省エネQ&A

トップランナーモータへの変更による省エネとは

2020年 12月 4日

回答

トップランナーモータとは、省エネ法にもとづくエネルギー消費効率の基準値をクリアしたモータのことです。2015年度以降に出荷された主要モータメーカーの製品は、定格出力等の区分ごとに出荷台数の加重平均で、この基準値をクリアしています。2014年度以前のモータにくらべ大幅な省エネになっています。したがって、モータの効率表示を確認の上、圧縮機、ポンプなどモータが駆動する機器とセットで購入される場合は、問題なく高効率のモータによる機器の使用ができます。
ただし、モータ単体でリプレースする場合は、モータ周辺機器との干渉、コントロールユニットの容量不足などの問題が生じることがありますので事前の確認が必要です。

1.トップランナー制度

(1) トップランナー制度のあらまし

省エネを図る上で、事業者および個人がエネルギー消費機器の使い方を工夫することが重要ですが、そもそも、そのエネルギー消費機器の効率がよいことが必要です。そのため、国は、日本全体でのエネルギー消費量が多い等の機器を「特定エネルギー消費機器」として指定しています。そして、その機器の効率について、目標となる基準値と、それを達成する年度を定めています。

基準値は、その時点で市場で最も効率が優れた製品、すなわち「トップランナー」の効率をベースとして、今後の技術開発による効率向上分を加えて基準値としています。このため、この制度が「トップランナー制度」と呼ばれています。

メーカーは、特定エネルギー消費機器の区分ごとに、目標年度までに、エネルギー消費効率が基準値を達成するよう改善し、かつ、その機器の効率を表示するよう求められています。

メーカーのエネルギー消費効率向上の達成度が基準値と比べ、相当程度低い場合、または、メーカーがその効率を表示しない場合、国はメーカーに対し勧告、公表、命令と段階を追った措置を行うことができる、と定められています。

(2) トップランナー制度の対象機器

トップランナー制度の対象となる特定エネルギー消費機器は次の要件を満たすものから選定されました。

  • 我が国において大量に使用されていること。
  • その使用に際し、相当量のエネルギーを消費すること。
  • エネルギー消費性能の向上を図ることが特に必要なものであること。

選ばれた機器は表1のとおりです。

トップランナー制度が始まった1998年には自動車やエアコンなど11品目でしたが、順次、対象品目が増え、今では、建材トップランナー対象品目を含め32品目となっています。民生、産業部門から運輸部門まで、品目は多岐にわたっています。

表1 トップランナー制度の対象機器  1)

(3) トップランナー制度において目標となる基準値

目標となる「基準エネルギー消費効率」は、市場でもっとも効率のよい製品(トップランナー)の効率をベースとして、それに今後予想される技術進歩による改善分を加えて作られています。これを「トップランナー基準」といいます(図1)。
目標年度以降の各年度において、製造事業者が出荷した機器が目標となる基準値に達成しているかどうか判断がされます。
具体的には、対象機器の中の区分ごとに、エネルギー消費効率を出荷台数により加重平均した数値が、基準エネルギー消費効率を下回らないよう求められています。

ここでは、トップランナー基準を満たすエネルギー消費効率を有するモータのことをトップランナーモータと称しています。
モータには色々な種類がありますが、最も多く使用されている三相誘導電動機(図2)がトップランナー制度の対象となっています。

図1 トップランナー制度 1) と 図2 三相誘導電動機  2)

2. トップランナーモータの効率

モータの効率は国際規格でIE1: 標準効率から、IE2: 高効率、IE3: プレミアム効率までクラス分けがされています。各クラスの定格出力と効率の関係は図3のとおりです。
2010年当時、米国では高効率(IE2)とプレミアム効率(IE3)の合計が70%、欧州でも高効率タイプ(IE2)が12% でした。これに対し、わが国では高効率タイプ(IE2)が1%程度であり、欧米にくらべ高効率化が遅れていました。 3)

2013年に、三相誘導電動機がトップランナー制度の対象機器に加わり、定格出力(kW)等の区分別に基準エネルギー消費効率が定められました。その効率レベルはIE3相当となりました。表2に各区分における基準エネルギー消費効率の例を示します。
目標年度の2015年度までに、各モータメーカーが効率改善に努め、主要メーカーはすべて基準を達成し、これにより欧米の水準に追いついたといわれました。
トップランナー基準を満足することによるエネルギー消費効率の改善率は、出荷台数で加重平均して7.4%といわれています。2)

図3 モータ効率値比較 4) と 交流電動機の各区分における基準エネルギー消費効率の抜粋の表 と 図4 モータの用途 3)

3.モータ単体での交換時の注意事項

三相誘導電動機は図4に示すような機器の動力源として利用されており、このような機器を導入する際は、通常、電動機も付いたセットで購入することになります。上記のように、2015年度以降に、モータの効率の表示を確認した上で、このような機器をセットで購入すれば、問題なく高効率のトップランナーモータを使用することができます。

しかし、すでに設置された機械のモータだけを高効率のトップランナーモータに交換し、省エネ効果をねらう場合もあると思われます。そのようなトップランナーモータへのリプレースについて、(一社)日本電機工業会は図5のような注意喚起をしています。

そこで、主な項目について、なぜ、そのような注意事項が生じるのか(1) ~(3) に記します。

図5 リプレース時の注意事項 4)

(1) モータサイズが現行機より大きくなる場合があります。

鉄心を構成している電磁鋼板を鉄損[W/kg]が少ないものに改善すると、マイナスの効果として電動機内部の磁束密度が減少します。それを補う形で電流を増やすと、銅損や漂流負荷損等の増加につながるため、図5に示すような固定子側及び回転子側の改善が必要となります。その結果、モータサイズが現行機より大きくなる場合があります。 2)

図6 トップランナーモーターの改善点(サイズが大きくなった要因)2)

(2) モータの回転速度が高くなる傾向があります。

トップランナーモータは発生損失を抑制しているため、従来の標準モータにくらべ一般に回転速度が速くなります。
回転速度×トルク=出力ですので、流量や運転時間を調整していない換気扇のように、リプレースしても成り行きで運転される機器のモータについては、消費電力が増大します。一方、インバータ等で流量を調整しているポンプ、ファン等のモータでは、リプレース後、流量等を従来と同じに調整すれば省エネとなります。また、高置水槽に水を送る給水ポンプのように、自動制御によりモータの仕事量が従前と変わらない場合も省エネとなります。

(3) 始動電流等の増大

トップランナーモータは始動電流、突入電流が大きくなる傾向にあります。このため、従前のモータコントロールユニットの配線用遮断器やサーマルリレーが不要に動作する場合があります。このため、図7のように、配線用遮断器や電磁接触器をワンサイズ上げる必要が出てくることもあります。
トップランナーモータ適用に当たっては、モータの定格電流、始動電流、突入電流、始動時間などの情報を入手し、適切な保護協調をする必要があります。5)

図7 モータコントロールユニットへの影響 5)

4.おわりに

モータがトップランナー制度の対象となり、目標年度を過ぎた現在、ユーザーが購入するモータはほとんど高効率のものになっています。具体的には、トップランナー基準を満足することによるエネルギー消費効率の改善率は、出荷台数で加重平均して7.4%といわれています。

ただし、モータとモータで駆動される機器をセットで購入される場合はよいのですが、モータ単体でリプレースする場合は、モータ周辺機器との干渉やコントロールユニットの容量不足などが生じることもあるので事前の確認が必要です。

【参考資料】

回答者

エネルギー管理士 本橋 孝久