業種別開業ガイド

電力販売

2021年 4月16日

トレンド

(1)2019年の市場規模は21.6兆円

2019年の電力業界の市場規模(主要対象企業12社の売上高の合計)は約21兆6,000億円となり、前年より2.4%の増加となった。経年の変化をみると、電力は産業インフラであるためか、市場規模は安定した数値となっている。過去10年で大きな変動はない。
ただし、業界構造としては大きな変化が起きている。2016年に電力小売の全面自由化が行われ、電力の小売事業の分野で競争が激化している傾向がある。

(2)2019年の「新電力」のシェアは約15.8%

電力小売の自由化は2000年から段階的に行われ、2016年には全面自由化がスタートした。この電力小売自由化後に参入した電力小売企業は「新電力」と呼ばれている。経済産業省・資源エネルギー庁によると、2019年9月時点で、全販売電力量に占める「新電力」のシェアは約15.8%であった。
2020年9月の時点で、「新電力企業」約700社がこのシェアを争っている。上述の通り、これに対して電力業界全体の市場規模は大きく変化していないため、電力小売業界の競争は激化しているといえる。

(3)2020年、新電力企業「Looop」が58.3億円を資金調達

2020年8月、国内成長産業領域の情報プラットフォーム「STARTUP DB」は、2020年1月から7月までを対象とした「国内スタートアップ資金調達金額ランキング」を発表した。このランキングにおいて、再生可能エネルギーを中心とした新電力企業の「Looop」が58.3億円の調達金額で4位にランクインされている。
「Looop」は、再生可能エネルギー設備の開発から電力小売事業まで一貫したサービスを行っている企業である。2016年から電力小売事業をスタートしており、2020年3月には契約顧客数が20万件を超えた。

ビジネスの特徴

2016年に電力小売の全面自由化が行われ、業界構造は変化をみせている。かつて「一般電気事業者」と呼ばれる企業が一貫して行っていた電力事業が、「発電」「小売」「送配電」の3つの分野に分けられた。本記事は、このうちの「小売」事業の開業に焦点を当てた内容とする。
電力の小売ビジネスの基本的な仕組みは、発電企業から仕入れを行い、一般家庭や法人等の顧客へ販売する、という形式である。大きな特徴のひとつは、製品(電気)自体の質ではなく、料金やサービス面での差別化が必要となる点が挙げられる。
上述した通り電力業界には3つの業種があるが、「送配電」については、安定供給を担う要という観点から未だ自由化はされていない。つまり、どの電力小売企業を選んだ場合でも、送配電ネットワークは変わらず、そのため電気の品質や信頼性も変わらない。
主な差別化の方法は、価格や他サービスとのセット販売(電気・ガスのセット販売等)、電力の発電方法(再生可能エネルギーの比重を増やす等)などがある。

開業タイプ

開業するにあたって、まずは経済産業省・資源エネルギー庁への申請・登録が事前に必要となる。審査条件に則った業態とする必要があるため、事業体制等はある程度の制約がある。例えば、苦情対応の体制が整っていることが条件となるため、基本的にはある程度の人員を確保する必要がある。
ただし、扱う電力のタイプにより対象となる顧客が異なるため、営業を行う相手などの条件が変わってくる。

(1)低圧電力

低圧電力は50kW未満の契約を指し、主に一般家庭や一般商店などの小規模の施設が対象となる。

(2)高圧電力

高圧電力は50kW以上の契約を指し、工場や大型商業施設などの大規模な施設が対象となる。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業ステップの図

基本的には、経済産業省・資源エネルギー庁への申請・登録の段階において、事業体制が明確化されている必要がある。申請内容に不備があれば開業すること自体ができないため、発電企業や電力販売見込み先(顧客)との契約などを含め、登録後にはすぐ営業が開始できるような体制を築いておかなければならない。

(2)必要な手続き

小売電気事業を開業するためには、(1)電力広域的運営推進機関への加入、(2)経済産業省・資源エネルギー庁へ小売電気事業の登録が必要となる。
(2)の登録申請にあたっては、どの程度の電力を確保できるか(どの発電事業所と契約するか等)、また、どの程度販売できる見込みがあるかなど、基本的な事業計画が立てられているかどうかの確認が行われる。
また、登録期間としては、一般的に1ヶ月ほどかかる。ただし、記載漏れ等の不備がある場合、あるいは、登録申請が集中した場合などは、それ以上の期間がかかる可能性があるため注意したい。

公共インフラとしての経済産業省の監督

2020年9月、経済産業省は、新電力の「東京電力エナジーパートナー」に対し、業務改善勧告を行った。内容としては、電気及びガスの供給条件について説明が不十分であったり、虚偽の内容があったりしたことが挙げられている。
電力は公共インフラであるため、公共性が問われる。それだけに、業務体制等については、申請・登録時だけでなく、開業後も注意しておきたい。

必要なスキル

  • 小売電気事業の申請に関する知識
    開業のためには、経済産業省・資源エネルギー庁に小売電気事業の登録を行う必要がある。「電気事業法」をはじめとする関係法令や「電力の小売営業に対する指針」などのガイドライン等、事業を行うにあたっての基本的な知識をもっておく必要がある。
  • 営業力(企画力、広報力)
    電力の小売自由化後も、送配電については依然として各社が同じ設備を使用しており、また発電事業者も登録制のため、仕入先が似通う場合も多いと予測される。
    そのため、電力の質の面においては、大きく差別化することは難しい。差別化の方法としては、価格や他のサービスとのセット販売、環境面でのブランド化(再生可能エネルギーの割合が多いことをアピールする等)などに限られる。
    こうした条件下のため、的確に顧客の需要を読み取り、営業を行っていく能力が問われる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

賃貸で開業することを前提として、必要な資金例を記載する。電力の売上は、基本的には契約世帯数によるため、ある程度近隣に住宅等の多い地区として、池袋のオフィスを賃貸する想定とした。社員は10名で、社員1名につき社用車1台を支給する想定とした。

【参考】都内(池袋)31坪のオフィスを賃貸で開業する場合の必要な資金例(家賃月額42万×初期費用6ヶ月分ほどの想定)

開業する場合の資金例

(2)損益モデル

a.売上計画

売上は、契約世帯数×月額利用料が基本となる。このほか、法人契約の実施や、電気料金のプランによっても売上は変わる。(世帯あたりの平均電気代は、総務省の統計値を参考に、2019年の平均月額10,825円で試算した)

売上計画の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

損益イメージ(参考イメージ)の表

※標準財務比率は「その他の電気事務所」に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

売上については、基本的には契約世帯数に応じて増減する。そのため、開業に当たっては、営業を行う地域の見込み客数を事前に把握しておくことが重要となる。
事前のマーケティングのおいては、まずは競合となる電力小売企業の料金体系を確認するべきである。多くの電力会社が電気料金体系を公表しているため、自社の料金体系でより安くサービスを提供できるケースを明確にしておく必要がある。例えば、3人暮らしの世帯では自社の料金のほうが安くなる場合が多いなどの条件がわかれば、営業地域の世帯数から潜在顧客の数を想定できる。
多くの新電力企業が、現状の電気料金と自社の料金を比較できるWebサービスを用意している。さらに、そのWebサイトから直接契約に進めることも多い。これらは基本的なサービスとしておさえておくことが望ましい。
そのほかの差別化については、電気と別途サービスをセットで提供することが挙げられる。例えば、ガス会社であれば、ガス料金とのセット料金で割安になるサービスを行っているケースがある。
また、発電において、再生可能エネルギーを主に活用していることをPRする新電力も少なくない。ただし、送配電は各社共通のため発電方法が変わったとしても、顧客が使用する際の電力の品質は基本的に変わらない。そのため、発電方法のちがいを適切にブランディングし、営業を行っていくことが重要となる。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)