BreakThrough 企業インタビュー

ベテランの経験知・思考を分析、見える化。組織の共有知とするソフトウェア「ORGENIUS®(オルジニアス)」

2019年 3月 26日

「ORGENIUS®」は熟達者の経験に基づく「専属知、専門知」を次世代に引き継ぐ
「ORGENIUS®」は熟達者の経験に基づく「専属知、専門知」を次世代に引き継ぐ
summary

熟達者の経験知からくる思考を見える化、共有可能にした
企業の財産である熟達者の経験知を次世代につなぐ

少子高齢化の影響で日本では労働力不足が進んでいる。経済産業省、厚生労働省、文部科学省による「2018年版 ものづくり白書」では、製造業で、労働力不足の中でも「技能人材の確保」が課題と答えた企業が大企業で40.5パーセント、中小企業で59.8パーセントを占めている。技能人材を重視している背景にはものづくりの品質維持、組織の技術伝承の意味も大きい。技能熟達者の高齢化がすすむ中、組織として質、量を維持向上させるためには熟達者の経験知をいかに次世代に伝承していくかが急務だ。株式会社LIGHTzの「ORGENIUS®(オルジニアス)」は、熟達者の行動・動作の裏に隠れた経験知を思考モデルとして利活用するAIだ。これを使うことで、経験の少ない若年者であっても熟達者の思考を辿って対応することが可能になる。

本当に役立ち、根づくものを提供する

株式会社LIGHTzは2016年、株式会社O2のグループ会社として設立された。株式会社O2は製造業に特化したコンサルティング事業を行っており、コンサルタントは全員、製造業のエンジニアリング経験者、前職で培ってきた知見をもつメンバーだ。コンサルタントとしてクライアントの問題、課題を解決するために取り組む過程を分析、レポートの提案をもって終了するだけではなく、さらに、提案内容がクライアントの業務に活用されていくためには「何か、良い方法がないか」を検討していた。また、クライアントである製造業の各社に共通している問題の1つに技術伝承を重視していること、ベテラン技術者が少なくなってきているため、経験知を伝えることが難しくなっている現状を解決したいと考えた。

そこで、ベテランの経験知からくる思考をAI化するソリューションを開発した、と株式会社LIGHTzの堀越部長はいう。それが「ORGENIUS®」だ。

ベテランの思考を次世代につなぐことの必要性

現在の製造業の現場は、単に人員不足だけでなく、根本的に技術や知見の継承がしづらい状況が生まれていると考えられる。その原因は3点ある。
1点目は「安心安全の定着」。現在の機械には、昔と違い幾重にも安全装置、安全機能がついており、例えば、加工機が加工している際にドアを開けると安全装置が作動して機械が止まってしまう。このため加工点を肉眼で確認するということはできない。そのため、不良品がでても肌感覚で不具合が出る際の要因を感じ取るような経験が得られづらい。どこをどのようにすれば修正が可能なのか、現場を見ているようで見ることができていない。調整の加減と製品の状態を照らし合わせてみることが難しいのだ。
2点目は「短期成果指向」。社内外ともに短期間で成果が求められる傾向が強まり、時間をかけて理論を検証する時間がとれず、ベテランの勘や「さじ加減」の裏に、どんな原理原則があり成り立っているかが共有されにくい点だ。テクニックのみの伝承で終わってしまうケースが多いのだ。
そして3点目が「手順重視」。過去の経験の積み重ねによって確立された現在の「手順」をしっかりと守ることが重要で、「なぜその手順になっているのか?」という事に疑問を抱きづらくなっている。
このままでは、若手の技術者、職人たちは決してベテランを超えられない。だからこそ、経験知と理論の裏づけを共有する必要があるのだ。

技能を技術と知能に分けると「ORGENIUS®」は知能の領域で熟達者知見、工学知見を扱う
技能を技術と知能に分けると「ORGENIUS®」は知能の領域で熟達者知見、工学知見を扱う

ベテランの経験知から来る思考を誰もが使える形にする「ORGENIUS®」の特長

「汎知化」が「ORGENIUS®」の特長、と同社の堀越部長は言う。「汎知化」というのは同社独特の考え方だ。熟達者(スペシャリスト、エキスパート)が持つ経験や知見、洞察の視点を次世代につなぐため、「熟達者が持つ「専門知」を、原理原則に着目して他の分野でも汎用的に使えるような知見にし、組織横断での活用や技能伝承に役立てていくこと」を指す。「ORGENIUS®」の特長は教師データ起点型AIと呼ばれるもので製造業の場合「工学知見」という経験知を裏付ける工学的なメカニズムに関する知識があらかじめ組み込まれている。少ないデータからでも解析でき、人の発想を起点に解を導きだすAIだ。

実際に活用できる形体にする手順は以下の通り。

1.熟達者をヒアリングし、知見を収集、整理する

同社独自のヒアリング手法を使い聴き出した熟達者の言葉を分析、複雑な思考を整理。

2.思考の「かたち」をつくる

熟達者の思考回路を「BrainModel®(ブレインモデル)」 という言葉のネットワークで表現し、全体がわかるようにする。

3.熟達者思考則のAI化

「BrainModel®」を 「ORGENIUS®」 に入れると、幾つかの手掛かりとなるキーワードを投げかけるだけで、熟達者の知見を探してきてくれるようになる。そして使った結果をフィードバックすることで「ORGENIUS®」 は言葉の繋がりの有効性を学習し、知見探索エンジンとして成長していく。

例えば、不具合が起きたとき、起きているトラブルについて、簡単な言葉で入力するだけで知見を探してくれる。それだけでなく、このプロセスによって、検索した人は「なぜそのような答えになるのか」を重要なポイントとしてつかむことができる。繰り返していくうちに利用者もこのポイントを応用し、考えることができるようになる育成効果もある。

インタビューに答えてくれた堀越部長
インタビューに答えてくれた堀越部長

「ORGENIUS®」の今後の展開

同社の堀越部長は、製造業に特化して工学知見があることからできあがった「ORGENIUS®」が製造現場の技術伝承と若手の育成に効果が出ていることを感じている。今後も、製造業をメインにさらに工学知見を深めて取り組む予定だという。他に、経験知の伝承は指導者が少ない分野からも声がかかり協働研究されるようになっている。一例をあげるとサッカー指導。サッカーチームの監督の知見を「BrainModel®」にし、選手の動きを分析するという研究にも応用されているという。知見の伝承に役立つ製品は、ベテラン世代と若い世代がともに減少する今後、さまざまな業種で必要不可欠なものとなりそうだ。

企業データ

企業名
株式会社LIGHTz

製造業を中心に、熟達者知見をベースとしたAI構築を手掛けるAI企業です。ビックデータ型AIとは異なり少量のデータからAIを構築することができ、これまでに自動車メーカー、成形メーカー、建設業など様々な分野における知見活用型AIの仕組み構築を手掛けております。

取材日:2019年3月7日