中小企業とSDGs

第25回:土に返る素材のスニーカーで循環型消費の在り方を発信「株式会社スピングルカンパニー」

2022年 5月30日

株式会社スピングルカンパニーは、広島県府中市を拠点としてレザースニーカーの企画・製造・販売を手掛けている。同市を含めた備後地区は職人気質にあふれる地域であり、そこで1997年に創業した同社は、究極の履き心地を追求した末に、国内外で高い評価を得ているブランド「SPINGLE MOVE(スピングルムーヴ)」を世に送り出した。また、靴を履きつぶして捨てるのではなく長く大切に履いてほしいとの想いから、スニーカーの修理対応にいち早く取り組んでいる。ソールの修理だけでなく、インソール交換や縫い目のほつれ直しなど、修理箇所も拡充した。SDGsに関しては、廃棄後に土に返る素材だけを使った「サスティナブルなスニーカー」を販売し、循環型消費社会に提案する製品として位置付けている。

SPINGLE MOVE(スピングルムーヴ)
SPINGLE MOVE(スピングルムーヴ)

素材と製法へのこだわりで高いクオリティー

商品の特色は素材や製法へのこだわり。スニーカーではあまり使用しない多種多様な革を使い、それぞれの革の持つ素材感を活かすことで、さまざまな表情の靴を生み出すことに挑戦している。同社のスニーカーは、足の甲部分のアッパー素材に牛やカンガルーなどのレザーを、靴底のソールに自社グループで加工したゴム素材をそれぞれ使用している。上下別々の素材をしっかりと繋げるために「バルカナイズ製法」を駆使。これは、硫黄を加えたゴム底と靴本体とを接着し、釜に入れて熱と圧力をかける製法で、1839年にアメリカで発明されたスニーカーの基本製法だ。100℃以上の釜で1時間加熱した後、アッパーを巻き込んでそり上がる独特のデザインが誕生する。見た目だけでなく、底とアッパーの結合が強く、底が剥がれにくい、型崩れしにくい、歩きやすい、といった機能性も兼ね備えている。

シート状のゴム素材からソール部分を抜き取り、残材を再利用し再度ソールを抽出
シート状のゴム素材からソール部分を抜き取り、残材を再利用し再度ソールを抽出
100℃以上の釜で1時間以上加熱した後に、形を安定させるためにスニーカーを引き出し、扇風機で冷ます
100℃以上の釜で1時間以上加熱した後に、形を安定させるためにスニーカーを引き出し、扇風機で冷ます

バルカナイズ製法は基本的に手作業なので、想像以上に労力と手間がかかる。そのため、日本で現在ファッションスニーカーとしてバルカナイズ製法を行っている会社は、同社を含めて数社のみと言われている。同社は今後もこの製法を守り続け、クオリティーの高さを世に伝え続けていく考えだ。

手作業によりアッパーと靴底をしっかりつなげ、ソールをはがれにくくしている
手作業によりアッパーと靴底をしっかりつなげ、ソールをはがれにくくしている

パリコレなどヨーロッパで注目された高価格商品

より差別化を図るために同社は、レザースニーカー本体に上質な革を使用することにした。当時は低価格シューズが続々と登場し、量販店の価格競争は激化。流通が大きく変わっていくなか、メーカーとして勝ち残っていくためには自社製品のブランディングが不可欠と判断し、試行錯誤の末、2002年にスピングルムーヴのファーストモデル「SPM-101」を生み出した。

価格は1万2800円。無名ブランドのスニーカーにしては高価なうえ、巻き上げ底の独特なデザインもあって、市場の評価は分かれた。その後、地道な営業活動の傍ら、ダブルネーム(大手企業を中心とした販売力を持つ企業のブランド名称に、製造力に強みを持つ中小企業のブランド名称を併記するコラボ)のOEMにも注力した結果、「コムデギャルソン」「ヨウジヤマモト」などの有名ブランドから引き合いが次第に舞い込むようになった。そして技術力や品質の高さが海外で注目され、2004年にはパリコレクションやミラノコレクションにも登場。ヨーロッパで認められたことで、国内でも取り扱われるようになったのだ。

SDGsへの取り組みは難しい特別なことではない

このパリコレなどへの出品は、同社がSDGsに取り組む転機ともなった。パリコレを機にヨーロッパ各地に販路を広げていくなかで、行く先々でSDGsへの取り組み状況や皮革の調達方法と動物愛護との関連について聞かれることが多くなったそうだ。日本では業界としての取り組みがまだ進んでいなかったのに対し、SDGsはすでに世界的な時流であると悟ったのだ。

その後、同社は、自社の業務(製品企画・仕入・製造・販売・修理)をひとつひとつ洗い出して整理することで、何が問題であり、何を優先して取り組むべきかを明確にしていった。その過程で気づいたことは、「SDGsへの取り組みは何か難しい特別なことをやるのではない」(代表取締役社長・内田貴久氏)ということだった。同社は元々、廃棄がない天然ゴムを原材料として利用していたが、これはSDGsを意図して行ったわけではない。当初は、SDGsのために何をどうすればいいのか、暗中模索の状態だったが、これまでの企業活動の中に、すでにSDGsの趣旨に沿うことを見いだせたのだ。

そうしたなかで誕生したのが「サスティナブルなスニーカー」だ。皮革や天然ゴムなどの天然素材を使用しているだけではなく、革の調達やなめし方法にまでこだわっている。アッパーには、獣害として駆除せざるを得なくなったエゾシカの皮を使用して植物由来のなめしで革にして染色し、ソールを接合する部材は牛のベロア革で、有害物質を出さないなめしとしている。さらに、ライニング(裏材)とインソールは通気性の良い豚革、靴ひもは牛革、ソールは天然ゴムを100%使用している。このように、廃棄後にはすべて土に返る素材だけを使ったレザースニーカーとなっているのだ。循環型消費社会に提案する製品として位置付けられており、内田氏は「メーカーとして良いものづくりを提案するにとどまらず、循環型消費の在り方を発信し、消費者との対話を試みたい」と話している。

プロジェクトチームなどグループ3社での取り組みも

SDGsへの取り組みは、現状では一部の従業員で行っているにすぎないが、将来的には親会社である株式会社ニチマンを含めたグループ3社全体で取り込むべき課題だと内田氏は考えている。その際のポイントは、SDGsに関する共通認識と意義を従業員全員に理解させること。たとえば、社内報で「スニーカーの修理は、モノを大切に長く使用することに繋がるのでSDGsの趣旨に合致すること」と伝えたうえで、修理による顧客の喜びの声を掲載して従業員の認識を高めていくことなど。このほか、社内研修会で従業員にSDGs関係の動画を見てもらうことを予定している。

今後は、SDGsの全体概念と自社との関係・位置付けを明確にして分かりやすく伝えるとともに、これまでやってきたこと、今やっていることを整理し、これまでの成果を取りまとめたうえで、これから優先して取り組むべきテーマを定めることとしている。また、グループ3社でプロジェクトチームを作って年1回、発表会を行うことを予定している。時間を要するが、地道な取り組みを進めていく考えだ。

株式会社スピングルカンパニー代表取締役社長の内田貴久氏
株式会社スピングルカンパニー代表取締役社長の内田貴久氏

企業データ

企業名
株式会社スピングルカンパニー
Webサイト
設立
1997年4月
資本金
2000万円
従業員数
90人
代表者
内田貴久氏
所在地
広島県府中市府中町74-1
事業内容
レザースニーカーの企画・製造・販売

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