農業ビジネスに挑む(事例)

「ハーモニープロジェクト」自然栽培の食材を通じて食と農に貢献する

  • 自然栽培の野菜・果物にこだわり食の大切さを伝える
  • 多様な事業の展開で地元の振興に貢献

農薬や化学肥料、除草剤を使わない「自然栽培」を通じて人と環境にやさしい「農」「食」を提供したい。2010年、そんな思いから森嘉代さんは愛媛県松山市にハーモニープロジェクトを創業した。

同社は、自然栽培で生産された米や野菜、媛っこ地鶏、伝統製法の調味料などをオンラインショップや実店舗で販売し、また、飲食店「じぃ家」でもそれらの食材を使った料理を介して食の大切さとその本質を広く知ってもらおうとしている。

闘病の過程で食の大切さを実感する

「食べる事は人間の基本。ただ『美味しい』だけではなく『健康にも良い』ものをお客さまに召し上がっていただきたい」 森さんがその思いに至ったきっかけは14年前、自ら病を経験して食の大切さに気がついたことだった。

「1993年に松山の中心街でアパレル系のレディースブランドショップをオープンしブランドショップを続けながら1997年に飲食店『じぃ家』を開業しました。忙しさにかまけて食も生活のリズムも乱れがちでした。そうした中でがんを患い、治療の過程で体の大切さ、それを支える食の大切さを改めて考えました」

森さんはがんと戦うためにも体質改善が必須と考え、食の改善に取り組んだ。規則正しい食事、体によい食事を実践すると、体の芯が強くなり、免疫力が上がっていることを実感した。徐々に体調がよくなるにつれ心のバランスも整っていった。

食の大切さを他の人にも伝えたい。そんな思いから森さんはじぃ家を開業した。

がんの治療の一環として食べることを真剣に考えるようになると食材にもこだわるようになり、その食材と料理の大切さを飲食店の中で提供しようと試みた。

食の大切さを伝えたいと1997年に飲食店「じぃ家」を7坪の狭小店からスタート。写真は現在の店舗

素材にこだわる

じぃ家は、自然の食材とその食材本来の味を活かした料理を提供する、愛媛の自然の食材にこだわる“地産地消”型の飲食店だ。肉、魚、野菜は直接生産者から仕入れるよう心がけている。特に野菜は自然栽培のものにこだわる。そのきっかけは、自身のがんもさることながら、2009年にがんに侵され他界した親友の食事の面倒を見た経験も大きかったという。

「突然、親友は医師から余命3カ月を宣告され、治療の手段はないと聞かされ絶望的な状況でした。何とか助けたい。その一心で親友の命を守るために彼女へ食事をつくり続けました。自身の経験を活かし、同じように免疫力を高めることで治療が受けられる体力をつけるためにも、食材や調味料を自然のものにし、添加物や精製された物を使わず、症状に応じて食べやすいスープにしたり、体を温める食事をつくりました。彼女も添加物のあるものは受け付けなくなり、さらに食べられないものの種類も増えていきました。結果的に自然の素材以外は食べられなくなり、それを目の当たりにして自然の食材の大切さを改めて実感したのです。親友が命を持って教えてくれました」

自然栽培は固定種(古来の種)を用い、農薬や化学肥料、除草剤などを使わず野菜が持つ生命力だけで栽培する。そのため一般的な農法に比べて栽培に人手をかけて作物が育ちやすい環境をつくることが必要だ。

じぃ家が野菜を仕入れるのは主に地元の就労支援事業の「メイド・イン・青空」(運営はパーソナルアシスタント青空)だ。

森さんは同団体の代表者とは旧知の間柄であり、その代表者が始めた自然栽培を通じて森さんも無農薬・無化学肥料・無除草剤の野菜のすばらしさを知ったという。

野菜が持つ生命力だけで栽培する自然栽培の青果を主体に地元の農・畜・海産物を提供する

食品加工、コーディネートなど多様に事業を展開

ハーモニープロジェクトは、飲食事業のほかに2011年から食品加工とコーディネートの2つの事業も始めた。食品加工事業では同年、地元の「媛っこ地鶏」を用いたヘルシーフードの商品化を地域密着型ビジネス創出事業(えひめ産業振興財団)を活用して手がけた。

その後も養鶏業者や漁業者と連携して食品加工に取り組んでいる。さらに2016年4月には、松山市の中心街にデリカフェをオープンする。イートイン型の惣菜カフェであり、できたての美味しさと体にやさしい食を心がけ、自然栽培米をメインに無添加で手づくりのおかずや漬物などの発酵食品をイートインでき、自ら手がけた調味料やスープなどの加工食品も販売する。

また、コーディネート事業でも、食品および食材の販売場やブライダルの引き出物などのコーディネートを順次手がけ、2015年には、新居浜市の総合文化施設「あかがねミュージアム」のカフェを総合プロデュースした。

新たなる事業への夢

人と環境にやさしい「農」「食」の提供を推進するハーモニープロジェクトだが、今後もさらに自然栽培の農業を支援したいと考える。 「よい野菜、果物をつくったならば、それに見合った評価をしてもらえないと自然栽培も広がっていかないと思います。生産者が精魂込めて栽培した青果にはその思いがおいしさとなって現れます。であるならば、野菜や果物が持っている自然の力を引き出せるような栽培ができる生産者が増え、日本全国の人たちに新鮮でおいしいものを届けることができることが大切だと思います」(森さん)

自然栽培によって野菜・果物が持つ自生力を発揮させて品質の高い青果を生産する。それにより安全・安心な食材を顧客に提供する。現在、ハーモニープロジェクトは仕入先の自然栽培の青果を顧客に提供しているが、将来的には自社で自然栽培の農産物を生産したいという。それは、飲食サービス、食品加工、コーディネートにつぐ森さんの新たなる事業への夢なのだ。

企業データ

企業名
株式会社ハーモニープロジェクト
Webサイト
代表者
森嘉代
所在地
愛媛県松山市二番町3-1-2