが分かり、まずは電力を減らす取り組みを検討することにした。
「電気代が一時高騰した際、月200万円になったことがありました。それもあって太陽光パネルの設置を検討していたのですが、2022年12月に本社屋上に設置してからは、消費電力の約1/3を太陽光パネルからの発電で補えるようになりました。まずは消費電力の1/3をグリーンエネルギーに変えられることができて、大変嬉しかったです」(武田氏)

岐阜信用金庫は、脱炭素化社会の実現に向けた取り組みの一環として、2023年4月から「ぎふしんサステナビリティ・リンク・ローン※(以下、ぎふしんSLL)」の提供を開始した。
「環境に対して関心の高い武田社長でしたので、ぎふしんSLLの提供開始とほぼ同時期にいち早くご案内させていただきました」(丹羽氏)

同制度の融資が実行されれば、これまで以上に脱炭素化に取り組めるようになる。武田氏は契約に向けて話を進めた。

※サステナビリティ・リンク・ローンとは、借り手のサステナビリティ(含む脱炭素化)経営を高度化するため、達成目標を設定し、その状況に応じて融資条件を連動させる制度のこと。

[解決策]
パリ協定の水準となる高いCO2排出量削減目標を設定

ぎふしんSLLは、通常のサステナビリティ・リンク・ローンの中でも中小事業者の脱炭素化の取り組みに特化しており、目標をCO2排出量の削減に限定している。では、削減目標はどのように設定しているのか。岐阜信用金庫 ソリューション営業部 春日井琢也氏に聞いた。
「専門家によるCO2排出量を可視化したことで、今後どの程度まで削減できるのかを武田社長と話し合いました。脱炭素化の取り組みを公表するわけですから、中途半端な目標を設定するわけにはいきません。そこで、パリ協定の水準となる「2028年3月期のCO2排出量を(2022年3月期対比で)16.8%削減」という目標を設定しました。これは同社にとってかなり厳しい目標であることは理解していますが、私たちも可能な限り支援を継続しながら目標に向かって一緒に乗り越えていきたいと考えております」(春日井氏)

すでに設置されている本社屋上の太陽光パネル設備に加え、ぎふしんSLL実行後はオンデマンド工場の屋根にも太陽光パネル設備を設置し、自社の発電量を増やすことによってCO2排出量を削減していくという。さらに今後CO2フリー電力に切り替えていくことも検討している。
「年間4.2%という目標に対しての課題はありますが、高い目標を掲げて脱炭素化に取り組むことによって、サプライチェーンの中で選ばれる企業になれると考えています。社会に貢献する企業になれたら、従業員たちが誇りを持って働いてもらえると思っています。今後は全社を挙げて取り組んでいきたいですね」(武田氏)

2023年8月、同社はぎふしんSLLの契約を締結。その後、オンデマンド工場の屋根に太陽光パネルが設置された。現在、同社は岐阜信用金庫の支援を受け、中小企業版SBT認定の取得を目指している。

(写真左)本社とオンデマンド工場のそれぞれの屋根に太陽光パネルが設置されている (写真中央・右)オンデマンドコントローラーを設置し、消費電力を常時モニタリングしている。電力が一定値を超えるとアラートが鳴る仕組みで、設置後は従業員が自ら節電に取り組むようになった
(写真左)本社とオンデマンド工場のそれぞれの屋根に太陽光パネルが設置されている
(写真中央・右)オンデマンドコントローラーを設置し、消費電力を常時モニタリングしている。電力が一定値を超えるとアラートが鳴る仕組みで、設置後は従業員が自ら節電に取り組むようになった

[伴走支援・今後の取り組み]
独自の支援プログラムで事業者の脱炭素化をサポート

「脱炭素化の第一歩となるCO2排出量の可視化でさえ困っている事業者がいます。私たちに気軽に相談してほしいですね」(春日井氏)
「脱炭素化の第一歩となるCO2排出量の可視化でさえ困っている事業者がいます。私たちに気軽に相談してほしいですね」(春日井氏)

岐阜信用金庫に相談することで、脱炭素経営への第一歩を踏み出した同社。武田氏は、
「最初はどういったことをすればいいのかまったく分かりませんでしたが、岐阜信用金庫に相談したことがきっかけとなり、専門家によるCO2排出量の可視化や取り組み内容を具体化することができました。専門家に相談できたことで、脱炭素化の取り組みを安心して進められたと思っています。また、ぎふしんSLLを契約できたことで資金繰りの課題が解決し、現在中小企業版SBT認定の取得に向けて取り組めているので、以前より環境を意識した経営を考えられるようになりました」(武田氏)

脱炭素化の支援をした岐阜信用金庫は、
「地域の金融機関ということで、地元の経営者とは非常に密接な関係にあります。今までは資金支援が中心でしたが、これからは本業支援のために何が必要かといった課題に金融機関が取り組むべきだと考えています。カーボンニュートラルの課題もそのひとつです。全世界で脱炭素化の動きが加速する中、自社は関係ないと感じている経営者の方はまだ多くいます。しかし、今から取り組んでおけば将来競争力を高めることができるはずです。そのためにも、脱炭素化支援をより一層推進することが重要だと考えております」(春日井氏)

脱炭素化の取り組みを検討している経営者でも、実際にどうやって進めていいのか分からない、あるいは人手不足のためになかなか実現しないといった悩みを聞く機会が増えているという。そこで岐阜信用金庫では、中小事業者における脱炭素化支援を「GREENパッケージ」として提案し、以下の8つの項目に対して支援している。

[GREENパッケージの支援内容]

① 自社のCO2排出削減に向けた取り組み

 Step1: 脱炭素化の必要性の啓蒙・教育
 Step2: 現状のCO2排出状況の見えるか
 Step3: 削減目標設定(原則、SBT認証取得)
 Step4: 削減アクションプランの見える化
 Step5: 設備導入に関する環境補助金活用支援
 Step6: SLLによる企業PR(ブランド化)支援

② グリーン自家発電

 Step7: 再生可能エネルギーでの自家発電導入

③ 金融によるCO2削減

 Step8: Jクレジット等による排出削減の支援

経営者と近い存在の信用金庫だからこそ、脱炭素化の第一歩を踏み出すきっかけを作ることができると語った春日井氏。カーボンニュートラル社会実現のために、これからも脱炭素化の重要性を訴え、中小事業者に対して継続的に支援していくという。

担当支援機関からのひと言

岐阜信用金庫 ソリューション営業部
春日井琢也氏

脱炭素化の取り組みは、企業ブランド価値の向上に繋がります。そのため、事業者が独自に削減目標を設定するよりも、信頼できる金融機関や専門機関を巻き込み、共に目標を設定し、達成に向けた取り組みを外部に積極的に公表することが重要だと考えています。金融機関が毎年削減目標の達成状況をモニタリングし、不足している場合は追加支援を実施する。このような金融機関による伴走支援が、経営者にとって非常に付加価値があると考えています。

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