~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第153回中小企業景況調査【平成30年7~9月期】

酷暑・豪雨・地震・台風に翻弄される中小企業経営

2018年7-9月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)が▲15.6(前期差1.6ポイント減)と2期連続で低下した。記録的な猛暑の中、例年にない頻度で自然災害に見舞われた平成最後の夏は、全国の中小企業経営者に改めて企業活動を継続していくことの難しさを知らしめる格好となった。今期調査に寄せられたコメントでは、予想を超える被害に見舞われている各企業の状況が反映され、中小企業経営者が考えるべき新たな経営課題として自然災害や猛暑が確立されたことが印象付けられる。

1.地域別業況判断DIの長期推移から見える今期の中小企業経営

今期の全産業の主要DI(前期比季節調整値)は、業況判断DIで▲15.6(前期差1.6ポイント減)、売上額DIで▲14.8(前期差2.3ポイント減)、資金繰りDIで▲11.9(前期差0.6ポイント減)となっている。

今期は全国的な猛暑が続く中、各地域でかつてないほどの様々な自然災害が発生した。ここでは、その影響を地域別業況判断DI(前期比季節調整値)の推移を踏まえ検討していく。

地域別業況判断DI(前期比季節調整値)

過去10年間の地域別業況判断DIを見ると、リーマンショック以降、緩やかな上昇にあるものの、2011年の東北地方太平洋沖地震では、全国的にDI値が大きく低下したことが確認できる。また、2016年の熊本地震では、九州・沖縄地域を中心に広い範囲でDI値が低下したが、一方で、地域差がみられたこともあり、地域毎に生じた様々な事象の影響を受け業況感が決定していることも推察される。こうした中、今期のDI値は過去との比較においても広い範囲で下振れしていることがわかる。

最近3年間の地域別業況判断DIに焦点を絞り、改めて今期のDI値を振り返ると、自然災害の被害に遭った西日本、特に中国・四国地域において大きく下振れしている状況にある。今期の調査実施時点は北海道胆振東部地震が起こる前だったためその影響は含まれていないが、西日本の今期調査結果を確認する限り、本レポートのリリース時においては北海道や東北地域の業況判断DI(前期比季節調整値)が大きく低下していることが推察される。また、サプライチェーンの視点から考えると、業況判断DI(前期比季節調整値)にみる西日本の状況は、今後、その余波として他地域で活動する中小企業の業況に様々な影響をおよぼす可能性が高いと指摘できる。

最近3年間の地域別業況判断DI

2.中小企業経営に対する自然災害の具体的な影響

全国的な猛暑、各地の豪雨、地震、台風の影響により、今期の地域別業況判断DI(前期比季節調整値)は大きく低下した。猛暑や自然災害は、実際の中小企業経営にどのような影響を及ぼしているのだろうか。経営者より寄せられた多くのコメントを通してその具体的な内容を確認していく。

【コメント】

<北海道>
  • 異常気象による野菜等の仕入れ単価の上昇が引き続き大きく影響しているので、売り上げが増えても収支はあまりかわらないと思う。(飲食業 北海道)
  • 天候悪化により、旅行者が少なかったように思う。又、日本人だけでなく、外国人のニーズにこたえるメニュー作りが、必要である。(対個人サービス業 北海道)
<東北>
  • 今期は記録的猛暑により、外出を避ける人が多かった影響で、夏の商戦は大変苦戦しました。秋になり気温が下がってくれば、外出する機会も増え売り上げにプラスとなることを期待したい。(小売業 宮城)
  • 自然災害や台風、豪雨などにより、旅行を控たり中止する人が増えているように思う。又、公共交通機関の運行中止も多くなり、キャンセル数も増加している。天候に左右される業種なので、例年通りの気候を希望する。(宿泊業 秋田)
<関東>
  • 夏季は気温上昇しすぎてアルコールの出が悪く感じます。ゲリラ雷雨など台風も天気に客足も左右されやすい。(飲食業 東京)
  • 猛暑および週末を中心に連続発生した台風の影響で予約は停滞、更には従業員欠員による売止め・予約制限が、人数・売上減に拍車をかけた。天候不順による食材仕入単価も上昇。この傾向はまだ続きそう。(宿泊業 静岡)
<中部>
  • とにかく注文が少ない。暑すぎることもあり外出が少なく、お客様も売れていない。昨年の秋は週末が台風もしくは大雨で悪かったので、せめて今年は行楽日和であることを期待する。(卸売業 岐阜)
  • 夏休み期の需要はそこそこで、昨年ベースで推移したものの、台風、大雨、大風、猛暑等自然による交通機関の運休、災害地の発生等旅行ニーズの減退が感じられた。(宿泊業 石川)
<近畿>
  • 7月度は台風や酷暑などの影響から、イベントの中止や来店客の減少などがあり(店舗・量販店ともに)、売上が伸び悩んだ。気候条件などに左右されない(されにくい)販売方法や商品開発が必要に感じた。(食料品 奈良)
  • 豪雨や猛暑、頻発する台風の影響によりレジャー業界全体が大きな打撃を受けている。また、市場の需要に対して対応のスピードが不足しており、今後の商品企画および展開には課題を多く残す結果となっている。(その他製造業 兵庫)
<中国>
  • 6月中旬の大阪北部地震から、7月の豪雨・酷暑・台風の影響をまともに受け、7月の売上は過去最低となった。今年に入り、宿泊客・休憩客とも減少してきており、景気悪化は勿論、大きな時代の転換期にあると感じる。(宿泊業 鳥取)
  • 西日本豪雨災害による、工場の浸水による操業停止により、7月度の業績は減少傾向である。設備等の損害も少額であり、8月以降は業績も平常に回復する見込みである。(繊維工業 岡山)
<四国>
  • 暑すぎる夏の為にただでさえ2月8月は物が売れないのに、輪をかけて業況は悪化したと思う。機械にも作動上不備が出たりして修理にお金が出たりと最悪である。自然現像に文句も言えないが、きつい夏だったと思う。(食料品 香川)
  • 西日本豪雨災害以降荷動きがピタッと止まった。10月以降は逆に間に合わなくなる可能性が高い(窯業・土石製品 愛媛)
<九州・沖縄>
  • 盆明けから受注が減少している。台風、大雨の影響で工期が遅れ、下請にクレーン工事を回した日も多く、あまり良くなかった。(建設業 大分)
  • 台風の影響で商品の発送ができず一般の販売に回す為再度、商品の仕入確保に難儀を余儀なくし、体力維持、健康を大事に商(笑)売に励む事を目標。(小売業 沖縄)

3.見通し:事業継続のために準備すべきことを明確にする

全国的にも業況判断DIが低下した今期、調査に寄せられたコメントに基づいて、猛暑と自然災害に見舞われた中小企業の厳しい経営環境を振り返ってきた。

災害は当該地域の問題としてだけでなく、サプライチェーンに損害を与えるため、全国各地へその余波が飛び火する。商品在庫不足、原材料の価格高騰、輸送コストの上昇、消費の停滞など、挙げればキリがないほどの例年の夏とは異なる想定外の事態・状況に、多くの経営者が困惑し、その対応に追われたはずである。

予想をはるかに上回る自然災害に対して、その場その場で対応することはもちろん重要であるが、今期の経験を踏まえ、ここでBCP(事業継続計画)の策定に着手することも考える必要があるだろう。自社が活動を継続するための計画であるが、今期のコメントにあるようなサプライチェーンへの影響に鑑みれば、BCPの策定はステークホルダー全体を守るための果たすべき責任とも捉えることができる。いつどんなことが起きても対応できるようにするために、一体どのような準備をする必要があるのか。この機会に検討することが求められているのだろう。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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