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「アトラス」見えないものを見えるようにする映像化技術

この記事の内容

  • 暗闇や暴風雨下で写らない画像を鮮明化し安心・安全に寄与
  • ぼやけた画像を元通りにする復元化技術で腹腔鏡手術のリスク減
  • 独自技術を守る特許戦略の構築が今後の課題
写真左上=処理前のオリジナル画像 写真左下=鮮明化処理後の画像 写真右=谷田部弘社長

アトラスの谷田部弘代表取締役社長は兵庫県神戸市生まれの66歳。1970年に大手重工メーカーの関連会社に入社後、同重工メーカーに移籍して工業用内視鏡の開発を担うなか、意思決定の迅速化や全体の目配りを自分でやりたいと59歳でスピンアウト。それまで積み立てた財形貯蓄のうち500万円を資本金にアトラスを創業した。

2013年の会社設立と同時に「取引先を見学していいねと思った」神戸医療機器開発センター(MEDDEC)に入居し、16年10月までオフィスを構えた。当初は医療機器の内視鏡カメラの開発を中心に考えていたが「医療機器は関連機関の認証を受ける必要があるなど世の中に出るまで時間がかかる。うちのような小さな会社はこればかりではもたない」と工業用をやりながら医療用も展開していく方針に転換した。

この作戦が奏功した。設立初年度こそ赤字だったが、翌年から黒字化して業績は順調に拡大。18年3月末の売上高は6750万円を計上した。売上高の6割を占める工業用内視鏡は昨年度から2倍の伸びで、来年から量産体制に入る。

これから力を入れるのは映像化技術だ。「工業用・医療用を問わず、見えないものを見えるようにする技術は重要だ。私の得意分野は映像の画像処理。映像をできるだけ見やすくする技術を展開したい」と話す。柱は画像を①鮮明化②復元化③フラット化する技術だ。

画像の鮮明化技術は、普通のカメラで撮影した映像に手を加えて画面をより明るくくっきりさせるソフトの一種。夜間に車を運転中にハンディカムで撮影した映像にこのソフトのフィルターをかけると、オリジナルの映像では見えなかった横断歩道の白線や前方に停車している車、自転車で走る人などが鮮明に見えてくる。

昼間の逆光の映像も同じで、処理済み画像では黒く映っている木陰の部分に人が佇んでいるのが分かる。台風など暴風雨の中の撮影でも、鮮明化処理をすれば道路を流れる濁流が確認できる。次世代自動車の開発や監視カメラなどに応用すれば、安心・安全の確保や防犯・防災に役立つ。

復元化技術も注目だ。画像が劣化してぼやけてしまった画像を元に戻す技術で「水桶のなかに墨汁を1滴垂らす。落ちた瞬間は点だけど時間とともに墨汁が広がっていく。これを逆にたどっていくんです。時間軸を無視して墨汁の点の広がりを戻してやる」と説明する。

この「逆墨汁の原理」は腹腔鏡手術に応用できる。この手術は腹部に10ミリ程度の穴を開け、患部を映すレンズを何枚もかみ合わせて撮影しセンサーで複合した画像を医師に送っているが、穴が小さすぎて光が入ってこないうえ、レンズを何枚も使うので鉗子縫合の細い糸が見えづらい。「だが、この技術を投入すればレンズの質に関係なく毛細血管も縫合糸も鮮明に見える。手術中のリスクも減る」と言う。

自慢は「かげろう補正」だ。夏場の路上には、もやもやとした陽炎(かげろう)発生することがあるが、この画像のゆらぎを止める。カメラの手ぶれ補正と似た技術だが、「映す側ではなく撮る対象がぼけているのを止める。どこもやっていない技術」と胸を張る。

ひとつのカメラで自分の周りの360度全部が見える全球カメラがある。レンズが球形なので周辺部の映像は魚眼レンズのようにひしゃげて画像もぼやけるが、復元技術を応用してシャープで四角い平面に戻すこともできるという。

谷田部氏が設計したこれらの技術は、ハードはアルス(山梨県)が、ソフト関係はロジック・アンド・システムズ(神戸市)が支える。ほとんどの技術はこのパートナー企業の名前で特許を取っているが、悩みは類似特許への転用が散見されることだ。「自分ら守るために全部特許にしないで、コアな技術はブラックボックス化してしまおうかと考えている」。特許戦略の構築が今後の課題だ。

企業データ

企業名
アトラス
Webサイト
設立
2013年4月
従業員数
1人
代表者
谷田部弘氏
所在地
兵庫県高砂市阿弥陀町地徳124-13
Tel
079-448-7102
事業内容
医療用・産業用の各種カメラ技術の提供、映像技術・画像処理技術を駆使した受託開発と設計
現所在地
神戸市須磨区行幸町1-1-12 オーシャンテラス須磨海浜公園1203