よくわかる食品輸出入の基本

第1回 食品輸出の目的とポイント

東日本大震災に伴う原発事故の風評被害で食品の輸出は一時落ち込みましたが、2013年は世界的な和食ブームや円安を追い風に前年比2割増のペースで回復しました。農林水産省の発表では、2013年の農産物および加工食品の輸出額は5,000億円を超えています。

また、食品の輸入は加工食品だけでも1兆3,000億円を超えており、糖類、農産加工品、菓子類、畜産加工品、加工油脂、酒類などさまざまなものが輸入され、日本国内に浸透しています。

そこで「よくわかる食品輸出入の基本」では、加工食品を中心に食品の輸出入の基礎的な知識について説明します。

1.何のために輸出するのか

輸出の目的はさまざまだと思いますが、漠然と輸出に取り組むのはあまりよいと思えません。やはり目的意識を持って取り組む必要があると思います。以下に、輸出の目的についてまとめてみます。

食品輸出の目的別分類

(1)国内マーケット・自社生産現場の充実

  • 新たな販路開拓を行っていく過程で、現場の生産意欲拡大につながっていきます
  • 海外という新しい販路を持つことにより、経営基盤が強化されます
  • 海外での販売を国内市場でのPRに活用でき、企業のイメージアップにつながります
  • 海外での経験を国内市場への新たな対応に活用できます

(2)国内マーケットにおける販売価格の安定化の可能性

  • 一定期間にわたり、輸出向け販売契約が成立すれば、その期間の国内マーケットの受給安定に向けた効果が期待できます

(3)国内では評価されにくい加工品がよい評価を受ける可能性

  • 海外の国々によって嗜好の違いがあり、国内ではあまり評価を受けていない加工品が高く評価される可能性があります
  • 国内市場よりも海外市場の方が大きなマーケットがあり、販売がし易いケースがあります(香港マーケットでの乾物など)

(4)地域の活性化に貢献できる可能性

  • 油種の拡大により国内生産が増加することとなり、食料自給率の向上につながり、産地を中心とする地域の活性化が進むことが期待されます

2.食品輸出のポイント

食品輸出のポイントは、大きく分けると海外市場調査、輸出手順把握、輸出計画策定、海外での継続販売方法の検討の4つがあり、それらを押さえる必要があります。

<食品輸出のポイント>

食品輸出4つのポイントと具体的行動を例示した表

以上の4つのポイントについてそれぞれ深堀りしていきます。なお(3)(4)については第2回で取り上げます。

3.海外に目を向け、現地の状況を自分の目で見る

(1)現地の状況を自分で見て、販売可能性を考える

  • 海外の状況を自ら調査し、どの国をターゲットにして販路を開拓するか、どのような品質の商品がどの程度の価格で売れそうなのかを考えることが輸出に関する具体的第一歩となります。
  • 農林水産省やJETRO、中小機構等のホームページ、国内で開催されているさまざまな輸出向けセミナーや講演会を活用して情報収集や知識を習得します。

(2)海外のイベントに積極的に参加する

  • 輸出のための取組みとして、仕向候補地を訪問してみることは必須です。また、現地の小売の状況やレストランの状況なども見ることが重要です。
  • 仕向候補地を訪問した機会に、地域で開催されている展示会やイベントに参加してみることをお勧めします。
  • イベントに参加する場合は、事前に輸出販売できる商品かどうかを把握しておく必要があります。特に食肉関係は検疫条件等を調べておく必要があります。
  • 現地展示会などでは、現場で価格、販売ルートなど具体的な質問を受ける場合がありますので、事前に販売条件等を検討しておく必要があります。

4.輸出計画を立てる

(1)相手国・地域の特徴を調査する

  • 輸出しようとする国や地域によって消費者の嗜好が異なります。日本の加工食品に対する認知度や外国産との競合状況なども把握しておく必要があります。
  • 検疫手続き、相手国の輸入関税、食品表示規制などいろいろな規制があります。これらの規制は変わることもあるので最新の情報を収集しておく必要があります。

(2)輸出条件を調査する

  • 動物/植物検疫に関連して、輸出しようとする商品が国によっては輸入が禁止されたり、空港/港湾での動植物検疫の受検が求められる場合があるので、最新の情報を収集しておく必要があります。
  • 輸出しようとする商品によっては、保健所発行の衛生証明書、商工会議所が発行する原産地証明書等の各種証明書の添付が必要となる場合があります。これらに関する最新の情報を入手しておく必要があります。
  • 関税は輸出しようとする国や輸出品目によって異なります。また、国によって付加価値税や消費税等が課される場合もありますのでこれらの最新情報を入手する必要があります。

(3)輸出プランを検討する

  • 輸出しようとする商品の輸出可能性・適合性を検討し、ターゲットとなる輸出先を決め、事業パートナー若しくは単独で輸出プランを検討します。
  • 具体的な数量、時期、検疫手続き、輸送方法、価格等についてプランを立てます。
  • 輸出先での販売状況を勘案し、商品見本を提示して輸出先へ販売促進活動を実施します。輸出先での商習慣なども考慮して継続的な販売を確保する努力も必要となってきます。
  • 商品によっては、小売用だけでなく業務用として販売することも検討することがよいと思います。

(4)価格と品質のバランスを検討する

  • 重視しなければならないことは、輸出先の状況に対応した価格と品質のバランスです。高級品ばかりでなく、輸出先のどのような客層に向けた商品なのかを明確に自覚して価格と品質のバランスを考えなければなりません。これは国内でのマーケティングとまったく同じ考えで行うことが必要です。
  • 輸出先の諸費用、関税等による条件にも左右されますが、現地での小売価格は、一般的には国内倉庫渡し価格の約3倍程度(日本の小売価格の2倍程度)となるケースが多いようです。このような価格になるということも想定して「輸出のコスト分析」をよく行って、倉庫渡し価格を取り決める必要があります。

(5)知的財産を整理する

  • 海外で販売を計画している商品については、輸出先において商標等を出願・登録しておくことが有効と思われます。また、既に他社から商標等が出願されていないか確認しておくことも必要です。

(高橋順一 コンサルティング・オフィス高橋 代表/中小企業診断士)