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「KIGURUMI.BIZ(宮崎市)」手探りの輸出で深めた自信

この記事の内容

  • 品質の良さが評価され着ぐるみ受注を順調に伸ばす
  • 海外からの発注に独学で貿易実務を学び、専門家のアドバイス受け対応する
  • 今後は国内外での認知度向上と量産品への展開を図る
自社のキャラクター「ベアビズ」のぬいぐるみを抱く加納ひろみ取締役(工場内で)

国内の着ぐるみ製作事業者は、安価な中国製品に押され青息吐息のような状態に陥ったことがある。「半額近い価格で攻められては対抗手段がない。一時期、この事業はもう無理かと思った」とKIGURUMI.BIZの加納ひろみ取締役(56)は、10数年前の苦しかった時期を振り返る。地方自治体が発注する〝ご当地キャラ〟に入札しても、中国へ生産委託する業者には勝てなかった。

だが、徐々に品質の違いが理解され、北京郊外のテーマパークで粗悪な着ぐるみがニュースで伝わったことなどが追い風になり、受注量が戻り始める。すべて手作業でていねいにつくり上げていく高品質さと、製作過程を写真や動画で細部まで確認でき、途中での試着も可能なサービス対応、暑さ対策、軽量化、動きやすさを求めた改良を続けた結果が発注者からの信頼を得ることにつながった。

工場内では、老若男女を問わずアジアでも絶大な人気を誇る着ぐるみや、人気アニメのキャラクターなどの製作や修理が行われている。「業界の市場規模など実態が分からない」というが、着ぐるみ製作では国内トップクラスであることは間違いない。

「イラストと着ぐるみは違うので、依頼があっても製作に取り掛かるまでは時間と手間がかかる。とくに最近は難しい仕事が増え月20体の製作がやっと。従業員は主婦が多いので残業は原則しない。それでも生産性は高い」と加納氏は、受注・製造体制を語る。

国内企業との仕事だけしか考えていなかった2012年、ドイツからアニメキャラクターの着ぐるみ製作の依頼がくる。もちろん貿易実務など知らず、初めての英文契約書に戸惑うも、独学で輸出手続きを行い、無事に納品した。

「初めての輸出は手探り状態だったが、おかげで自信がついた。それまで発想しなかった海外からの受注も受けていいのだと考え始めた」という。そこで中小機構が実施する「海外ビジネス戦略推進支援事業」の認定を受け、F/S(実現可能性調査)とWebサイトの英語化を行った。認定期間は今年2月に終了したが、海外企業との複雑な契約書などでは、引き続き専門家のアドバイスを受けているという。

海外展開が一気に進展したのは、15年3月に英国のライフスタイルの専門誌に特集として掲載されたことがきっかけ。その後も海外メディアで次々に取り上げられ、欧州からの発注が増える。昨年、開催されたミラノ国際博覧会では同社のキャラクター「ビズベア」の着ぐるみを会場内に持ち込んで練り歩き、品質などをアピールした。

海外展開で大事なことは、「クイック・レスポンス」だと加納氏は強調する。ほとんどがメールでの問い合わせから始まるので、英文で即応できるスタッフ体制は不可欠。輸出の際、製品はリスクの少ない工場渡しにする契約を基本とする。年間の売上高は約2億円。「今年の海外売上比率は2割ぐらいになる」と予想する。

同社は、加納雄一代表取締役が造形美術製作を手掛ける個人事業として宮崎市で創業。布を使った立体物も扱っていたことから、着ぐるみ製作を依頼されたという。その後のブームで着ぐるみが主力事業となり、10年に屋号を変更、12年に法人化した。昨年は東京事務所を開設し、発注者との打ち合わせに活用している。

今後は国内外で社名の認知度向上を図り、造形美術製作の技術を活用した新商品開発に力を入れていく方針。「受注中心の事業に今後は量産品を入れていきたい。事業の安定化につながると考えているが、今度は販売する難しさへの挑戦が待っているはず。まずは国内から次に海外へ」と加納取締役は意欲を示す。

企業データ

企業名
KIGURUMI.BIZ
Webサイト
設立
2012年5月(創業=1990年2月)
資本金
200万円
従業員数
28人(含むパート)
代表者
加納雄一氏
Tel
0985-34-9983
事業内容
着ぐるみの製作・補修、造形美術製作など
所在地
本社:宮崎市高千穂通1-3-22
東京事務所:東京都中央区日本橋浜町2-17-6