省エネQ&A

水素エネルギーとは (その2)

2021年2月9日

回答

「2050年カーボンニュートラル」のための「グリーン成長戦略」の一環となった水素は、従来のエネルギー源である石炭、石油、天然ガスなどとは違い、採掘によって得ることはできません。今回は、水素の製造方法について記します。運搬、貯蔵の方法については次回に記します。

1. はじめに

地球上の水素はほとんどが水の状態で存在し、水以外では地殻を構成する岩石中に、また、石油、天然ガスなどの有機化合物として存在しています。水素単体としてはほとんど存在していないため、水素エネルギーを利用するためには、水素を化合物などから製造しなければなりません。水素を製造する、あるいは水素以外の製品の製造工程で水素が副次的に産出される(以下、副生という)例を図1に示します。

図1  水素の製造方法  1)

2.水素の製造方法

(1) 化石燃料改質 2)

天然ガスやナフサ(注)に水蒸気を加えて水素を製造する方法があります。世界中で、天然ガス(メタン)の水蒸気改質が全水素製造の50%程度、ナフサの水蒸気改質(含む石化脱水素)が同30%程度を占める、といわれており、この二者が現在の水素製造の主流です。
(注)ナフサ:原油を常圧蒸留装置によって蒸留分離して得られる製品のうち沸点範囲がおおむね30 - 180℃程度のもの。(Wikipedia)

メタンを利用する場合について見てみます。まず、メタンと水蒸気を700~850℃、3~25気圧で、次式のように反応させます。
CH4+H2O → CO+3H2
次に、発生した一酸化炭素と水蒸気を次式のように反応させ、目的とする水素の濃度を高めます。
CO+H2O →H2+CO2
この化石燃料改質による方法は、大規模に、比較的安価に水素を製造できますが、上式からわかるように二酸化炭素を発生してしまいます。

(2) 副生水素

  • 製鉄所でコークスを造るため石炭を蒸し焼き(乾留)にする工程で発生するガスに55%ほど水素が含まれています。この水素は所内の熱源や自家発電用の燃料として使用されています。2)
  • 苛性ソーダを製造するための食塩の電解工程からは極めて純度の高い水素が発生します。これは自社工場内で消費されるほか一部外販されています。3)

これら副生ガスとしての水素は、自家消費が優先され、外販されたとしても、安価ではありますが、目的とする製品の生産量によって水素の発生量が変動し供給安定性に欠けます。

(3) 未利用エネルギーの活用ー褐炭の例

褐炭は石炭の一種ですが、水分が多いこと、炭素含有量が少ないため発熱量が小さいことにより、大規模な利用はされていません。オーストラリアの一部には褐炭が大量に存在するが利用されていません。そこで、わが国は、この未利用エネルギーであるオーストラリアの褐炭から水素を製造することと、それを液化し、日本へ輸送することの実証事業を国のプロジェクトとして行っています。
具体的には、(1)褐炭から水素を含むガスをつくる「褐炭ガス化技術」、(2)液化した水素を長距離、大量に輸送する技術、(3)液化した水素を荷役する技術の実証です。国際的な水素サプライチェーン構築の実証事業といえます。

褐炭から水素を製造するには、まず、褐炭を、操作温度1,300℃、圧力5.8MPaのガス化炉に酸素とともに導入すると、水素、一酸化炭素が主成分の高温粗合成ガスが生成します。次にCO とH2O の比が2 になるようにスチームが加えられて、水素を生成します。4)
図2が褐炭から水素を製造する設備、図3が液化水素の輸送船です。

図2 褐炭ガス化・水素精製設備完成予想CG  5) と図3 水素輸送船(液化水素タンクの搭載の様子  6)

(4) 水の電気分解

従来の火力発電による電気を使用し、水素を製造するのでは、火力発電所でCO2が発生します。CO2を発生しない方法で製造した水素を「CO2フリー水素」といいます。再生可能エネルギーにより発電した電力で水を電気分解して得られた水素は、CO2フリー水素の一つです。水を電気分解することにより電気を水素に変換し、貯蔵・利用することを「 Power to gas 」と(略してP2Gとも)いわれます。
Power to gasは電力需要の調整弁としての機能もあり、その点からも水の電気分解は注目されています。

(1)電力需要の調整機能

電気については、発電量と消費量が常に同じでなければならないという制約条件があります。両者のバランスがくずれると最悪の場合、停電になります。そのため、電力会社は常時、両者のバランスをとるために発電量などを調整しています。近年、太陽光発電や風力発電など再生エネルギーによる電気が、電力会社の系統電力網に供給される量が増えています。再生エネルギーによる発電を加えたトータルの発電量が、一時的に、電気の消費量を上回りかねない状況になることもあります。その時、電力会社は、再生エネルギーによる電気の供給の中止を要請せざるを得ない、ということが起こっています。

一方、水の電解によって得られた水素は貯めることができ、図4のように、その容量(kW)と蓄電時間は小から大まで大きな幅を有しています。そこで、電気の需要を供給が上回ると予想されるときには、水の電解装置を運転し、電力の需要を増やし、製造された水素は貯めておく、ということができます。

図4  各種電力貯蔵システムの出力容量と蓄電時間の関係 7) 
(2)アルカリ水電解

図5のように、水酸化カリウム(KOH)を水に溶かした強アルカリの液に直流電流を流します。これにより、図中に示した式の反応が起き、陰極で水素、陽極で酸素が発生します。図6はNEDO(注)の技術開発事業として福島県浪江町に設置され、2020年3月より運転開始した世界最大級のアルカリ水電解システムです。毎時1,200Nm3(定格運転時)の水素を製造供給することができます。
(注)NEDO: 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

図5  アルカリ水電解のしくみ 8) と 図6 10MW級大型アルカリ水電解システム外観 8) 
(3)固体高分子膜形水電解

アルカリ水電解の電解効率は70~80%ですが、電解効率90%程度の方式として固体高分子膜形水電解(PEM)があります。3)
図7は固体高分子膜形水電解の原理を示したものです。イオン交換膜の両面に電極が接合されており、水は純水を使用します。電解の効率は良いのですが、陰極の触媒として白金を使うため設備費が高くなります。

図7  固体高分子膜(PEM)形水電解装置 9) と 図8  オンサイト型水電解水素発生装置 10) 

図8は固体高分子膜方式のオンサイト型水電解水素発生装置です。
山梨県では、天候により変動する太陽光発電による電力の振れを、固体高分子膜形水電解で吸収する試験が計画されています。

3.おわりに

水素の製造方法について色々と見てきましたが、現在の主流は水の電解です。国は、水電解装置のコスト低減を進め、同装置の輸出拡大を計画しています。海外では、再エネ電力が安く、水電解装置市場の拡大が期待できるためです。
水電解装置の運転が系統電力の需給バランス調整に役立ち、再生可能エネルギーの活用が広がることが期待されています。
(その3)で水素の運搬、貯蔵について記します。

【参考資料】

回答者

エネルギー管理士 本橋 孝久