中小企業の税金と会計

組織再編と繰越欠損金の引継ぎ

最終更新日:2014年3月30日

組織再編の概要で説明した『合併』『会社分割』を企業が実施する際、従来は被合併法人が有する税務上の繰越欠損金を合併法人等が引き継ぐことは認められませんでしたが、平成13年の企業組織再編税制の施行に伴い、一定の条件のもと繰越欠損金を合併法人等に引継ぐことが認められることになりました。
ただし、繰越欠損金の引継ぎが認められる一方で、その繰越欠損金を利用した租税回避行為を防止するために一定の要件を満たさない場合には、繰越欠損金の引継ぎ制限及び引継いだ繰越欠損金の利用に制限を課しています。
そこで、企業再編を考えるときに、税務上の繰越欠損金の取扱いは非常に大きな要素の一つとなります。
たとえば、グループ企業のリストラ(再構築)をするため、繰越欠損金を抱えるB社をグループ会社であるA社が合併しようとした場合、合併後にB社の繰越欠損金が利用できるか否かが再構築のスキームに大きな影響を与える可能性があります。
また、繰越欠損金を抱えるC社が、不採算部門の切り離しにより経営の効率化を図ろうとした場合、会社分割のしかたによっては繰越欠損金の利用制限がかかるという大きなリスクを背負うことになってしまいます。

注意すべき点としては、繰越欠損金の引継要件を形式的に満たしていたとしても、組織再編の多様性を利用した租税回避行為を防止するため、従来の『同族会社の行為又は計算の否認』の規定とは別に、『包括的な企業組織再編に係る行為又は計算の否認』の規定が設けられていますので、形式を具備するだけでなく包括的に租税回避行為になっていないことが重要です。この規定は法人税法に限らず所得税等の他の国税及び地方税法にも同様の規定を設け租税回避行為を防止しています。
このように、『組織再編』における税務上の繰越欠損金の取扱いは非常に複雑になっています。
そこで、ここでは『組織再編』における税務上の繰越欠損金の取扱いについてフローチャートを中心に説明します。

1.「組織再編税制」における税務上の取扱い

 「適格組織再編と非適格組織再編」で説明したとおり、税務上は『組織再編』を『グループ内(50%超の支配)』と『共同事業目的』とに区分して『適格』『非適格』を判定します。
 このうち、原則として被合併法人等の繰越欠損金の引継ぎ等が認められるのは『適格合併』及び『合併類似適格分割型分割(分割後、分割法人が解散する分割型分割)』(以下、『適格合併等』という)の場合に限られます(「合併」、「事業譲渡と会社分割」参照)。

ただし、前述のように租税回避行為を防止するため、一定の場合にはその引継ぎ及び利用に制限が設けられており、これらの制限についても『グループ内(50%超の支配)』と『共同事業目的』とに区分して判定します。
つまり、『共同事業目的』の組織再編は利害相反関係にある第三者の会社との間で行われることが前提となっているため、適格・非適格の判定及び繰越欠損金の引継ぎ及び利用制限の判定が緩和されており、『グループ内(50%超の支配)』の組織再編は前者に比べ租税回避行為が行われる可能性が高いことから適格・非適格の判定及び繰越欠損金の引継ぎ及び利用制限の判定が厳しいものになっています。
また、適格企業組織再編においては、被合併法人等の有する資産は帳簿価額で合併法人に引継がれるため、その引継ぎ資産に含み損があり合併等の直後に合併法人がその資産を譲渡し、譲渡損失を計上した場合には、実質的に被合併法人の繰越欠損金を引継ぐことと同様の効果が生じてしまいます。
逆に、その引継ぎ資産に含み益があり合併等の直後に合併法人がその資産を譲渡し、譲渡益を計上し、同時に合併法人の従来から所有する含み損のある資産を譲渡した場合には、実質的に合併法人の繰越欠損金を利用したときと同様の効果が生じてしまいます。
そこで、グループ内企業再編については、合併法人の特定資産の譲渡損失額についても損金不算入の規定を設け繰越欠損金の引継ぎと同様に損金算入を制限しています。

税務上の取扱いのイメージを図に示します。特定資本関係(50%超の支配関係)があり『みなし共同事業要件※』を満たさない場合は図のようになります。

  • 『みなし共同事業要件』
    適格合併、適格分割又は適格現物出資のうち、次のl.からlV.までに掲げる要件またはl.およびV.に掲げる要件に該当するものをいいます。
  1. 被合併法人から引き継ぐ事業と合併法人の事業とが相互に関連するものであること。
  2. 被合併法人から引き継ぐ事業と合併法人の事業の売上金額、従業者の数、資本の金額またはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと。
  3. 合併法人から引き継ぐ事業が、特定資本関係の生じた時から合併の直前まで継続して営まれており、かつ、特定資本関係発生時と合併等の直前における当該事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。
  4. 合併法人の事業が、特定資本関係が生じた時から合併の直前の時まで継続して営まれており、かつ、特定資本関係発生時と合併の直前の時における当該事業の規模の割合がおおむね2倍を超えないこと。
  5. 被合併法人の合併の前における特定役員である者のいずれかの者と、合併法人の合併の前における特定役員である者のいずれかの者が合併の後に合併法人の特定役員となることが見込まれていること。

2.繰越欠損金の引継ぎ制限及び利用制限フローチャート

被合併法人が有する繰越欠損金の合併法人への引継ぎ制限フローチャートを示します。

なお、このフローチャートを「分割」に当てはめて読む場合には、チャートに記された「適格合併」は「合併類似適格分割型分割」に、「被合併法人」は「分割法人」に替えて読んでください。

合併法人が引継いだ繰越欠損金の利用制限をフローチャートで示します。

なお、このフローチャートを「分割」に当てはめて読む場合には、チャートに記された「適格合併」は「合併類似適格分割型分割」に、「被合併法人」は「分割法人」に替えて読んでください。

ポイント

繰越欠損金の引継ぎや利用は『合併』や『分割』後の法人にとって非常に大きな税務上のメリットがあります。
しかし、規定が複雑で解りづらい点もありますので、『組織再編』を行う上場合にはあらかじめ慎重に専門家を交え検討し、計画的に行うことが必要となります。