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捕獲されるイノシシ「1頭でも埋めたくない」と猪肉サブスク開始「合同会社弐百円」
2024年 12月 16日
島根県松江市でジビエ商品の開発・販売などを手掛ける合同会社弐百円(にひゃくえん)。同市の地域おこし協力隊として移住した森脇香奈江氏と佐藤朋也氏の二人が、有害鳥獣として駆除・埋設されるイノシシを食肉に活用したいと2018年に起業した。鉄分を多く含む猪肉をサブスクリプションで届ける「FeMEETS(フェミーツ)」は、貧血に悩む女性を主なターゲットにして今年7月にスタート。「イノシシを1頭でも埋めずに、その命を活かしたい」との思いはビジネスプランコンテスト「SOERU(ソエル)」(中小機構中国本部など主催)で共感を呼び、優秀賞を受賞した。
2人の代表社員は松江市の地域おこし協力隊一期生
ヤマタノオロチ退治の神話で知られるスサノオノミコトが出雲に妻との新居を築いたことを詠った和歌「八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を」。日本最古と言われる和歌にゆかりの松江市の八雲地区にはスサノオノミコトを祀る熊野大社が鎮座する。大社の目の前に店を構えるのが飲食店「安分亭」。地元の猪肉を使ったジビエ料理が看板メニューだ。
同店を運営するのは弐百円の代表社員である森脇氏と佐藤氏。森脇氏は島根県西部の浜田市の出身。管理栄養士を目指して広島県内の大学に進学し、卒業後は同県内のドラッグストアに勤務していた。同じ島根県出身の夫とともに移住を検討し、夫が松江市内の会社に転職するのに合わせ、2016年4月に同市の地域おこし協力隊の一期生として参加した。
一方、協力隊の同期生となった佐藤氏は大阪府出身。劇団の座長などをつとめたあと、東京で構成作家となり、数多くのテレビ・ラジオ番組を手掛けた。仕事が多忙を極め、家に帰れない日々が続くなか、「このままでいいのか」と考えた佐藤氏は、夫婦で参加した移住フェアをきっかけに松江市に移り住んだ。
9割以上は埋設処分 「食肉利用を増やしたい」
3年間の任期中、森脇氏らはアンテナショップの立ち上げや地域の特産品を活かした商品開発などを手掛けた。そのなかで転機となったのが八雲地区の猪肉を使ったフランクフルトだった。肉の仕入れから加工の発注、販売までを森脇氏らが主体的に取り組んだもので、売れ行きも上々だった。これを機にイノシシへの関心を高めた二人は意外な事実を知った。捕獲されたイノシシのうち食肉加工されるのはほんの一部で、9割以上が埋設処分になっているというのだ。
イノシシの猟期は毎年11月~翌年2月で、冬のイノシシは脂肪分が多く食肉としての価値が高い。猟期とは別に、農作物に被害を及ぼす有害鳥獣の駆除という目的で捕獲も行われているが、夏場は脂の乗りが悪い。「イノシシの駆除は必要だが、なるべく駆除しないようにしたい。捕獲されたイノシシは食肉で利用することを増やしたい。1頭でも埋めずに大切に食べてもらいたい、という思いが強まった」と二人は振り返る。
その後、狩猟免許の取得や鳥獣被害対策コーディネーターとしての研修、さらに地元の八雲猪肉生産組合で食肉処理も行うようになった。協力隊の任期が残りわずかとなった2018年11月に弐百円を設立した。
飲食店を承継して猪肉料理を提供 会社の発信拠点に
起業後は、猪肉の販売や食肉処理施設での手伝い、ジビエ関係のイベントのほか、松江市の委託事業として農家を対象にした鳥獣被害対策のアドバイスを実施していた。当初は「弐百円は何をやっている会社なのか分からない、とよく言われた」(森脇氏)というが、2022年5月に猪肉料理を提供する「安分亭」をオープン。同社の事業内容が目に見える形になった。
同店は元々「知足亭」という飲食店で、高齢となった店主から店の承継を打診されて引き継いだ。店舗近くの熊野大社では猟期前後に安全祈願祭と感謝祭が執り行われており、猪肉を提供するのに格好の場所。「会社の発信拠点」(森脇氏)との位置付けだ。
貧血改善に役立つ猪肉の栄養価に着目 コンテストで受賞
「夏場は価値がない」と言われる猪肉の栄養価に着目する出来事が3年前にあった。森脇氏が受けた貧血の診断である。それを機に、管理栄養士としての知識と経験から猪肉の栄養価について調べた結果、貧血改善に役立つ鉄分とビタミンB12が多く含まれていることが分かった。そこで島根県産業技術センターと共同研究を行い、どの部位に鉄分が多く含まれているかなどを詳しく調べた。さらに、脂肪分が少ないという短所について森脇氏は「ダイエットへの関心が高い女性に向けてはセールスポイントになる」と、弱みを逆手に取った。
「これらのデータを公の場で披露したい」と思い立った森脇氏は昨年、中国地域5県(鳥取、島根、岡山、広島、山口)の女性起業家を対象にしたビジネスプランコンテスト「第7回SOERU」に応募した。エントリー内容は、猪肉のミンチをサブスクで届けるサービス「FeMEETS」。牛や豚のような家畜と異なり野生のイノシシは肉の供給量が不安定で、小売店での取り扱いが難しい。そこでサブスクで猪肉を女性たちに直接届けようと考えたのだ。サービス名にある「Fe」は鉄の元素記号と女性(female)を表している。
森脇氏のプランは書類審査を通過。その後、審査員らが実地審査に訪れたが、メンバーに女性が多く、「貧血対策という点で多くの共感が得られたようで、手応えを感じた」(森脇氏)。そして今年2月の最終審査の結果、優秀賞(中小機構中国本部長賞)を受賞した。
大事な命をいただいたイノシシを幸せにしたい
「受賞したからには早期に始めたい」と7月に新事業として立ち上げ、翌月から定期便の発送が始まった。ミンチ(200g×5個)とレシピなどのセット(3500円)が月1回届けられる。「当初は、私たちが直接知っている方々からの注文だけだったが、最近はそれ以外の顧客が増えてきた」と森脇氏は話す。
貧血対策として新事業は始まったが、弐百円の思いは「大事な命をいただいたのに埋設処分ではあまりに悲しい。イノシシを幸せにしたい」(森脇氏)。FeMEETSはその思いの実現に向けた手段の一つである。森脇氏とともに起業した佐藤氏は「私たちの理念に共感してもらえる仲間を増やしたい。様々な分野のエキスパートとつながりを持つことで、肉だけでなく皮などの利活用を進め、1頭でも埋めずに活かしたい」と話している。
企業データ
- 企業名
- 合同会社弐百円
- Webサイト
- 設立
- 2018年11月
- 資本金
- 200万200円
- 従業員数
- 2人
- 代表者
- 佐藤朋也 氏、森脇香奈江 氏
- 所在地
- 島根県松江市西川津町861-13
- Tel
- 0852-40-9190
- 事業内容
- ジビエ商品の開発・販売、鳥獣被害対策、飲食店営業