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「小野精工(宮城県岩沼市)」レーザーで害獣を追い払え

この記事の内容

  • レーザー照射で害獣を追い払う技術を旧知の人に聞き開発に着手
  • 「ものづくり補助金」の採択を得て、可搬性に優れた製品を完成
  • 補助金申請の進め方や商品化に向けたノウハウで「よろず支援拠点」の支援を受ける
「コンパクトな装置で害獣を寄せ付けない画期的な製品」だと強調する小野会長と〝逃げまるくん〟(本社事務所で)

地球温暖化の影響なのだろうか。本来なら山深くに棲むイノシシやクマが里に降りて農作物を荒らす。時には市街地に出没し大騒ぎになる。東北地方では東日本大震災以降、その件数が増えているという。農作物への被害は、宮城県で年間約3億円(2014年)にのぼっている。ハンターによる駆除や捕獲作戦には限界があり、根本的な害獣対策は打つ手がない状態だ。

この〝無法者〟たちを放置していてはいけないとの思いを抱いていたのが、仙台市に隣接する岩沼市で金属加工を手掛ける小野精工の小野宏明会長。「何とか害獣被害を減らしたいと考えていた時、旧知の発明家と再会し、レーザー照射で害獣を追い払う技術を聞かされた。心が動いた」と開発経緯を語る。

発明家は、大手メーカー数社の誰もが知る製品開発に携わってきた人物。「自分は高齢なので、このアイデアを完成させてほしい」と言われ、技術アドバイザーとしてサポートを受けながら害獣撃退装置の開発に着手することにした。昨年4月のことだ。そこから構想を練り「ものづくり補助金」の採択を得て試作に取り掛かる。

こうして完成したのが、レーザー照射器の「逃げまるくん」だ。赤と緑のレーザーがミラーボールの光のように点となって周囲に拡散する仕組み。昼間は緑、夜間は赤のレーザー光を数秒おきに照射する。この光を嫌う害獣は寄り付かない。「動物は本能的に目を守るので、レーザー光に近寄らなくなる。10アールの農地での実験でイノシシ被害がなくなった。この2、3倍の広さまで対応できると思う」と小野氏は自信を見せる。

光の強さは市販のレーザーポインターと同程度。レーザー光を直に覗かなければ人への危害はない。持ち運びも楽で、家庭用電源がない場所では太陽光パネルにつなぎ作動させる。夜間は内蔵のリチウムイオン蓄電池の電源で24時間照射が可能。これでイノシシから農作物を守れる。

現在、害獣対策として一般的に電気柵が使われているが、これは感電の危険や、伸びた草が接触するとショートするので、草取りなど手間がかかる。だが「逃げまるくん」なら設置するだけ。農家の負担軽減に役立ち、操作も簡単。害獣対策の決め手になることが期待されている。

装置は照射器と蓄電池、三脚、太陽光パネルなどで構成され、ほとんどが外注品。小野精工は箱を作り組み立て製品化する。技術面は発明家が考案していたので、わずか1年で試作機を完成させることができた。

「開発に必要な補助金申請の進め方や商品化に向けたノウハウがなかったので、商工会を通し知っていたよろず支援拠点の門をたたいた。スケジュール管理や適切なアドバイスなど、頼りにさせてもらった」と小野会長は語る。自らはメーカーに徹し、総代理店を通して年度内にも全国販売する方針。価格は家庭用電源使用で26万円、太陽光パネル使用で45万円程度にする考え。

害獣だけでなく野鳥にも効果が見込めるので、養鶏場などでの鳥インフルエンザ対策、都会でのカラスやハト対策、文化財保護など応用範囲を広げていきたいという。盗難防止用としてGPS(全地球測位システム)の搭載や、より広範囲に対応する首ふり機能などの改良も検討中だ。

小野精工は阪神淡路大震災の5年前に使い勝手の良い軽量の「カセットコンロ」を製造販した時期がある。震災で需要が拡大したが、大手の進出で勝てなかった経験を持つ。最終製品を世に出すのは2度目の挑戦。前回と違うのは、「よろず支援拠点という頼もしい相談者がいることだ」と強調する。

宮城県よろず支援拠点 後藤毅コーディネーターの話

小野会長がよろず支援拠点を訪ねてきたのは昨年6月です。平成26年度補正予算「ものづくり・商業・サービス革新補助金」の公募に申請するためのアドバイスを得たいというのが相談内容でした。申請期限まで時間的な余裕がない中で、必要な事項を整理するなどスケジュール管理を支援しました。

これと並行して「逃げまるくん」=命名者は小野会長=のデザイン、ロゴ制作などを行い、商標登録、実用新案まで、商品化に向けた一連の作業についての進捗など、プロジェクト・マネージャーの役割を担いました。

製品づくりは、小野会長自身が幅広い人脈を駆使し分業体制を構築していましたので、ここにわれわれの出番はなく、世の中に知ってもらうための前段階までを宮城県商工会連合会とともにサポートした形です。

マスコミにも取り上げられ、スタートは上々です。今後、さらに認知度を高め、全国で活用されると期待しています。

企業データ

企業名
小野精工株式会社
設立
1961(昭和36)
資本金
5000万円
従業員数
36人
代表者
小野宏明氏
所在地
宮城県岩沼市相の原3-4-9
Tel
0223・22・3104
事業内容
金属プレス加工・精密機械部品加工など