農業ビジネスに挑む(事例)

「香遊生活」オーガニックハーブの栽培・加工品に異業種参入

  • 新事業として有機農業にチャレンジ
  • オーガニックハーブについての豊富なノウハウが強み

北海道北見市の建築・土木業「舟山組」は、戦後間もなく大工の舟山政吉さんが建築業として起業し、2代目の正太郎さんが街路樹・公園の植樹などの土木で事業拡張した。そして3代目の秀太郎さんも家業を継いだ時から祖父、父のように新しい事業へのチャレンジを胸に秘めていた。

異業種参入で香遊生活はオーガニックハーブを栽培する

かつての世界的ハッカ生産地でハーブを栽培する

そのチャレンジのきっかけとなったのが1989年の欧州旅行だった。舟山さんは現地で公共事業が少ない状況を目の当たりにし、やがて日本もインフラ整備がひと段落すれば同じ状況になると危機感を覚えた。

こうして既存事業への危機感をつのらせた際、舟山さんの脳裏に浮かんだのが農業だった。しかも、農薬を用いる従来型の農業に疑問を抱いていた舟山さんは、農業をやるなら無化学肥料・無農薬の有機栽培にチャレンジしようと決断した。

そして有機農業での栽培品種をさまざまに探索した結果、ハーブを栽培することに決めた。戦前、北見は薄荷(はっか)の世界最大産地だったことからも、北見はハーブ栽培に適している。そう確信した舟山さんは、1991年、舟山組に「企画室ハーブ事業部」を新設して新事業へのチャレンジを始めた。

とはいえ、当時の日本に全国規模でハーブを販売する会社が1つもなく、手本にできるようなハーブのビジネスモデルが見当たらなかった。

と同時に、当然のことながら舟山さんもハーブの生産や販売でノウハウをもっていないわけだから、いちからハーブビジネスの基を築かなければならなかった。そこで本場のイギリスに妻を5年間通わせ、ハーブについての効果・効能、アロマテラピーの知識など専門家としてのノウハウを蓄積させた。

1997年、舟山さんは農業生産法人を設立した。舟山組に新部署を設置した当初は、異業種参入に対する周囲の理解が少なかったために農地を取得できなかった。しかし、徐々に周囲の理解を得るように努めた結果、ようやくこの年に法人化を成し、同時に農地を取得できた。

また、法人化を機会にブランド名「ハーブブティック スカボロフェア」を「香遊生活」に改名し、企業名にした。

香遊生活はオーガニックハーブを原料にハーブティーを中心にさまざまな製品を開発する

数少ないオーガニック認証の農場、加工施設

現在、香遊生活は8haの農場で60種のハーブを有機栽培する。そして、それらのハーブは乾燥させてからハーブティーなどの製品に加工する。同社の主力製品はハーブティーであり、そのほかにキャンディーや調味料、スキンケア用品(スキンケアクリーム、石鹸、入浴剤)などの加工品も手がける。農場、加工施設ともにオーガニック認証を取得しているが、これは国内でも稀有なケースだ。

事業を始めた当初は自宅を販売所としていたが、2000年に自営の店舗を開設した。

香遊生活の販路は、店舗が40%、全国での物産展が30%、通販と卸売が30%となっており、卸売先の主な顧客は健康食品メーカーや化粧品メーカーだ。

香遊生活の店舗で販売されるハーブティー、スキンケア用品など

生活の中にハーブを取り入れる提案を

ハーブには多くの品種があり、また、それぞれに効能・効果がある。そのためハーブに関する栽培方法やその薬効、また、ブレンドやアロマテラピーに関する知識など、ハーブを扱ううえでのノウハウは膨大なものになる。

「それゆえに、香遊生活の製品もハーブについての知識やブレンド力の高さ、また、ハーブ自体が畑の地力と植物の生命力だけで栽培されるため香りや味におおいにパワーがあります」(舟山さん)

それが香遊生活のハーブ製品の強みだ。オーガニックゆえに「安全・安心でおいしいハーブ」として評価され、さらにハーブについての豊富なノウハウをもつからこそ必要な効果・効能を顧客ごとに提案できる。

2010年、舟山さんは事業部設立20周年を記念し、札幌に直営店「FARMERS HERB」をオープンさせた。地元の北見以外でも香遊生活のハーブ製品を直接消費者に訴求することを期している。

そして今後は、食材としてもハーブをアピールし、さらにハーブが生活の中に取り入れられるような提案をしていく。

企業データ

企業名
農業法人 有限会社 香遊生活
Webサイト
代表者
舟山秀太郎
所在地
北海道北見市柏木14-3