農業ビジネスに挑む(事例)

「旦千花(たちばな)」登録商標をもつ独自の野菜でビジネスを展開する

  • 小松菜を独自に品種改良して新商品を開発
  • 顧客の前処理を代行するという商品戦略

商標登録された新種の野菜を栽培するユニークな農業生産法人がある。「旦千花(たちばな)」(千葉県八街市)だ。

同社の前身はサンコープロダクツ(1982年設立)という健康関連製品の販売会社であり、それを1986年に現社名に変更し、1997年に農産加工品の製造・販売、2002年に農産物の生産を開始。2005年には農業生産法人を取得して農業分野での地歩を堅実に築いてきた。

同社が商標をもつ野菜(商品)は「江戸菜」といい、小松菜を独自に品種改良した青菜だ。全長40-50cmと小松菜の約2倍の大きさながら、筋が少なくシャキシャキした食感があり、カルシウムやカロテン、ビタミンCが豊富な一方あくが少ないので生でも加熱してもそのシャキシャキ感を楽しめる。

野菜に商標を登録した

小松菜を独自に品種改良した
「江戸菜」

江戸菜の開発のきっかけは、1995年に同社・取締役会長の大槻洋光さんが異業種交流会で浮かんだアイデアが発端だった。

「当時は東京・江戸川区に本社を置いてビジネスしていました。地元の異業種交流会には毎月参加していたのですが、あるとき地元野菜の小松菜で漬物をつくってみなかと提案したのです」

大槻さんは交流会の仲間である農業生産者に小松菜の生産を頼み、自らは製造・販売を引き受けて「小松菜の漬物」づくりを始めた。が、小松菜は水分が多いため漬物にしても出来上がる量が少なく歩留りが悪い。ならば、大きな小松菜をつくれば出来上がる漬物の量も増えて歩留りの悪さも解消されるはずだ。また、大きな小松菜は漬物に向いていると農家のベテランからも聞いていた。

そこで大槻さんは1995年に植物活性酵素を用いて小松菜の品種改良に取り組み、約3年間で大型の小松菜を開発。それを「江戸菜」と命名して商標登録をした。

農業生産者の常識が覆された

「大きくなった小松菜は生では売れない、というのが農業生産者の常識だったのですが…」(大槻さん)

それを覆して江戸菜は勢いよく売れた。漬物としてだけでなく、生の野菜としても江戸菜は順調に売上を伸ばした。その秘訣は独自の販路開拓にあり、その販路開拓を可能にしたのが大槻さんの考案した商品化戦略と営業戦略だった。

まず、商品化戦略だが、同社では江戸菜をきれいに洗浄し、保湿性・通気性のよい袋に入れて出荷する。それは顧客(料理人)の洗浄作業(前処理作業)を同社が代行することであり、それによって顧客はすぐに調理に取りかかれるため商品に利便性を生み出せる。さらに江戸菜は余すことなくほぼ100%使えるため、歩留りがよく調理場に残渣が発生しない。この江戸菜自体のメリットも商品の訴求に大きく寄与した。

つぎに営業戦略だが、同社はすべての顧客と直接取引している。

「大きなホテルなどには購買の窓口があり、料理長に直接営業しようとしても、料理長からは窓口に行けと言われます。しかし、食材を扱う当事者に江戸菜をわかっていただくのが一番ですから、料理長に食い下がって営業してきました」

食材を調理する当事者(料理人)に直接売り込む。それが大槻さんの営業戦略であり、得意の飛込み営業で直接料理人(長)にアタックして徐々に販路を開拓・拡大し、現在は東京、千葉、埼玉にホテルやレストランなど2500社の顧客を抱える。

機械もすべて自前でつくってしまう

独自の商品戦略、営業戦略で江戸菜を売りまくる同社は、それらの生産を当初は千葉県の農業生産者に委託していたが、2001年に農業者認定を得て2002年に農地を取得すると自ら江戸菜の栽培を始めた。その目的は年間を通して一定の品質の江戸菜を安定的に集荷することだった。

同社の生産方法にも独自性が際立っている。「酵素農法」を実践し、1万倍に希釈した植物活性酵素を散布して光合成作用を促すことで大きくても食味のよい江戸菜を栽培しており、その酵素の散布方法には同社のノウハウがぎっしりと詰められている。

また、江戸菜の収穫機や自動洗浄機はすべて自社で開発している。しかも、それらの機械をつくるための工作室から工作機械、技術者まですべて自前で揃えている。

江戸菜をカットして商品化

現在、同社は100人の社員を抱え、農地面積38万6000m2(3.86ha)で年商4億円を売り上げる。江戸菜のほかに赤軸サラダほうれん草、大江戸だいこん、大江戸にんじんなど約70種の野菜を栽培し、直近の売上げの60%が江戸菜、残り40%がだいこん、にんじんなどの野菜だ。

また同社は2005年以降、安心安全を標榜に化学肥料や農薬の使用を従来の50%以下に抑えた「ちばエコ農産物」の認定をつぎつぎと取得している。

江戸菜という独自の新品種を開発して市場を創造してきた同社は、独自の商品戦略と営業戦略をもってそのユニークなビジネスモデルを成長させ続けていく。

企業データ

企業名
農業生産法人 株式会社旦千花
代表者
大槻洋光(取締役会長) 大槻暁子(代表取締役)
所在地
千葉県八街市八街へ296-3