農業ビジネスに挑む(事例)

「ファーム・アライアンス・マネジメント」世界水準の農家連合で海外進出

  • グローバルGAPで世界でのビジネスを開く
  • セミ・フランチャイズで連合を組む

日本の農家が連合を組んで世界と闘う。その実現を目指し、農家にICTサービスを提供するのがファーム・アライアンス・マネジメントだ。

代表取締役の松本武さんは、実家の農業生産法人で構築した生産ノウハウを全国展開するため2012年に同社を創業した。

自分1人でなく農家連合で挑戦する

創業から17年遡る1995年、松本さんは大手化学メーカーの医薬営業を辞して実家の松本農園を継いだ。そして2006年、経営の合理化を図るため、ICTを駆使した生産管理情報システムを地元ITベンダーと共同で独自に開発した。

そのシステムは、播種から出荷までの全工程の作業履歴を管理・把握できるものであり、農場における肥料、収穫物、指示者などから専用選果場における袋詰め・出荷まですべての工程の生産情報を管理できる。

松本さんがこのシステムを開発した理由は2つあった。1つは既述した経営の合理化だ。日次で作業内容をシステムに入力することで、ムダな作業をあぶり出せるので作業の効率化につながる。同時に収穫量も把握できるので原価の見える化にもつながり、さらに利益目標も立てやすくなるなど経営の効率化にも役立つ。

ちなみに販売面における生産管理情報システムの大きな効果として、生産履歴を取引先に開示できるので取引先からの信頼性を高められ、また、情報開示により付加価値を高められることから値引き競争に巻き込まれず、むしろ価格の決定権を生産者が押さえられることがある。

そしてもう1つの理由が、世界と闘える農業生産を構築することだった。日本の農産物は安全だといわれるが、それはあくまでも観念的なものであり、国内で統一的に証明できる客観的な根拠はない。それでは世界とは闘えない。農産物の生産工程のすべてを証明できないと世界の食品関連企業とは取引できない。世界に伍していける農家にするためにはどうすればいいか。松本さんは、農業の国際認証規格「グローバルGAP(Good Agricultural Practice、適正農業規範)」に注目した。この世界標準に依拠した生産ならば世界にも打って出られる。しかも、規模の大小に関係なくどんな農家でも世界と闘える。

「松本農園では2年間かけて2007年にグローバルGAPを取得し、海外にも輸出ができるようになりました。しかし、一方で自分の農園だけがやっていることにさびしさも感じるようになりました。さらに、若手農業者から“自分も松本さんのようなことをやりたい”とぽつりと漏らされたのを聞いたとき、誰でもできるビジネススキームにしようと考えたのです」(松本さん)

引き継いだ家業の農園は確実に経営力を高めた。だが、自分の農園だけが力を付けるだけでは意味がない。グローバルGAPを取得した農家が連合を組んで世界に挑戦する。それが本来あるべき姿ではないか。松本さんが考えたビジョンだ。

国際的なレベルでも、グローバルGAPは取得まで1~2年を要する。それを短期間で取得できるようなツールの1つとしてクラウドコンピューティングサービスで提供する。しかも、そのサービスは顧客ごと個別に提供するのではなく、フランチャイズ形式で提供するビジネススキームとした。そのビジネススキームを実現すべく、2012年、松本さんはファーム・アライアンス・マネジメントを設立した。

農園での作業から袋詰め・出荷まですべてのプロセスを生産管理情報システムで管理する

販路の利用は選択制

「ただし、フランチャイズといっても加盟する農家にも選択の自由がある、いわばセミ・フランチャイズのような形にしました」(松本さん)

ファーム・アライアンス・マネジメントのサービスは、「生産管理情報システムを活用したグローバルGAPの取得支援と取得後のサポート」と「販路の提供」の2つのメニューをパッケージ化している。販路の提供とは、同社が持つ独自の販路を利用できるサービスであり、フランチャイジーは、グローバルGAPの取得支援だけでなく、収穫した農産物の販売先の提供も受けられる。

ただ、販路の確保は農家によって需要の大小が異なるため、フランチャイズに加盟した農家が取捨選択できるメニューにしてある。 フランチャイズの加盟は無料であり、システム利用料は面積に比例した月額で設定してある。

生産管理情報システムでは、種まきから農薬、肥料の種類・使用量、収穫、出荷までのすべての生産プロセス情報をネットで公開する。また、グーグルマップと連動して農場の位置も航空写真で見られるため、実際に生産現場を見ることもできる。

フランチャイズのメンバーは、いつでもどこでも自らの生産情報をネットから確認できる。

グローバルGAPの取得とそのアフターフォローのコンサルタント料は月額で一定に設定してある。

グローバルGAPは、農業生産の安全・衛生管理から梱包、配送に至るまでさまざまな規定があり、その確認項目は約250項目ある。また、残留農薬などの化学的危害のほかに物理的危害や生物的危害も含めた安全管理が求められる。さらに、労働者保護や環境保全の要求基準も設けられてあり、それら多岐にわたる項目をチェックするのは容易ではない。

また、取得審査1年目の指摘事項の修正対応は3カ月間の猶予があるものの、2年目以降は指摘事項への対応の期間は28日以内と著しく短くなる。そのため、取得1年目より2年目以降の維持が難しいとされる。

「グローバルGAPは、エビデンスの根拠性を明確にすることが求められます。誰が何をしたかを明らかにすることが重要なのです」(松本さん)

そのために必要なのが、農作業のすべてを日次で入力・記録できるシステムであり、ファーム・アライアンス・マネジメントは、そのシステムを活用してのグローバルGAP取得と取得後の長期支援をリーズナブルな価格で提供する。その先に見ているものは、フランチャイズという形で農家が連合を組み、世界に打って出ることだ。

グローバルGAPを取得した農家が連合を組んで世界に挑戦する、ファーム・アライアンス・マネジメントのビジネススキーム

世界と伍していく日本の農業

現在、ファーム・アライアンス・マネジメントのサービスに加盟するフランチャイジーは、北海道から沖縄まで40軒あり、最近は地方自治体からの照会が増えている。

また、パッケージサービスとして提供する営業先は、コストコやイオンなどの大型量販店と加工食品メーカーが主体であり、ファーム・アライアンス・マネジメントの年商5億円の大部分がそれらへの卸売の売上となっている。

今後は海外展開を積極的に推進していくつもりであり、農産物の輸出およびフランチャイズビジネスの輸出の2つの手段で展開していく。ファーム・アライアンス・マネジメントが目指す、世界と伍していく日本の農業に期待したい。

企業データ

企業名
株式会社ファーム・アライアンス・マネジメント
Webサイト
代表者
松本武
所在地
東京都千代田区九段南3-4-5番町ビル3階A