ITツール活用事例

和包丁のネット販売で職人技を世界に発信

オリジナルの和包丁を企画・製作し、インターネットを通じて世界に販売するエディットジャパン(さいたま市中央区)。たった1人でこのネットショップを運営するのが、代表取締役の坂元晃之氏(39歳)である。高校時代にカナダに3年間留学し、日本の大学を卒業後、日本、米国、ドイツ、台湾の電子部品メーカーを渡り歩いて海外営業経験を積んだ。この経験を生かし、ネットショップとSNSを駆使して、優れた日本の職人文化とモノづくり技術を海外に伝えている。

「10年以上かかわっていた半導体・電子部品の海外ビジネスは、月100万個単位という世界。世界中の人々の生活を支える重要な仕事だが、大量生産品に自分らしさを感じづらくなっていた。それとは真逆のこだわりの逸品、人の顔が見える商品にかかわりたいと思った」—。創業した経緯について坂元氏は振り返る。

思い描いたビジネスは「日本の文化を海外に伝える」というシンプルなもの。英語版のブログを立ち上げ、例えばダルマや神社のお守りの意味など、外国人が興味を持ちそうなことを片っ端から書き込んだ。ただブログだけで稼ぐのは難しい。そんな時、東京ビッグサイト(東京都江東区)で毎年開かれている展示会「ギフトショー」で和包丁を作る職人と出会い、意気投合した。資金面から実店舗を出す余裕はないため、和包丁のネット販売を始めた。

和包丁の魅力を語る坂元氏

異なる産地の職人をコラボレーション

藍包丁(上下の包丁はカバーを付けた姿)

しばらくネット販売するうちに、和包丁の良い点と同時に、改善点も見えてきた。既存品にはない、外国人に受け入れられる新たな価値を生み出す和包丁—。考え抜いた末に行き着いた結論が、「職人コラボレーション」というコンセプトと、2017年1月に発売した第1弾商品「藍包丁」である。

職人コラボは、様々なジャンル・地方の職人がそれぞれの技術を持ち寄り、アイデアを出し合いながら一つの製品を開発していく手法だ。一つの製品で複数の産地が潤うほか、海外で模造品が作りづらくなるため、日本の職人技を守ることにもつながる。

藍包丁は、大阪と徳島の職人技を掛け合わせた製品。包丁の刃は、日本刀鍛冶をルーツに持ち、600年の歴史の中で和包丁の一大産地となった大阪・堺の老舗の刃を採用した。一方、包丁の柄やケースは藍染めで有名な徳島の職人技を取り入れた。抗菌・消臭効果があるとされる藍染めが製品のビジュアル性を際立たせ、ベース木材に腐りづらいヒバ材を使ってビジュアルと機能性を両立させた。

クラウドファンディングとネットショップ作成サービスを活用

刃を作成する青森県の職人・吉澤剛さん

製作に当たっては、不特定多数の人から開発資金を集めるクラウドファンディングを活用した。専用プラットフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」で実施したところ、目標の60万円に達し、商品化を前に潜在顧客約30人を確保した。「藍包丁といっても誰も知らない。クラウドファンディングを使うことで大きなPR効果を生み、その後の販路開拓やメディア露出につながった」という。

販売に際しては、ネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」を採用。初期費用や月額費用がかからず、ローコストで出店できる点が特徴で、参加ショップの商品を随時紹介してくれる販促活動も行う。「テンプレートを使い、見た目が綺麗で使いやすいページを作れる。こだわりのある製品を発信したい人にとって、世界観とメッセージ性のあるショップを作成できるのが利点だ」と坂元氏は語る。

ネットショップは、アマゾンや楽天のようなEC(電子商取引)モールから単独ショップまで種類は多い。ただECモールは集客力がある半面、運営費が高額、個人商店型サイトは運営費が安い半面、集客力が弱い。これに対し、BASEのような中間型サービスは「それなりに集客力があるのに、ローコストで運営できる、いいとこ取りのサービス」と評価する。

「会社のホームページだけだと硬すぎて、問い合わせがこない」と話す坂元氏は、ネットショップやブログと連動させて、少しでもサイトに誘導するよう心がける。特に海外向けは、アマゾンだけでなく、ハンドメイド商品に特化したネットショップ「Etsy(イッチー)」や、世界最大のビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクドイン)」を活用し、SNSを通じて海外顧客約4000人を囲い込む。「海外向けサイトは見た目を大幅に変えないとだめ。外国人が喜ぶツボを押さえたサイトづくりに徹しており、その辺は留学や海外営業経験が生きている」と語る。

オリジナル包丁や柄の付け替えサービスも開始

福井の黒崎優氏は仕上げにもこだわる

2017年末には、プロの料理人向けにオーダーメイドの製作を開始。2018年からは一般向けに2つの商品群を誕生させた。一つは日本各地の職人の技術を選び、自分だけのオリジナル包丁を作成する「Life Knife(ライフ・ナイフ)」。例えば刃は青森県のハガネ、柄は福井県の伝統工芸の漆塗りで作成したり、好きな木目や色を選んだり、名前を入れたりできる。このほか埼玉、東京、新潟、高知の職人がプロジェクトに参加している。

もう一つは、自分が愛用する包丁の柄だけを付け替えるサービス「Handle(ハンドル)」。「Life Knife」の公開をきっかけに柄だけ交換したいという問い合わせが相次ぎ、7月下旬に始めた。両商品とも発売後数カ月に満たないが、「Life Knife」は「藍包丁」並みの売り上げまで伸びているという。

商品を展示する店舗も、仙台、東京、堺、徳島の4カ所となり、海外では3拠点で販売中だ。実演販売イベントで数十本を販売するケースも出てきたという。包丁の平均単価は2万円以下だが、今年は3000万円の売り上げを目指すという。当面は包丁分野に特化してビジネスを広げていく方針だ。

日本の職人が持つ、仕事を極めようとする姿勢、細部にまで手を抜かない美意識—。「私が職人さんと包丁を作るたびに感じるワクワク感を皆さんにも知ってもらいたい。そして、日本各地の職人技を世界に広める繋ぎ役に徹したい」と坂元氏は力を込める。

企業データ

企業名
エディットジャパン
Webサイト
設立
2015年11月
代表者
坂元晃之氏
所在地
さいたま市中央区下落合1014-9トライヅコート102
Tel
048-699-7210
事業内容
和包丁の企画・製作・販売