2022年4月から中小事業主にもパワハラ防止措置が義務化されます。(第5回)-相談窓口設置などパワーハラスメント防止の準備・対処が、会社のより安全安心な成長・存続へ!?-

2022年 3月15日

解説者

弁護士 富永高朗

ハラスメント相談窓口や就業規則を気にしなかったケース

…経営者の独り言風に…

退職する社員が続いているなあ。。わざわざ弁護士からの通知で辞めると伝えてきた人間まで出てきた。まあ、うちに合わなかったんだな。。次の採用を急げばいい。。そういえばこないだ辞めるっていってきたAは、その前に、私に突然、同僚や会社の制度の文句をつけてきたな。。突然、私に言ったってわかるわけないだろ。幹部は、私の考え方をきちんと社員に伝えてくれているはずだ。。就業規則?…そんなの形だけで役に立たないでしょ。今はトップセールスに集中しなきゃならない。。仕事を獲得するのがどれだけ大変かは、当然、幹部も社員もわかっているはずだ。。

解説

1.パワーハラスメントに関する相談窓口を設置しましょう

上記ケースは、架空のケースです。しかし、2022年4月から、中小企業にもパワーハラスメント防止措置義務が適用されてまいりますところ、その一内容として、相談(苦情を含む。)窓口の設定があります。

厚生労働省発表の告示はこちらです

相談窓口の設定は、問題の早期解決・深刻化の予防にとって大切です。

厚生労働省の、令和2年10月実施の職場のハラスメントに関する実態調査(以下では「厚労省調査」といいます。)では、上司と部下のコミュニケーションが少ない・ない場合に、パワハラを経験した方と経験しなかった方との差が、特に大きいと指摘されています。

なお、同調査は、「全国の従業員30 人以上の企業・団体」を対象としたものであることには留意が必要かと存じます。

相談窓口の設定は、困ったときの部下とのコミュニケーションの場として、生きてくることが考えられます。いわば、社員の安心感を滋養する観点(一種のセーフティネット)です。

また、相談窓口の設定は、経営者の方々の負担を軽減することにもつながりえます。経営者の方々が、突然、社員から相談をされたとしても、対応に苦慮する場合もありえます。

上記ケースのような場合でも、もしも、相談窓口があり、同僚や会社の制度に関する不満や不安について、話を聞き、適切に対応できていれば、退職するまでには至らなかったと考えられる場合もございます。

もっとも、相談窓口の設定に当たっては、窓口担当者として適切な人員を選任することが大切です。

前述の厚労省調査では、ハラスメントの予防・解決のための取組状況について、「相談窓口の設置と周知」を実施していると回答した企業は約8割程度であったものの、「相談窓口担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにするための対応」の割合は全てのハラスメントにおいて約4割程度であった、とのことです。

パワハラが個人の尊厳にかかわる問題であること、風通しの良い職場環境の構築が社員が伸び伸びと働く上で大変重要であることなどを理解し、相談内容についての秘密も厳守するなど、社内の信頼が厚い方に担当して戴く必要があります。

担当者の方々にパワハラの内容や相談対応時の注意点などについても、研修を行うこと、相談を受けた際の対応手順を具体化することなども重要性を増すと考えられます。

2.社員が相談しやすいよう、プライバシーの保護や周知・啓発も、ぜひ行いましょう。

また、相談窓口が活用されるよう、設置を周知することも重要です。

パワーハラスメント防止措置義務には、相談者のプライバシー保護や相談をしたこと等による不利益取扱いをしないことの周知・啓発も、含まれます。

具体的周知・啓発としては、ポスターの掲示、社内報での案内、社内メール・ラインを通じた周知なども考えられます。 

前述の厚労省調査では、勤務先がハラスメントの予防・解決に「積極的に取り組んでいる」と回答した者で、ハラスメントを経験した割合が最も低く、「あまり取り組んでいない」と回答した者でハラスメントを経験した割合は最も高いとのことです。

相談窓口の「周知」自体も、ハラスメントの予防の効果を有することが考えられます。

厚労省調査では、ハラスメントの予防・解決のための取組を進めたことによる副次的効果は、「職場のコミュニケーションが活性化する/風通しが良くなる」の割合が最も高く、次いで「管理職の意識の変化によって職場環境が変わる」が高かった、とのことです。会社への信頼感が高まるとの指摘も見逃せません。

そして、社内で適切に対応することは、社外の第三者関与による場合に比べても、問題の早期解決・深刻化の予防にも沿いやすいところです。

帝国データバンクの発表では、「従業員不足による収益悪化などが要因となった倒産(個人事業主含む、負債1000万円以上、法的整理):「人手不足倒産」について、2019年まで、4年連続で過去最多を更新しているとのことです。

人口減少社会がさらに進む可能性も危惧されます。益々採用・定着が困難となることも考えられます中で、まずは縁のある、社員一人一人について、「大切に考えている」というメッセージを発する重要性もまた、益々高まっていくものと考えられます。

3.パワーハラスメント防止にむけて、就業規則も見直しましょう

上記ケースでは、就業規則についても、あまり認識が高くはないようです。

しかし、前述の通り、2022年4月から、中小企業にもパワーハラスメント防止措置が義務化されてまいりますので、就業規則での明文化は有用です。

また、そもそも就業規則は、会社の基本的なルールの一つです。

例えば、以下のような、必ずしも適切とは思われない規定ぶりがある場合もございますが、会社のより安全安心な成長・存続の観点からも、早期に改訂することが大切と考えられます。

  • 正社員、有期雇用社員など労働契約の種類が異なり、実務上も、異なる処遇としているにもかかわらず、就業規則上は、異なる処遇であることを明記などしていないなど、実態と形式が整合していない場合
  • 労働基準法以外の法令も、就業規則上、会社の義務となるかのように定められている場合(労働基準法以外の法令は、当然に労働契約の内容になるものではありません。例えば、労働安全衛生法などでは、刑罰をもって順守させようというものではなく、啓発基準として実現を期待する意味での規定も少なくありません。)
  • 固定残業手当かのように実務対応がなされていても、固定残業手当として、裁判上認められるための要件が充足されていない場合

就業規則の変更は、無制限に行えるものではなく、後に、社員から変更の有効性を争われた場合、有効性が認められるためには、変更が「合理的なもの」である必要があります。

就業規則の有効性を否定され得る、あるいは少なくとも、争われうるような「想定外」の事態をできる限り防止する(備える)ことは、企業活動のサステナビリティを高める観点からも、大切となって参るかと存じます。

2016年に、日弁連が実施した、中小企業の弁護士ニーズ調査によれば、経営者の困りごとの4番目に各種社内規定の策定、法令順守があげられておりました。約21%の中小企業が困りごとに挙げています。

しかし、この困りごとについて弁護士に相談されているケースはまだまだ多くはありません。前述の中小企業ニーズ調査でも、各種社内規定・ルール整備について弁護士に相談した割合は約17%にとどまります。社会の変革が加速度的に進むとともに、法改正もまた、多岐にわたるようになっております。社会の変化に沿った、各社組織の成長・存続に向けて、トラブル・紛争以前の段階で、弁護士と向き合うことの大切さも増していくことと考えられます。

弁護士と向き合ってみた別のケース

経営者「窓口を創るって、社員の安心感につながるんですね。。私が知らなかった社員の声が色々と出てきました。私が社員に対して、伝わっていないことがあるなと感じるように、社員の立場に立ってみれば、同様に、私に対して伝えることができなかった出来事もあったんだなと感じます。
不平・不満だけでなく、気づかなかった業務や現場の改善点なども、少しずつ出てきました。優先順位をつけて、解消を目指しつつ、わが社の経営理念への理解促進、個人への成長への期待や、外部環境への危機意識も併せて伝えるように意識しています。
一歩ずつですが、相互に理解が進んできたように感じます。」  

まとめ

ポイント
 1.パワーハラスメントに関する相談窓口を設置しましょう
 2.社員が相談しやすいように、プライバシーの保護や、周知・啓発も、ぜひ行いましょう
 3.パワーハラスメント防止にむけて、就業規則も見直しましょう

上記の通り、弁護士は、各社が備えるための体制構築も含め、ハラスメントに関する相談をお受けしています。もしも相談する弁護士がおられない中小企業経営者の相談へとつなげる窓口として、日弁連には、ひまわりほっとダイヤルが設置されております。 

ひまわりほっとダイヤルのお申込や、ひまわり中小企業センターの詳細についてはこちらからご確認いただけます。

解説者

富永バトン経営法律事務所 弁護士 富永高朗