農業ビジネスに挑む(事例)

「スクーリング・パッド」農業への関心を引き出し、実際の行動へ誘う

  • 大学のゼミのような丁々発止のセミナー
  • 農業の厳しい現実も素直に伝える

大人のための学校をつくろう。ただし、そこでは知識や教養を教えるのではない、内包する自らの関心や問題意識をさらに明確にさせるきっかけを提供する。そんな思いから2005年に設立されたのがビジネススクール「スクーリング・パッド」だ。

スクーリング・パッドでは設立当初から、デザインを対象とした「デザインコミュニケーション学部」、レストラン経営を対象とした「レストランビジネスデザイン学部」を開講している。受講期間は約3カ月間(1期)。講座には毎回その道のプロフェッショナルをゲスト講師として招く。ただ、講師から受講者へ一方的に話すのではなく、聴講する受講者も自らの考えを講師や聴講する仲間に問い、そこに参加する人たちが互いにセミナーのテーマを深く掘り下げていく。スクーリング・パッドの形式は大学のゼミのようであり、アクティブなセミナーを通して受講者、講師ともに学び合う場とすることを企図している。

ビジネススクール「スクーリング・パッド」では2007年から農業を対象にした「農業ビジネスデザイン学部」を開講。2012年夏には6年目の講座をスタートした

農業をテーマにしたビジネススクール開講

スクーリング・パッドは開校から1年後の2006年に「映画学部」を設け、さらに2007年には農業を対象にした「農業ビジネスデザイン学部」を開講した。

俳優の永島敏行さんが学部長を務め、ゲスト講師には、生産・流通・飲食・地域おこし・デザインなどさまざまな観点から「食と農」でビジネスを起こしたスペシャリストを招く。

「農業ビジネスデザイン学部の受講希望者は、農業に対する問題意識の高い人が多いです。そのためゲストスピーカーの講師にはそれぞれがもつ農業への理念や考え方を伝えていただいています」(株式会社スクーリング・パッド取締役、子安大輔さん)

受講する人たちの職も農家の娘婿、食関係のウェブサイトのディレクター、果物専門店の元店員とさまざまだ。ただ、現在の職業が農業に関係あってもなくても関心は一様に高い。そんな受講者に対して農業に関わる講師たちが多様な視点で農業の現状や自らのフィロソフィを語る。農業ビジネスデザイン学部は、その講師の話を介してそれぞれの受講者が農業に対して漠然と抱いていた自らの関心をより明確にできるきっかけづくりを狙っている。

農産物の栽培技術や農業の経営などの実務を教えるのではなく、現在の農業に対して受講者がもつそれぞれの関心や問題意識をセミナーを通してさらに明確にし、行動へ移すきっかけになることを意図している。
「いわば、教えない学校なのです。それでも実際に何かに気づき、受講者が単独でもしくは受講者同士が協力して行動を起こすこともあります。そうした行動のきっかけとなる場、またファシリテーションを司る役目が農業ビジネスデザイン学部なのです」(子安さん)

実際、農業ビジネスデザイン学部の受講生同士が意気投合して事業を起こすケースもある。例えば、農と食をテーマに食品開発する会社や農業の情報を提供するウェブサイトの運営を始めたり、また、実家が農家だが農業はせずに東京で働く息子たちが農業ビジネスデザイン学部で出会い、互いの実家に対する共通の思いを認識し、実家の農産物をイベントなどで販売する会社をおこしたなど、農業に対して独自の観点からビジネスを始めている。

俳優の永島敏行さん(中央)を学部長とする「農業ビジネスデザイン学部」は、農業に対する受講者それぞれの関心や問題意識を明確にできるきっかけづくりを企図している

受講の価値はそれぞれに決まる

これまでの6年間で約200人の受講者が学んだ。1年間に1期(約3カ月間)の講座を設け、12回のセミナーを実施する。受講料は18万9000円とけっして安くはない。が、12回のセミナーで受講者がなにを感じ取り、意識づくりや行動のきっかけとするかによってその価値は変わってくる。

「受講から農業に向けて一歩を踏み出そうとする受講者にはきっちりとサポートをします」(子安さん)

なんとなく抱いていた農業への関心を具体化させるべく受講者が行動を起こすとき、農業ビジネスデザイン学部は可能な範囲でのサポートも惜しまない。

とはいえ農業は見た目以上に厳しい産業であることも確かだ。だからこそ、「セミナーのプログラムでも意識的に農業の厳しい現状を伝えている」(子安さん)という。今年も8月に6年目の講座が始まった。

企業データ

企業名
株式会社スクーリング・パッド
Webサイト
代表者
黒崎輝夫、中村悌二
所在地
東京都世田谷区池尻2-4-5 世田谷ものづくり学校207号室