中小企業とSDGs
第12回:産廃の卵殻を環境にやさしい商品に活用する「株式会社SAMURAI TRADING」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
2021年7月26日
地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の削減が叫ばれるなか、かつては産業廃棄物として処理していた卵の殻を活用し、環境にやさしい素材を開発したのが「SAMURAI TRADING(サムライトレーディング)」(埼玉県桶川市)だ。SDGsへの関心が高まるにつれ、同社の素材を使用した商品は注目を浴び、大手企業にも採用され始めている。ほぼ捨てるだけだった卵の殻は、今や地球を救う「金の卵」に変わりつつある。
視察先の米スーパーで覚えた違和感が契機に
同社の代表取締役をつとめる櫻井裕也氏は、父の誠也氏が経営する食品会社を手伝ったのち、1996(平成8)年に「さくらフーズ」(埼玉県鴻巣市)を設立。飲食店向けのデザートなどの製造・販売を行っていた。
仕事の関係で毎年のように欧米に出張していたが、10年ほど前のアメリカ視察が大きな転機となった。現地のスーパーマーケットを訪れた際、食品売り場の色彩にちょっとした違和感を覚えた。「日本のスーパーは白っぽいイメージだが、アメリカは茶色っぽい感じだった」(櫻井氏)。違和感の原因は紙製トレーだった。日本では石油由来のプラスチック製の白いトレーなどが使われているが、環境問題への意識が高いアメリカではすでに脱プラスチックが進み、紙に置き換わっていたのだ。「アメリカでの流れはいずれ日本にも訪れる」と考えた櫻井氏は、このアメリカ視察を契機に脱プラスチックに取り組むことになった。
「金の卵」に変える挑戦の始まり
櫻井氏がまず手がけたのは、生物資源を原料とするバイオマスプラスチックの開発だった。原料には、デザート製造の際に大量に出ていた卵の殻を活用することにした。それまで一部は取引先である大手企業などに肥料として販売していたが、多くは産業廃棄物として有償で業者に引き取ってもらっていた。その産廃を「金の卵」に変えていく挑戦の始まりだった。
そして「片手間でできるものではない」として、さくらフーズの経営を父に引き継いでもらい、2017(平成29)年にサムライトレーディングを設立し、開発を本格化させた。当初はプラスチックの原料に卵の殻を数%混ぜることからスタート。混ぜる殻が多くなると、完成品にまだら模様ができてしまうという問題に直面したが、牛乳の脂肪球を砕いて大きさをそろえるというデザート製造の際に学んだ技術を応用して解決。割合を60%にまで高め、バイオマスプラスチック素材「PLASHELL(プラシェル)」の開発に成功した。
プラシェルは現在、クリアファイルなど多くの商品に使用されている。また、革新的な製品開発として高く評価され、2019(平成31)年には埼玉県主催の第8回渋沢栄一ビジネス大賞で奨励賞を受賞した。
エコペーパー、次世代バイオマス素材を次々と開発
プラシェルに続いて、同じく卵の殻を活用した紙製品の開発を進めた。プラスチックから紙に置き換わることで環境保護の効果があるが、紙の原料である木はCO2を吸収するもの。殻を配合することで森林の伐採を少なくできれば、二重の意味でCO2削減につながる。そうした期待を込めて2020(令和2)年春に発売されたのが次世代のエコペーパー「CaMISHELL(カミシェル)」だ。
卵の殻を10~50%程度配合した紙製品で、特許も取得した。そして新生紙パルプ商事と三菱製紙の2社がカミシェルの商標とロゴマークを共同使用して製品の製造・販売を行うことになった。カミシェルはCO2削減モデルとして高い評価を受け、第9回渋沢栄一ビジネス大賞で大賞を獲得し、2年連続の受賞という快挙を成し遂げた。
プラシェル、カミシェルに続いて今年7月から本格販売されるのが次世代のバイオマス素材「Shellmine(シェルミン)」だ。シェルミンは卵殻、パルプ、補強材を加えて高圧力で製品化させたもので、卵殻の比率は55%。食器製造・販売のアヅミ産業(さいたま市)がシェルミンを使った商品を製造・販売する。現在、多数の問い合わせが来ているなかで、すでに大手外食チェーンや大手ホテルチェーンで採用が決定している。
広がりを見せる「エコ玉プロジェクト」
こうしたエコ商品の開発とともに櫻井氏が進めているのが「エコ玉プロジェクト」だ。卵の殻を使った製品の普及を目指し、サムライトレーディングと緩衝材製造・販売のカネパッケージ、青果仲卸大手のベジテックという、いずれも埼玉県内に事業所を持つ3社が立ち上げた運動だ。渋沢栄一ビジネス大賞受賞を契機につながりができた県内の金融機関などが賛同し、カミシェルを使った名刺やメモ帳、現金封筒を導入。さらに行政が加わり、官民挙げてのSDGs推進運動となるとともに、県外企業も加わり、県境を越えた広がりを見せている。
SDGsへの関心が高まるなか、同プロジェクトの中心的存在である櫻井氏のもとには講演などの依頼が相次ぎ、そうした場で櫻井氏はCO2削減の重要性などを強く訴えている。ただ、カミシェルなどの商品のPRは一切しないという。「SDGsの達成にはなにが必要なのかを理解してもらえれば、PRするまでもなく、いずれはカミシェルなどの商品売り上げにつながってくるものと信じている」と櫻井氏。脱プラスチックの流れをいち早く察知して開発を進めてきた素材に対し、強い自信を見せている。
企業データ
- 企業名
- 株式会社SAMURAI TRADING
- Webサイト
- 設立
- 2017年12月
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 5人
- 代表者
- 櫻井裕也氏
- 所在地
- 埼玉県桶川市若宮2-32-5 ヤマトビル1F
- Tel
- 048-789-0808
- 事業内容
- 食品添加物販売、環境関連事業