起業の先人に学ぶ

「T.M.H. Dance Studio & Project」リビングからスタート

ダンスを楽しみ、社会貢献もできる人気のダンス教室。毎年開催しているチャリティー・ショーの収益金は全額寄付。

平川美代子(ひらかわ・みよこ)
日本でダンサーとして舞台などで活躍。22歳でダンススタジオ経営に着手するが、若く経験不足で断念。24歳で結婚を機に渡米。子育て中は主婦業に専念したのち、17年のブランクを経てダンスに復帰。2004年から自宅リビングで子供たちにダンスを教え始め、2008年、会社設立。

6人の生徒が、クチコミで1年後には40人に

──ダンススタジオを始められた経緯についてお聞かせください。

24歳で結婚してアメリカに来たのですが、それまではダンサーとして舞台に出ていました。結婚後は子育てに専念し、子供が大きくなったらまたダンスを始めようと思っていたところ、39歳で三男が誕生。この子が小学校に上がるまで待っていたら遅すぎると思い、三男が2歳になるとベビーシッターに預けてダンスを習い始めました。

続けていると元のように踊れるようになってきました。そのころ、友達に「うちの子供にダンスを教えてほしい」と言われ、自宅のリビングに300ドルで買ってきた鏡を張り、2004年に気軽な気持ちで教え始めました。

──生徒はすぐに集まりましたか。

まず小学校3、4年生の女の子が6人、クチコミで集まりました。ダンスはテレビで見るようなヒップホップやジャズファンクを取り入れたストリート系のダンスです。当時は友達割引で1回1時間10ドルで教えていました。自宅のリビングルームを使って教えていたからできた料金です。  すると、今度は小学1年生くらいの女の子たち、さらに男の子たちの生徒が増えて、クラスを増設。男の子のクラスでは、息子たちの助けを得てブレイクダンスも取り入れました。1年後には生徒は40人くらいになっていました。

──子供たちがダンスを習う目的は何ですか。

子供たちがダンスを習う第一の目的は、テレビで見るようにかっこよく踊りたい。それに加えて交友です。生徒の中には、日本の学校の放課後のクラブ活動のように楽しいと言ってくれる子供たちも。生徒の8割は数年したら日本に帰る駐在員のお子さんたち。現地の学校に通っているので、学校では英語でも、ここでは友達と思い切り日本語を話したいようです。ここがストレス発散の場にもなっています。一度英語でレッスンをしようとしたことがありましたが、子供たちには不人気で、日本語に戻した経緯があります。

──リビングでは手狭になり、インストラクターも雇うようになりましたね。

生徒も増えたので、もっとよい広い環境でレッスンができるように近所の教会を借りることにしました。また、一人では教えきれなくなり、NYから子供を教えた経験のあるダンスインストラクターに来てもらうようになりました。  ダンスインストラクターの仕事は曲を選び、振りを作るところから始まります。振りのセンスで人気も変わり、生徒の人数も変わりますので、インストラクター選びは私の重要な仕事です。今は3箇所のスタジオを借りて3人のインストラクターを雇っています。  主婦クラスは今でも教会を借りて行なっています。皆さんレッスン後の日本語での歓談も楽しみのひとつになっているようで、何かとストレスの多い海外生活、ストレス発散になりますと仰ってくださいます。  また、最近はお父さん方からクラスを作ってほしいという声があります。7、8年前とは変わり、最近のお父さん方には、ダンスに興味を持ってくださる方が多くなりました。お父さん方の趣味も多様化していると感じていますので、お父さんダンスクラスもおもしろい企画だと思っています。近日中にぜひ実現させたいです。

地元の人たちが楽しみにする年に1度のチャリティー・ショー

──この仕事でいちばんご苦労されることは何ですか。

3年目から続けているチャリティー・ショーの準備です。このイベントは絶好の宣伝の場だと思っています。いいショーを行なえば、自ずといいビジネスにつながると信じています。今では500人もの人たちが見に来てくれるようになり、ショーを観てダンスを習いたいという子供も増えました。ショーが終わると、もう次の年のショーの準備が始まります。  ショーが大きくなると、それだけ関わってくださる方も多くなるもの。適切なコミュニケーションを心がけていますが、失敗も多く、むずかしいところもあります。こちらの意思が伝わっていなかったら伝えていないのと同じ、自分の責任だと考えるようになりました。

──発表会の収益金は全額寄付されているそうですね。

「ダンスを通して社会貢献」というのが、私がこの仕事をする目的です。チャリティーを始めて今年で5年目。チャリティー・ショーの入場料は全額寄付しています。去年は東日本大震災で被災した子供たちのために「石巻こどもクラブ」に8000ドル、今年は岩手県大船渡の子供たちに5000ドル寄付しました。それ以前は、3年間で合計1万ドルをケニアのエイズ医療に寄付しました。  チャリティー・ショーには趣旨に賛同して多くの方が関わってくださり、ベイクセール(寄付金を集めるためにケーキやクッキーを焼いて売ること)なども行ないます。多くの人に関わってもらうことで発表会に足を運ぶ人も増え、収益金も増えます。自分の周りにコミュニティを作りたいという気持ちもあるので、ショーも地元コミュニティを大切にしながら続けています。

──レッスンの料金体系や売り上げについてお聞かせください。

レッスン料は1回18ドル、10回分まとめて買うと155ドルです。月々の売り上げは6000ドルくらいありますが、インストラクターの人件費とレッスンの場所代などの経費を引くと、利益はそれほど多くありません。でも、ビジネスとしてこの仕事を始めたわけではないので、これで満足しています。自分の生き甲斐やダンスを通して社会貢献をしたい、ダンスを広げたいという気持ちから始めたからこそ、続けてこれたのだと思っています。

──では、これからの抱負についてお聞かせください。

地元コミュニティにダンスを広めることができたことに満足しています。これからも、満足いくショーを生徒とスタッフと作り上げたいです。それがチャリティーにもなり、ダンスで社会貢献になればと思います。そして、長く続けて行きたいと思います。日本人のセンスで作ったショーでも、アメリカ人に賞賛される舞台を目指しています。アメリカ人のお客様からも問い合わせを受けており、アメリカ人の生徒をどう受け入れるかが今後の課題です。また、私は日舞の師範でもあるので、日本舞踊をアメリカ人に紹介したり、日舞と西洋のダンスをミックスしたようなものをやっていけたらと思っています。

企業データ

企業名
T.M.H. Dance Studio & Project
Webサイト
設立
2008年8月
所在地
47DelmarAve. GlenRock, NJ07452 USA

掲載日:2012年10月2日