農業ビジネスに挑む(事例)

「フェスティバロ」伝統野菜を原料にした菓子で海外展開に臨む

  • 伝統野菜の唐いもの振興のため事業を考案
  • 過当競争の国内から海外へ

鹿児島県の伝統野菜「唐いも」(さつまいも)を用いたビジネスで奮闘するのが大隅半島に本拠を構える製菓企業のフェスティバロだ。

同社の社長である郷原茂樹さんは1980年、実家の唐いも農家を継ぐ意志はなく、地元・鹿屋市にカフェテリアをオープンし、都会的雰囲気が好評で人気店となる。

一方、1980年代は多角的貿易交渉の影響から国内に安い農産物が輸入され、国内農家は打撃を受けた。唐いもも例外ではなく、デンプンの原料とされていたが、安価な輸入トウモロコシに取って代わられてしまう。この農家の窮状を何とかしたい。郷原茂樹さんがそんな思いを抱いた頃、国立農業試験場の開発した新品種の唐いもを栽培する篤農家と知り合い、唐いもを使った新規事業による地元農業の支援を決意した。そこで、自営のレストラン(カフェテリアからレストラン事業に転換)で唐いものフルコースやデザートを提供した。また、店舗メニューのみならず、開発したデザート「紅はやとケーキ」がブライダルの引出物に採用されるなど外販にも踏み出した。

フェスティバロは鹿児島の伝統野菜「唐いも」で新規事業を起こした

1993年、鹿児島県が繁華街(鹿児島市内)に建設した「さつまいも館」に出店。フェスティバロの菓子は行列ができる大人気で、その繁華街の中に直営店もオープンさせた。さらに、郵便局の郵パック商品に採用されたり、空港のおみやげショップでキャビンアテンダント(CA)のお気に入り商品として知名度が上がるなどにより販売が加速されていった。

唐芋レアケーキ「ラブリー」は発売から25年を迎える、CAに人気のロングセラー商品

自前で唐いもを調達するため法人を設立

フェスティバロが開発・製造する唐いも菓子は右肩上がりで売上げを上昇させ続けたが、やがて唐いもの調達とそのペースト化(菓子用の原料となる唐いものペースト製造)で悩み始める。

唐いものペーストづくりでは生芋の皮をむくが、その作業はすべて手で行うため、唐いもには、手のひらに収まる大きさ、極力凹凸のないなめらかな形状などが規格として求められる。ところが、それまで地元の農家から唐いもを直接購入していたが、形状や寸法がまちまちなため、ペースト製造に予定した数量の唐いもを安定確保できないでいた。

さらに、対岸の薩摩半島にある加工会社に原料のペースト化を委託していたため、鹿屋市の同社と加工会社(鹿児島市内)との間(100km以上)をフェリーなどで何回も往復するため輸送コストがかさんでいた。

それらの悩みを解消するため1998年、唐いもを生産しペーストを製造する「農業生産法人 有限会社郷之原農菓社」を設立した。唐いもは、信頼の厚い4軒の農家を株主に迎えて栽培を委託した。また、ペーストは自前の工場を建設して製造を始めた。

「最初は何も知らない素人ですから、蒸かした芋でペーストをつくる際、-20℃に急速冷凍するのですが、当初はペーストの塊の中心部だけが冷却しきれずに腐ってしまう。そのような失敗を繰り返していました。そこでよく分析してみると、表面は冷えていても中心部は冷却しきれず高温状態のままであることがわかりました」

そこで高さの低いパン(什器)を特別注文で製作してもらい、パンに収めるペーストの厚みを抑えて冷却することで腐敗の問題を解決した。

地域振興のために…

2005年、フェスティバロは鹿児島市の繁華街に旗艦店「唐芋ワールド」をオープンさせた。5階建てのビルには販売コーナー、カフェテリア、観光案内所、唐いものミュージアムが揃い、まるで唐いものテーマパークのような店舗だ。さらに、2011年には神戸にも工場「神戸菓舎」を建設し、和菓子系の商品の開発・製造を始めている。

創業から現在まで、フェスティバロは唐いもの振興とそれによる地域振興を念頭にビジネスを展開してきた。ペースト工場の建設も地域の農家の振興と雇用の促進につながる。また、唐いも栽培を次代につなげるためにも品種の維持が重要になる。そのため、郷之原農菓社に設けた直営農場では150の品種を維持管理し、地元で栽培することで地域振興にもつなげている。

現在、フェスティバロは年間で約600トンの唐いもを使用するが、そのうちペーストにできるのは約60%だ。既述のようにそれだけ品質(形状、寸法など)にこだわっている。それだけ厳しい規格の原料を確保するため、フェスティバロは市場流通の2-3倍の価格で唐いもを調達している。

これからは国境を超えてビジネスをする

伝統野菜で地域振興に励むフェスティバロだが、今後は大隅半島へ観光客が流れるようなルートづくりを仕掛けようとしている。また、菓子の国内市場は過当競争なため、今後は中国、韓国へビジネスを展開していく。すでに中国や韓国から毎年200人ほどの視察団が来社し、その中で中国・山東省で唐いものデンプン工場を経営する企業家をコンサルティングしているが、その企業家はフェスティバロの商品そのものの誘致を熱望している。京都や浅草のように中国でも有名なブランドの菓子ではなく、フェスティバロの唐いも菓子という新しい日本ブランドの誘致でビジネスを展開したいと。そしてこの思惑が成就し、日本の新しい菓子の商圏が北京、上海などの大都市圏に誕生すれば、そこにフェスティバロも商品を輸出できると考えている。

また、韓国にはフェスティバロのペーストを輸出したいという。そのペーストを用いて現地の企業が独自に商品開発すれば、ペーストの供給基地として大隅半島の本社工場も活性化できるからだ。

「今後は国境を越えていくことが次世代につながるビジネスにできると考えています」

伝統野菜の唐いもを用いたビジネスは、国内のみならず海外へ展開することでさらなる高みを目指そうとしている。

企業データ

企業名
有限会社フェスティバロ社
Webサイト
代表者
郷原茂樹
所在地
鹿児島県鹿屋市上野町1869