ビジネスQ&A

「メタバース」の領域では今後どんなビジネスが発展していく可能性があるのでしょうか。

2023年 3月 31日

「メタバース」というワードを耳にする機会が増えました。今後この領域ではどんなビジネスが発展していく可能性があるのでしょうか。日本の中小企業の入り込む余地と併せて教えてください。

回答

メタバースとは、オンライン上に構築された3次元の仮想空間のことを指します。その空間では、ユーザー同士の交流やさまざまな娯楽を楽しむことができるほか、ビジネスの舞台としても大きな可能性を秘めています。すでに投資を含む多様な経済活動が始まっており、モノづくりで培った技術力を駆使してメタバース空間で存在感を高めている中小企業も存在します。

2030年のメタバースの市場規模は6788億ドルと予想

メタバースとは、英語のmeta(超越した)とuniverse(宇宙)を合成した造語で、仮想と現実を融合してオンライン上に構築された3次元の仮想空間を意味します。ユーザーは、アバターと呼ばれる自分の分身を操作することによってメタバース上で自由に活動でき、ユーザー同士の交流や、買い物、音楽フェスなどの各種バーチャルイベントを楽しむことができます。また、展示会への参加や、仮想オフィス・バーチャルショップの出店などによるビジネス活用も広がっています。

2021年にはオンラインオークションにおいて無名アーティストのデジタルアート作品が約75億円で落札されて話題になりました。これは、ブロックチェーンの技術を用いて改ざんや代替を不可能にするNFTの仕組みにより、デジタルでありながらリアルと同等に唯一無二の価値を持たせることに成功したため実現した取引といえます。このように仮想空間での活動も、さまざまな技術の発展によってリアルと同等に行えるシーンが増えてきました。

現在では、メタバースの特徴の一つである「デジタル空間での体験の共有」と好相性なエンターテインメント分野でのビジネスが先行しており、複数のユーザーがコミュニケーションしながらプレイするオンラインゲームがその代表例です。また、スポーツブランドのナイキがメタバース空間にショップをオープンさせたことや、有名ブランドが参加して行われるメタバースファッションウィークなども話題になっています。国内では、JR東日本が手掛けるオリジナルの仮想空間「メタバースステーション」や、国土交通省が全国の都市を3Dで再現しオープンデータ化した「PLATEAU」などの取り組みが進行中です。総務省が発表した「令和4年情報通信に関する現状報告」によると、メタバースの市場規模は2021年の388.5億ドルが30年には6788億ドルと約17倍に拡大。このほかの調査でも、メタバース市場は今後加速度的に拡大することが予想されています。

世界のメタバース市場規模(売上高)の推移及び予測

無限の可能性を秘めるメタバースでのビジネスは「販売」と「協業」から

ではメタバースが発展していくと、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。可能性は無限にあるためその輪郭をつかむことは難しいのですが、少なくとも「リアルでの暮らしをより便利にする」という方向は拡大していくと思いますので、仮想空間におけるビジネスやショッピング、教育の機会などは、今よりもさらに充実していくでしょう。一方で、リアルの自分とは違ったキャラクターで新たな社会との接点を持ち、リアルでは味わえない体験が得られる場としての側面が伸びていく可能性もあると思います。近い将来であってもどんなサービスが定着するか分かりませんので、ビジネスとして考えるのであれば、その動向を注意深く探っておく必要があるでしょう。

そんなメタバース市場へ中小企業が参入する方法に関しては、「販売」「協業」という2つがイメージしやすいと思います。メタバース空間で「販売」を行うには、いずれかのプラットフォームでバーチャルショップをオープンすることになります。このバーチャルショップの構築は、専門の制作会社などに外注することが一般的です。同じくオンラインで販売する「ECサイト」に比べ、バーチャルショップにはユーザーが実店舗を訪れるのと同じような感覚でショッピングを楽しめるという利点があります。また、現時点ではメタバース空間への出店自体に話題性があるため、リアル・バーチャル両面でのPR効果が期待できるかもしれません。

いきなりバーチャルショップの出店に抵抗がある場合、複数企業が連携して行うメタバース空間内でのイベントに参加する「協業」という方法もあります。これなら初期投資と手間を抑えることができるため、リスクも少なくて済むでしょう。製造業におけるDX推進の流れから、今後、企業がメタバース上で製品開発を「協業」するケースは増えてくると思います。メタバース内での「協業」に今から取り組んでおくことは、そのような新潮流への対応をスムーズにしてくれるかもしれません。

いずれにせよメタバース市場に参入するには、リアルの世界で収集したデータをオンライン上に再現する「デジタルツイン」をはじめ、VR、AR、MRなどの新技術を常にキャッチアップしていく必要があります。そのような領域に対応できる人材の確保および育成といったことは、参入に不可欠なプロセスといえそうです。

モノづくりで培った技術は、今後のメタバース空間に欠かせない要素に

上記のようにメタバース空間内での販売や協業であれば、どんな企業にもすでに道は開かれているといえそうです。ただ、メタバース空間のプラットフォーム構築に関わるビジネスに関しては、日本を含む世界の大企業がしのぎを削っている領域であるため、関われる可能性があるのは革新的な技術を持つごく一部のスタートアップ企業に限られるでしょう。

しかし、どんなメタバースのプラットフォームにも、その空間を充実させるためのさまざまなコンテンツが必要になります。このコンテンツ制作において、日本の企業が培ってきた文化や技術は優位に働くでしょう。例えば、日本発のアニメやゲームは世界中に数多くのファンを持っていますし、究極にリアルな仮想空間を実現する上では、現実世界でのきめ細やかな技術やノウハウが生きてくるはずです。つまり、日本のお家芸ともいえる「モノづくり」の技術力は、メタバースの今後の発展に欠かせない要素になってくるかもしれません。

実際、モノづくりで培った技術やノウハウを生かし、メタバース空間内で存在感を高めている企業もいます。長年にわたって自動車メーカーの試作開発に携わってきたある中小企業では、DX推進の流れを受けVRデザイン検証および解析シミュレーション用の3Dデータ制作に対応できる体制を構築。この技術習得や社内DXへの流れがきっかけとなり、メタバース空間での自動車メーカーの展示会において、出展各社が用意するVRコンテンツの制作という仕事の受注につながりました。

ここまで説明してきたとおり、メタバース市場は無限の可能性を秘めていますが、現在はまだ市場として成熟している状況ではなく、不確定な要素が多いことは念頭に置いて投資判断すべきでしょう。最新のテクノロジーなどもどんどん活用して新たなビジネスフローを構築していくことは企業が競争力を保つ上で重要です。ただ、テクノロジーの活用自体が目的になってしまうのは本末転倒でしょう。それが自社のエンドユーザーにとっての価値向上につながるか。この視点を常に意識することが、メタバースを自社の発展に結びつけるカギとなりそうです。

回答者

中小企業診断士 浅見 達