農業ビジネスに挑む(事例)

「坂ノ途中」有機農業を世界に展開する

  • 有機農業を活性化させるため販路をつくる
  • アフリカ東部でも有機農業を始める

農地は未来からの借りもの。だから、持続可能な暮らしを選び、将来の世代に豊かな農地を残すために農薬や化学肥料に頼らない野菜をつくる。それが未来からの前借(農薬・化学肥料に頼ることで農地を脆弱にする)をやめることになる。

それを企業理念に掲げるのが、有機野菜販売をコア事業とする「坂ノ途中」だ。同社の創業者で代表取締役の小野邦彦さんは学生時代にアジアを放浪し、自然の偉大さやそこに暮らす人間と自然との共生の重要性を実感。その体験を通して有機農業に着目し、それを普及・活性化させるための手立てを思案した結果、「販売」に行きついた。

有機農業を活性化させるために有機野菜の販路を確保しようと創業した「坂ノ途中」(写真は2011年夏に開店した「坂ノ途中soil」)

つまり、農地に負荷のかからない有機農業を活性化させるには、有機野菜の販路を確保しなければならない。

「なぜなら、有機農業をやりたいという人はたくさんいますが、生産量が少なかったり、収穫が安定しないことから販売先を確保できず、そのため有機野菜を始めたり、それで新規就農するのが難しくなっているからです」(小野さん)

有機肥料を用いて自然との共生を図りながら野菜を栽培する有機農業は、農薬・化学肥料を用いる農業に比べると生産量が少なく安定性にも欠けてしまう。そのため卸売や小売業者から敬遠されがちになり、有機農業に新規に挑戦(就農)する意欲を持っていても、販路を見出せないために諦めてしまう人が多い。

それなら販路さえ確保しておけば、有機農業でも新規就農しやすくなるはずだ。売り先があればそこに多くの農業生産者が集まる。生産が安定せず、生産量が少量であっても販売できる仕組みがあれば、有機農業に就きたい人への選択肢を広げられる。そんな思いから2009年夏、小野さんは坂ノ途中を設立し、レストランに向けて有機野菜の販売を始めた。

生産が不安定でも少量でも売れる販路がある

創業時、3軒の農業生産者(奈良県2軒、大阪府1軒)と1軒の飲食店から坂ノ途中のビジネスは始まった。生産者から仕入れた賀茂ナスなどの有機野菜を飲食店に卸した。

その後、提携した生産者から他の生産者を紹介してもらい、10数軒の有機農業生産者を開拓した。さらに、坂ノ途中が独自に開拓したり、生産者自身が売り込んできた結果、現在では40軒の有機農業生産者と提携する。それら半数は京都、残りの半数も三重や滋賀など近畿圏の有機農業生産者だ。

取り扱う野菜の品目は年間で延べ300種類あり、そのうち主に160種類を取引する。提携先には生産計画段階から参画し、野菜の集荷も毎日生産者を1軒ずつ回ることでコミュニケーションを図り、それによって生産の見込みを立てている。

坂ノ途中の販売チャネルは、飲食店、デパ地下のスーパー、自然食品店などへの卸売と個人対象のネット通販および自前店舗での小売だ。売上の内訳は、卸売が50%、ネット通販が45%、店舗小売が5%となっている。また、販売エリアは60%が関東地方で20%が地元京都、残り20%がその他各地だ。

店舗は、自社の出荷場の半分を改装して2011年8月にオープン。店名は「坂ノ途中soil」で、提携生産者の中でも栽培面積が小さかったり、収穫量が不安定な生産者の有機野菜を優先的に扱っている。

今後は京都府北部に自社農場を設ける計画だ。そこでは栽培技術の研鑽、有機野菜の外形や出荷形態など販売のための基盤技術の習得を目指す。また、就農体験プログラムを整備し、後継生産者の育成も計画している。このように、技術研鑽、後継者育成など販売以外でも有機農業を活性化させる仕組みづくりに取り組む。

海外でも有機農業の普及に挑戦

坂ノ途中は社員5人、アルバイト13人の小さな会社だが、海外に向かっても果敢に挑戦する。まずは2010年、小松菜、ホウレンソウ、賀茂ナスなどの有機野菜をシンガポールの地元スーパーに輸出した。このビジネスは、翌年の東日本大震災の影響で輸出先のスーパーがオーストラリア産に切り替えたことから一時休止に追い込まれたが、同社の海外展開への意欲は衰えず、2012年夏にはアフリカ東部のウガンダでゴマの試験栽培を始めた。

ウガンダで有機栽培によるゴマの生産を始めた

「ウガンダは土地の乾燥が進んでいるためゴマの栽培には適しています」

小野さんは、2012年にごま油を製造する京都の山田製油と共同で「ゴマ栽培プロジェクトinウガンダ」を発足させ、日本貿易振興機構(JETRO)の助成金(開発輸入企画実証事業)も活用してウガンダの農業生産者にゴマの有機栽培を指導するプロジェクトを始動させた。

ゴマの栽培には、乾燥して雨量の少ない環境が適している。また、ゴマは収穫後の作業が労働集約型なため地元の雇用を増やせる。ウガンダにぴったりな農業生産だ。

「ウガンダで活動する日本人の非営利団体をネット検索で探し当て、ウガンダの農業生産者から信頼されるその団体を介して現地の生産者グループにゴマ栽培を受け入れてもらえたことでプロジェクトがスムーズに進みました」

収穫した良質なゴマは山田製油で商品化する予定だが、坂ノ途中がウガンダへ進出した最大の目的は環境負荷の小さい農業の普及と現地での雇用創出にある。

いずれはウガンダのゴマ栽培も法人化して生産規模を拡大させ、さらに現地からはちみつやシアバター(シアの実から採れるアフリカ特産の油脂)を輸入するなど海外ビジネスを多様に展開する計画もあるが、まずは「未来からの前借をやめる」ための実践をウガンダにも根付かせたい。坂ノ途中は自らの企業理念は国内のみならず海外にも広めようと考える。その第1弾がウガンダでの有機のゴマ栽培プロジェクトだ。

若き企業の視野は広く、また時間軸は長く、そしてはるか遠くを見つめている。

企業データ

企業名
株式会社坂ノ途中
Webサイト
代表者
小野邦彦
所在地
京都市南区西九条比永城町118-2