中小企業の海外展開入門

「ウィズリンク」 ASEANでフランチャイズ展開を目指す

最強濃厚ラーメン「ばり嗎」をはじめ4つの業態を手掛けるウィズリンク。フランチャイズ展開しており、直営とFC店とを合わせると61店舗にのぼる。広島で創業して21年。社長自身フランチャイズ加盟店としての経験を持ち、さまざまなノウハウを吸収して作り上げてきた業態でASEANへの展開を果たした。海外プロジェクトの担当である大井治氏に話を聞いた。

シンガポール・タングリン店

ローカルに受け入れられる「濃厚とんこつスープ」

オーチャード・セントラルから歩いて10分ほどにあるタングリン・モールの1階にばり嗎シンガポール・タングリン店はある。営業時間は11:30-22:00。タングリン・モール周辺には欧米の駐在員も多く居住している。立派なコンドミニアムや都心では珍しい豪華な一軒家も見られる高級住宅街だ。ホテルやいくつかのショッピングモールも存在する。日本でいう麻布十番といった処であろうか。2012年11月にオープンしたが、内外装は日本のラーメン店だとわかるように日本と同じ仕様にした。

ばり嗎ラーメンの特徴は、こってりとした濃厚とんこつスープだ。ASEANの人々はしょっぱい辛さを苦手としているため味は若干調整しているが、こってりラーメンは意外と好まれている。これまでになかった味のようだ。ラーメン以外にも、サラダ、餃子、焼き鳥、ごはん類などがサイドメニューとして提供されている。鶏肉好きのシンガポール人には焼き鳥が好評だという。富裕層は日本酒を飲んで焼き鳥を食べることもあるという。ラーメン1杯が1000円程度で餃子や焼き鳥を付けると客単価は大体1500円くらいになる。

ラーメンにおいてはスープの味が重要だが、日本から送るオリジナルスープの他、良質の麺、チャーシュー用豚肉、玉子、野菜を調達している。シンガポールではラーメンに載せる店舗仕込みの厚いあぶりチャーシューが好評だという。日本の味を見事に再現しているのだ。

利用客層はさまざまだ。昼間は近隣のビジネスマン、夜は4-5人の若いグループが来店する。土日は家族連れが多い。客の3割は日本人で、5割は現地のシンガポール人。残り2割は欧米人などだ。週末は日本人が多く来店するようだが、それでも店の半分を埋めるほどではない。多民族国家ならではの光景だ。

面白いことに、シンガポーリアンの間ではラーメンの嗜好が分かれているそうだ。みそ味が好きな人もいれば、しょうゆ味が好きな人もいる。太麺、細麺といった麺の種類にも好みがあるようで、このことからもさまざまなラーメンがシンガポールに存在していることがわかる。

この店舗の運営を任されているのは、広島にある本社から異動した日本人3名のスタッフと現地で採用した社員4名の計7名。現地採用社員は、20-50代と年齢もばらばらだ。

このスタッフは大変熱心に働いてくれている。最近はスタッフの力も付いてきたので、ピーク時でも4名で回すことができるようになった。声掛け、ダウンサービス、挨拶などは日本のサービスを取り入れているので、現地スタッフにも指導している。日本スタイルの接客は現地での評価が高い。

よい物件が確保できれば、早期に2店舗目も出店したいと考えている。日本から3名の社員を派遣しているのは次なる展開を視野に入れてのことである。店舗数を拡大すれば、現地採用スタッフに店舗を任せることもできるのではないかと考えている。

シンガポーリアンは中華系、マレー系、インド系などに分かれる。彼らの考え方はドライで、お金に対してはシビアだ。会社や上司にロイヤリティを持って働くことは少ない。そして常に評価を求める。できる事・できない事をはっきりと知ったうえで、「できない事が改善された場合にいくら給与が上がるか」ということを明確にしたがる。元々人種も育った環境も違うメンバーが集まっているが、最近ではお互いへの理解も進み、組織として一体化しつつある。

視察から1年で店舗を出店

日本と変わらぬ現地メニュー

2011年の秋、江口歳春社長がシンガポールを視察した。日本国内の外食マーケットは縮小傾向にあり、人口も減少している。東日本エリアでのフランチャイズ展開を進めてはいるものの、海外マーケットにも目が向いていた。シンガポールでは、現地に詳しい日本人に話を聞いた。シンガポールでの展開を決めたのはその時だ。間もなくして現地法人を設立。シンガポールは外国企業を受け入れる体制が整っているため、スピーディーに進めることができた。加えて日本食は現地でも認知されている。特にASEANの人は麺が好きだという。

物件は2012年8月に決まり、9月から採用活動を始めた。シンガポールは売り手市場で、100ドル給料の高い会社があるといって急に退職してしまうこともあるそうだ。

すべての準備が整いオープンしたのが2012年11月。シンガポールへはすでに吉野家や大戸屋、また、ラーメン業態では山頭火、一風堂や武蔵なども展開しており、ラーメン業態としては後発組だ。

オープン時の販促は、3種類の現地の日本人向けフリーペーパーやローカル向けの媒体への掲載くらいで大々的な販促活動はしなかった。それ以外ではスタッフが同じショッピングセンターの店舗にトッピング無料券を配ったり、ホテルに営業に行ったり、店頭でチラシを配布したりした。シンガポールの店舗は意外にも日本以上にIT化が進んでおり、特にFacebookを活用したPRが積極的に行われている。

日本ではオープン初期に極端に売上が高いことはよくあるが、タングリン店は徐々に売上が伸びているそうだ。変わらず広告活動は控えめだが、認知度も高まり、固定客もでてきたという。当初見込みの収益が見えてきた。

シンガポール出店がもたらした想定外の効果

シンガポールと日本は距離があるものの、情報共有はきちんと行われており、スープの改良なども一緒に行っている。シンガポール・タングリン店の出店により、海外の店舗に行きたいというスタッフもでてきた。また、就職説明会では、地方企業が海外に店舗を持っているということに関心を示す学生も多いという。日本の既存加盟店からも海外で取り組んでみたいという声も上がっている。既存加盟店の支援は、国内の加盟店に海外展開の道を開くことにもつながる。新規事業は企業を活性化させるというが、海外展開になると想定外の効果も生まれるのだということを改めて感じた。

海外事業を成功させるための2つのポイント

大井氏に海外事業を成功させるためのポイントを尋ねたところ、「現地視察」と「パートナーの発掘」という答えが返ってきた。しかし、パートナー探しは難しい。多くの企業や個人が海外展開の支援をしているが、その中から信頼できるパートナーを探さなければならない。例えば、現地事情に詳しい人や永住権を持つ日本人スタッフに入社してもらうことが考えられる。最近は複数の公的機関がサービス業の海外展開支援を行っているので、相談するのも1つの方法だ。海外展開する日本のフランチャイズに加盟して海外展開する場合には、本部からの支援も受けられる。

また、シンガポールは多民族国家であるため、宗教や人種の違いには留意すべきだということを忘れてはいけない。

ASEANでもフランチャイズ展開を推進

直営店を出店するだけでなく、ASEANに事業展開するからには当初よりフランチャイズ展開を考えていた。海外企業に向けてフランチャイズ展開を推進している会社は多くはないのではないか。ただ、単純に店舗を増やすことが目的ではない。シンガポールをスタートにASEAN、その他の諸外国の人々に日本のラーメンを食べてもらい、本当の美味しさを知ってもらうことが最大の目的である。

実際にシンガポール・タングリン店で食事をし、加盟をしたいと申し出てくる人もでてきている。マレーシアで出店したいというマレーシア人の社長は4月に来日するという。

インドネシアからも問合せがあり、オーストラリアの投資家からは投資先に取り組ませたいという話もあったという。日本食がビジネスになると考えられているのではないかと大井氏は話す。偶然にも店舗で食事をしてもらったことからも、世界へのフランチャイズ展開は加速しそうだ。

今年の3月上旬にはマレーシアのフランチャイズショーに出展した。来場者は昨年実績で1万人程度のイベントだ。今年は70ブースくらい出展していたが、日本からは4社がブースを構えていた。大井氏が名刺交換したのは80社程度で、アンケートは50枚くらい回収できた。個人や法人企業、投資家などさまざまな人がブースに立ち寄った。これからターゲット企業にアプローチをしていくという。

「会社設立のコストはかかるが、それ以外の出店コストやマーケットの伸び、将来性などを考えると、地方の企業は東京に出店するよりも思い切って海外に展開するのもよいのではないか」という大井氏の言葉には説得力があった。

企業データ

企業名
株式会社ウィズリンク
Webサイト
代表者
江口 歳春
所在地
広島市安佐南区伴南1丁目5番30-2号
事業内容
飲食店