農業ビジネスに挑む(事例)

「あっぷふぁーむ」独自の発想で水田オーナー制度のビジネスをおこす

  • オーナーは企業に限定する
  • 米生産者には高位で安定した収入をもたらす

都会の企業が水田のオーナーとなり、その水田を実際に所有する農業生産者が米をつくる。この水田オーナー制度を運営するのが株式会社あっぷふぁーむ(鳥取県日南町)だ。

同社の代表取締役・高橋隆造さんは大阪出身、しかも農業経験はゼロ。2001年に大阪で宝飾ビジネスを起業して成長させたが、大学時代に発症したパニック障害に悩まされ、やむなくビジネスを断念、7年後に廃業した。パニック障害には農業がいいということを女優・高木美保さんの体験談から知り、一転して農業での起業を決意した。

2009年4月、知人の伝手から鳥取県日南町に農地を借り、2人の友人と農業法人あっぷふぁーむを設立し、ピーマンとじゃがいもの栽培を始めた。しかし、農業はそんなに甘くなく、経営は大赤字。2人の友人は会社を去っていった。

「農業生産で利益を上げるのは無理」と判断した高橋さんは、農産物生産のみならず、地域の農産物を流通させる商社のような機能でビジネスを展開しようと発想を転換した。さらに、日南町の農業生産者が抱える問題の最たるものが、よい農産物を生産しても販売システムが確立されていないため正当な利益が得られないことも実感していた。それをなんとかしたいという思いも新しいビジネスへ踏み出す後押しになった。

オーナーを企業に限定した「水田オーナーズクラブ」。水田の前にはオーナー企業の名が記された看板が立つ

独自のオーナー制度を発案した

ちょうどそんな時だった。設立当初からあっぷふぁーむが野菜以外に稲作も少し手がけていたことから、近隣の米生産者から米を預かり、大阪で旧知の企業経営者に販売してみることにした。すると企業経営者からの評判がすこぶるよかった。うまい米だと。そこでこれを独自に事業化できないかとアイデアをめぐらせ、企業に限定した米のオーナー制度を考えついた。オーナーが企業ならば自家消費ではなく、顧客へのギフトなどビジネス用途に用いる。そこがミソだ。

「かつて大阪で企業経営をしていたので、経営者のマインドはよくわかります。納得できる商品であれば、経営者は経費を惜しみません」

そう、一般消費者を対象とした水田オーナー制度は他にもあるが、1オーナーが買い取る米の量と単価には限度がある。が、企業の経営者ならばギフトなどのビジネスツールに用いるため、品質のよいものであれば単価が多少高くても経費を使う。他とは異なる水田オーナー制度として独自のビジネスモデルを描ける。

こうして同年春、オーナーを企業に限定した「水田オーナーズクラブ」を事業化した。とはいえすぐにビジネスをスタートできたわけではなかった。日南町の米生産者にビジネスモデルを説明しても、よそから入植したばかりの若者の言葉をすぐには信じない。無理もないことだ。何軒も何軒も生産者を回り説明したが徒労に終わった。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。今後の米づくりに強い危機意識をもつ2軒の生産者が契約を結んでくれた。また、オーナーも知己5人が手を上げてくれた。

オーナーのオリジナルブランド袋に詰められた米が収穫後の1年間、あっぷふぁーむから送られる

オーナーにも米生産者にも将来を安定させる先行投資になる

「契約農家さんからの買取価格は従来の流通ルートに比べて2倍近くです。また、オーナーさまからは前払いで料金をいただくシステムのため、農家さんも収入への不安がなく安心して生産していただけます」

水田オーナーズクラブの1年目(2009年)の売上げは150万円ほど、現在はオーナーが80件、契約生産者が50軒で売上げは4000万円まで成長した。

「水田オーナーズクラブは、オーナーにとっても米生産者にとっても先行投資だと思います」

なぜなら、生産者は自ら栽培した米を買う顧客の顔が見えるためやりがいが高まり、かつ収入も高位で安定することで後継者に引き継ぐベースができる。また、オーナーにとっては、自社の看板が設置された水田から収穫された米をオリジナルのパッケージに詰めた独自のギフトをビジネスツールとして得られる。それはまた環境を保全する、農業・生産者を守るという企業の社会貢献(CSR)にも寄与できるということだ。

毎年の「田植イベント」「収穫イベント」は、オーナー企業の関係者が200人近くも集まる日南町の一大イベントになっている

年5月、9月にオーナー企業の関係者を水田に呼び「体験イベント」を催す。都市から200人近い人が日南町を訪れ、田植や稲刈りを体験して契約生産者の人たちと交流する。普段は静寂な田園がにぎわう一大イベントだ。と同時に町おこしにもつながる。

「現在の契約面積は8haですが、最終的には100haをめざしています」

幸いに口コミでオーナーは順調に増えている。水田も日南町には700haもある。オーナーの拡大と水田に問題はない。あとは水田を守っていく次代の担い手を確保することだ。そのためには米生産者が儲かり成功する実績づくりが不可欠であり、それによって若者が就きたい職業に農業を押し上げることが肝要と高橋さんは考える。

実際、あっぷふぁーむのグループ会社である農業法人、株式会社米風土鳥取には他県から2人の若者が入社し、水田で米づくりに汗を流している。次代の担い手の育成が着実に進められている。

企業データ

企業名
株式会社あっぷふぁーむ
Webサイト
代表者
高橋隆造
所在地
鳥取県日野郡日南町福万来843