省エネQ&A

ボイラーや工業炉における空気比の目安と、空気比削減効果の算出方法は?

2019年 10月 23日

回答

空気比については省エネ法にもとづく基準となる数値があります。その数値および空気比削減効果の計算方法を示します。

1.空気比の適正な値

燃料を使用するボイラーや工業炉の損失熱のうち、燃焼排ガスに持ち去られる熱が大きな比重を占めます。バーナーに過剰な空気を送ることは排ガスの損失熱を増やします。このため、空気比は重要な指標です。
ここで、空気比は以下のように、理論空気量に対する実際の空気量の比です。

m = A / Ao
m:空気比
Ao:理論空気量[m3N / kg]
A:実際の空気量[m3N / kg]

空気比を求めるのに上記の空気量を計測することはあまり行われません。通常は、排ガス分析のデータの一つである酸素濃度を使い、次式の計算で空気比を求めます。

空気比

ここで、(O2) : 排ガス中の酸素濃度[%]

空気比が小さすぎると、不完全燃焼によるすすが伝熱面に付着するなどして、熱効率の低下を生じ、空気比が大き過ぎると排ガス熱損失が多くなります。

それでは空気比をいくらにすればよいのでしょうか。その検討の基準になるのが、省エネ法に基づく、経済産業省の告示「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」(以下、判断基準)です。
この判断基準の中でボイラーと工業炉における空気比の値を示しています。それぞれ表1、表2のとおりです。その値は、遵守すべき「基準空気比」と努力目標としての「目標空気比」とが定められています。

表1 ボイラーの基準空気比と目標比2)
表2 工業炉の基準空気比と目標比2)

2.空気比改善の効果

(1) グラフから求める方法

図1は空気比を改善したときの燃料の節約率を求めるためのグラフです。現在の排ガス温度が300℃、空気比を1.6として、これを1.2まで改善したときの節約率を求めてみます。
横軸の1.6の左上方向に排ガス温度300℃の斜線が伸びています。横軸の1.2から上方に直線を引くと300℃の斜線と交わります。この交点について縦軸の燃料節約率を読むと4.0%とわかります。

図1 空気比低減効果3)

(2) 計算で求める方法

図1は、燃料が都市ガス13Aであり、排ガス温度が150℃、200℃、300℃のいずれかであり、かつ、空気比が1.0から2.0までの範囲であるという条件の場合に限定されています。
条件に合致したグラフがない場合は以下のように計算で求めます。 

①運転の状況

設備:ボイラー 換算蒸発量:3000kg / h
燃料:A重油、密度ρ = 0.86kg / L 消費量F1:1200kL / 年、単価:76円 / L
燃焼排ガス温度tg:200℃、外気温度to:20℃
空気比:現状の空気比 m1 = 1.6 を改善後 m2 = 1.3 とする。

②基本数値を求める

低発熱量 HL : HL = 42.7MJ / kg - 燃料
理論空気量Ao、理論燃焼ガス量GoはBoieの式 3) より
Ao = 0.296 HL - 1.36 = 11.28 m3N / kg - 燃料
Go = 0.376 HL - 3.91 = 12.15 m3N / kg - 燃料
燃焼排ガス平均定圧比熱は排ガス温度が200℃で、空気比が1.6のときCp1、空気比が1.3のときCp2とすると、
Cp1 = 1.371 kJ / (m3N・K)
Cp2 = 1.384 kJ / (m3N・K)

③計算

(a) 改善前に有効に使われた熱量を求める。

(注)ここでいう有効な熱量には、被加熱部に加えられ有効な働きをした熱量のほか、計算上、炉体表面からの放熱など若干の無効となる熱量も含まれます。以下、同じ。

改善前の排ガス量G1は 3)
G1 = Go +(m1 - 1)Ao
= 12.15[m3N / kg - 燃料] + ( 1.6 - 1.0 ) × 11.28[m3N/kg - 燃料]
= 18.92[m3N / kg - 燃料]
改善前の排ガス熱量Q1は 3)
Q1 = G1[m3N / kg - 燃料]× Cp1[kJ / (m3N・K)]×(tg - to)[K]
= 18.92[m3N / kg - 燃料]× 1.371[kJ / (m3N・K)]× (200 - 20)[K]
= 4669[kJ / kg - 燃料]
有効に使用された熱量Qe1は
Qe1 = HL - Q1
= 42.7[MJ / kg - 燃料]- 4.7[MJ / kg - 燃料]
= 38.0[MJ / kg - 燃料]
これは、燃料1kg当たりであるので、総有効熱量Qt1 は
Qt1 = Qe1 × F1 × ρ
= 38.0[MJ / kg - 燃料]× 1200[kL / 年]×1000 × 0.86[kg / L]
= 39216000[MJ / 年]
となります。

(b) 改善後の燃料1kg当たり有効熱量を求める。

改善後の排ガス量G2は
G2 = Go +(m2 - 1)Ao
= 12.15 [m3N / kg - 燃料] + (1.3 - 1.0) × 11.28[m3N / kg - 燃料]
= 15.53 [m3N / kg - 燃料]
改善後の排ガス熱量Q2は
Q2 = G2[m3N / kg - 燃料]× Cp2[kJ / (m3N・K)]×(tg - to)[K]
= 15.53[m3N / kg - 燃料]× 1.384[kJ / (m3N・K)] × (200 - 20) [K]
= 3869[kJ / kg - 燃料]
有効に使用された熱量Qe2は
Qe2 = HL - Q2
= 42.7[MJ / kg - 燃料]- 3.9[MJ / kg - 燃料]
= 38.8[MJ / kg - 燃料]
となります。

(c) 改善後の燃料使用量を求める。

改善後の燃料使用量F2は
F2 = Qt1 ÷ Qe2 ÷ ρ
= 39216000[MJ / 年]÷ 38.8[MJ / kg - 燃料]÷ 0.86[kg / L]÷ 1000
= 1175[kL / 年]
燃料削減量は
F1 - F2 = 1200 - 1175 = 25[kL / 年]
削減率は、25 ÷ 1200 × 100 = 2.1 %
削減金額は
25[kL / 年]× 76[千円 / kL]= 1900[千円 / 年]
となります。

空気比を調整するのに大きな費用は必要とせず、その省エネ効果は確実に得られますので、検討をおすすめします。

【参考文献】
1) 経済産業省告示「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」別表第1(A)(1) および別表第1(B)(1)
2) 経済産業省告示「工場等におけるエネルギーの使用の合理化に関する事業者の判断の基準」別表第1(A)(2) および別表第1(B)(2)
3) 2019年省エネルギー手帳、(一財)省エネルギーセンター、2018

回答者

エネルギー管理士 本橋 孝久