~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第155回中小企業景況調査【平成31年1~3月期】

世界経済の減速懸念が高まる

2019年1-3月期の中小企業景況調査は、全産業の業況判断DIが▲14.9(前期差1.1ポイント減)と一転してマイナス幅が拡大した。また、製造業の業況判断DIは▲14.5(前期差4.3ポイント減)、非製造業の業況判断DIは▲15.0(前期差0.0ポイント)と、これまでの緩やかな改善基調が今後どのような方向に変化していくのか注視が必要な状況に至っている。

今期の調査に寄せられたコメントでは、世界経済が転換点を迎え、減速し始めていることを肌で感じ取った中小企業経営者からの業況の先行きに対する懸念が示されているものが多い。そこで、今期の調査結果を通して不透明感の強まる足元の経営環境の詳細を振り返り、今、中小企業経営者にどのようなことが求められているのかを検証していく。

1.業況判断DI、2年間の踊り場の中で(2017年4-6月期~2019年1-3月期)

図‐1 全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)と売上額 DI(前期比季節調整値)の推移

今期の業況判断DIを見ると、全産業▲14.9(前期差1.1ポイント減)、製造業▲14.5(前期差4.3ポイント減)と、ともに2期ぶりにマイナス幅が拡大した。非製造業の業況判断DIは、▲15.0(前期差0.0ポイント)と横ばいとなった。

図‐1の全産業の業況判断DI及び売上額DI(ともに前期比季節調整値)の過去10年間の推移を確認すると、一時的に10ポイント以上の落ち込みをみせる時期はあるものの、2017年4-6月期まで緩やかな上昇傾向の中にあったことがわかる。そして、その後から現在までの2年間は踊り場の状態が続いている。

図‐2 産業別業況判断 DI(前期比季節調整値)の推移

業況判断DI(前期比季節調整値)を産業別に見ると、2011年4-6月期以降、東日本大震災の復興需要の影響もあり、建設業が高いDI値で推移していることがわかる(図‐2)。一方、小売業はこの10年間、低迷を続けており、国内消費に力強さがないことが推察される。他にも、運送業・倉庫業の活況を受け、サービス業においては、▲12.5(前期差1.6ポイント増)と改善の動きが示されたものの、製造業では、▲14.5(前期差4.3ポイント減)、卸売業では▲14.9(前期差5.8ポイント減)と落ち込みが確認できる。製造業や卸売業は海外の需要動向の影響に左右される傾向にあり、今期の調査結果に示された景況感の要因であると考えられる。

2.堅調な海外需要に支えられる中小企業景況

これまで本レポートでは、過去2回、海外経済の影響について取り上げてきた。最初に取り上げた第141回(2015年7-9月期)のレポートでは、各産業の売上額DI(前期比季節調整値)が1年ぶりに足並みを揃えて改善し、その背景として海外需要を取り込もうとする、もしくはその取り込みに成功している経営者の姿をコメントに基づいて指摘した。

2回目の第152回(2018年4-6月期)のレポートでは、全産業の業況判断DI(前期比季節調整値)が踊り場の中で、売上額DI(前期比季節調整値)や資金繰りDI(前期比季節調整値)が改善した要因について、4期連続で改善を示した製造業の輸出額DI(前年同期比)の推移を手掛かりに検討を行った。

3.中小企業経営者が感じる足元の世界経済

国内の中小企業経営においては、近年、世界経済との接点が明確となっており、その動向に業況が左右される状況にある。こうした中、今期経営者より寄せられたコメントでは、世界経済の先行きに対して強い懸念が示されている。

【コメント】

<製造業>
  • 世界的な再生紙不足により、再生紙の仕入価格が20%程度も上昇している。来年度分の再生紙を先行して在庫するが、半年程度で底をつく。(印刷 東京)
  • 時代の動きはいつどうなるか見えない。直面するのが電子部品の入手困難。電気自動車が世界レベルで開発する状況になったため、私達の分野は増産に支障をきたしている。(電気・情報通信機械器具・電子部品 茨城)
  • 米中関係悪化による中国、欧州を中心とした需要の減速が国内メーカーの減産に繋がり、受注減に対する生産体制の見直し遅れが損益の大幅悪化を招いている。(機械器具 徳島)
<建設業>
  • 鉄筋用ボルトが入手困難で、注文から半年後納品の状況が続いている。(長野)
  • 資材が不足している為、材料の購入及び納期の見通しがつきにくい。又材料の単価が上昇しているためコスト高に成っている。(石川)
  • 資材メーカーから軒なみ値上げの知らせが来ている。工事受注単価の引上げを元請に言ってもなかなか受入れてもらえない。受注が増えても利益は上がらない。(大分)
<卸売業>
  • 主力得意先の大手量販店からの受注が低迷し、為替の影響によるコストの上昇も、納品単価には反映させる事が出来ずに、売上は昨対微減ですが、利益面での悪化が激しい状況。(大阪)
  • 中国経済衰退と環境規制により、日本から輸出する原料価格の低下や出荷量の減少につながり業況は悪化している。(福岡)
  • 古紙の販売に関しては、中国製紙メーカーの調達次第で日本国内の需給バランスが崩れる。それにより、販売価格が安定しない。(福岡)
<サービス業>
  • 人件費や清掃費、水道光熱費等の経費増の一方で海外受注に陰りが見えてきており、厳しい状況は続いている。特に例年に比べ春節の特需が薄らいだように感じる。(宿泊業 神奈川)
  • 中国、韓国の関連企業が予想より大幅に売上が減少している為、レクリエーションなどを取り止めているので今年も売上は期待できないと思う。(対個人サービス業 富山)
  • この半年位、中国の環境政策の変更により、日本国内に廃棄物が滞留する現象が顕著になってきました。売上が減少に転ずる中で、2次先から受入制限や処分料の提示をうけ大変苦慮しています。(対事業所サービス業 千葉)

4.見通し:転換点において求められる経営

経営のグローバル化が国内中小企業の経営に求められるようになり、近年、海外との接点を増やすべく活動を進めてきた経営者たちは、今、その行く先に対して不安の声を発し始めている。今期、業況判断DI(前期比季節調整値)が悪化した製造業や卸売業からは、在庫調整の局面を迎えており、他国の外交の成り行きを危惧するコメントが寄せられた。また、他の産業においても、海外企業の業績悪化や他国の政策の転換による影響についてコメントが寄せられた。

業況判断DI(前期比季節調整値)がこの先どのように変化するのかは、この数年で開拓した海外における活動にかかっているだろう。今期の調査に寄せられたコメントからは、次の一手として、現在の取引先地域や企業だけではなく、他の選択肢を模索し、行動することを常に意識した経営が強く求められるようになってきたことが示唆された。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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