中小企業とDX

“ものづくりのまち”の伝統「仲間まわし」をデジタル化、全国展開へ【I-OTA合同会社(東京都大田区)】

2023年 9月 28日

東京都大田区の町工場など約80社が参画するI-OTA
東京都大田区の町工場など約80社が参画するI-OTA

町工場が集積する東京都大田区。その“ものづくりのまち”から生まれたプロジェクト型共同事業体(コンソーシアム)がI-OTA(アイオータ)合同会社だ。町工場が連携するという昔ながらの「仲間まわし」でビジネスチャンスを最大限に活かしていこうとして5年前に設立。その伝統文化をデジタル化し、今年6月には日本DX大賞のBX(ビジネストランスフォーメーション=ビジネスモデルの変革や新規事業につながったプロジェクトが対象)部門で優秀賞を受賞した。現在は仲間となる中小製造業を全国から募っており、代表社員の國廣愛彦(よしひこ)氏は「独自の技術とやる気を持った町工場が結集し、ビジネスチャンスを広げていきたい」と話している。

ビジネスチャンスを逃さず、下請けからの脱却も目指す

代表社員の國廣愛彦氏
代表社員の國廣愛彦氏

東京湾沿いに位置する大田区では古くから製造業が盛んで、とくに1923年の関東大震災後に東京の中心部から多くの工場が移転してきたという。事業者数は1980年代をピークに減少してきたが、現在も約3500社が集積し、機械金属加工や精密加工など長年培われてきた独自の技術で日本のものづくりを支え続けている。

日本屈指の“ものづくりのまち”である大田区では、大手企業からの受注に対し、複数の町工場がそれぞれの得意分野を活かす形で分業して仕事を仕上げるという「仲間まわし」という伝統文化があった。町工場の減少もあって薄れてきた「仲間まわし」を新たな形で活用していこうと、プロジェクト型共同事業体として誕生したのがI-OTAである。町工場の若手経営者らが中心となって2018年に設立した。

代表社員の國廣氏が代表取締役をつとめるフルハートジャパンなどがハブ企業となって案件を獲得し、参画企業の中で案件に必要な技術を持った企業が連携していく。自分たちの希望に合った依頼先を探すのが大変だという発注者側にとってもワンストップで相談できるというメリットがある。國廣氏は「町工場が協力して技術を補完し合うことでビジネスチャンスを逃さず利益につなげていく。コンソーシアムという組織化によって、発注者である大手企業に対して価格面などの交渉力を高め、下請けからの脱却も進めたい」と話している。

傾斜地用草刈りロボットを開発

ワイヤー牽引式で急斜面にも対応できる「斜刈機」
ワイヤー牽引式で急斜面にも対応できる「斜刈機」

I-OTAはすでに実績を重ねている。そのひとつが、国立研究開発法人である農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)との共同研究に基づいて開発した傾斜地用草刈りロボット「斜刈機(しゃかりき)」だ。日本国内に多い中山間地や急傾斜地の農地の草刈りを楽にしたいという農家の声を受け、農研機構が連携先を模索していた。そんな折、2019年3月にさいたま市内で開催された農業機械技術クラスター総会でI-OTAのメンバーが「農業の知見はないが、ものづくりには自信がある」と発表。それを聞いた農研機構が連携を打診し、その場で話がまとまったという。

様々な分野のプロフェッショナルが集まる大田区の町工場の技術を結集し、約2年間かけて開発された「斜刈機」は、業界初のワイヤー牽引式で50度超の急斜面にも対応できる。軽量化と低コストも実現し、すでに商品化の手前まできている。農研機構とはこのほかにも、降雨後の土壌でも播種できる次世代型の農耕機「畝立て乾田直播(ちょくは)機」を共同開発している。

相談者のアイデアを形にしていく「プラッとものづくり」

インターネットで閲覧できる「プラッとものづくり」
インターネットで閲覧できる「プラッとものづくり」

I-OTAが次に手掛けたのが「仲間まわし」のデジタル化だった。大田区の町工場では今でも情報のやり取りを電話やファクスなどで行うことが多い。しかし、アナログ的な手法では情報の見落としや錯誤も起きやすい。ITツールの活用による情報の共有化が必要だとして3年ほど前にDXに向けた取り組みに着手。生産管理システム「TECHS(テックス)シリーズ」など中小製造業向けのITツールの開発・提供を行っているテクノア(岐阜市)と連携してデジタル受発注の仕組みづくりを進めることになった。こうしてクラウドサービス「プラッとものづくり」が構築され、昨年8月に運用が始まった。

「プラッとものづくり」は、インターネットで閲覧でき、アプリのインストールは不要。使い勝手にはとくに気を使い、相談する際の入力画面については「詳細な内容を書いてもらうとなると、その時点であきらめてしまう人も出てくる」(國廣氏)としてシンプルなものに。図面がなくても問題はなく、ふわっとした内容でも対応できるという。「発注者である相談者のアイデアを形にしていくことが狙い」と國廣氏。ただ、予算や納期の見込みについては必須項目としている。予算感やスケジュール感がかけ離れていては、受発注双方にとって時間の無駄となりかねないからだ。

依頼を受けることになる事業者も登録したうえでクラウドサービスを使用する。そのためI-OTAでは、大田区の町工場の経営者らにも「プラッとものづくり」の使い方に習熟してもらおうと、1、2カ月に一度のペースでセミナーを開催している。プラスチック加工を手掛ける堤工業の代表取締役でI-OTAの業務執行社員を務める栗原良一氏は「ITが苦手な経営者は多いが、あまりに簡単なシステムにすると安っぽさが出てしまう。これからもセミナーを開催するなどしてクラウドサービスに慣れてもらえるようにしていきたい」と話している。

見積をコンサルティングとして見合った対価を得ていく

昨年11月に開催した「プラっとものづくり」説明会
昨年11月に開催した「プラっとものづくり」説明会

「プラッとものづくり」によって受発注のスタイルは変わりつつある。インターネット上で情報が共有化されるほか、依頼・見積といった交渉の効率化・迅速化を実現。メールでのやり取りが進み、電話などでありがちな「言った」「言わない」といったトラブルも起きにくい。

デジタル化以降、I-OTAにとってうれしい実績があった。大手企業から、SDGsに貢献する環境状態を計測し、温暖化対策に貢献する計測装置開発に関する技術的知見の支援について依頼があった。I-OTAでは、参画企業が持つ知見や技術力をもとに必要な設備予算について試作段階、量産段階の見積を作成、提案した。この際、I-OTAは企業とアドバイザリー契約を結び、数百万円の対価を得た。國廣氏は「こうした見積は従来、一種のサービスとして無償で提供されていたが、今後はコンサルティングとして、その価値に見合った対価を得ていきたい」と話している。

牽引役として大田区、そして全国の町工場を引っ張っていく

I-OTAは日本DX大賞BX部門で優秀賞を受賞
I-OTAは日本DX大賞BX部門で優秀賞を受賞

I-OTAでは以前から大田区外からも参画企業を募っていたが、今年4月からは、他の地域のものづくりグループの登録も積極的に受け付けることとなった。すでに北海道や四国、九州などの事業者との連携が進んでいる。6月には日本DX大賞の優秀賞を受賞。その影響もあってか問い合わせが増えたという。

國廣氏は「独自の技術とやる気を持った中小製造業者が連携を強化することで、1社だけでは難しい案件にも対応できる。I-OTAが牽引役となって大田区、さらには全国の町工場を引っ張っていきたい」と話している。

企業データ

企業名
I-OTA合同会社
Webサイト
設立
2018年6月
参画企業数
約80社
代表者名
國廣愛彦 氏
所在地
東京都大田区中央3-20-8
事業内容
ものづくりコンサルティング及び試作品や製品の企画・設計・製造、製造業の生産性向上に寄与するITツールの企画・設計・制作・販売及び保守