中小企業の海外展開入門

「ランド・ホー」 世界市場を開拓するゲームソフトウェア開発会社

「ランド・ホー」とは、海賊が島を見つけたときに叫ぶ言葉であり、「陸(宝の島)が見えたぞ」という意味である。

株式会社ランド・ホーの塚本昌信社長は、筑波大学を卒業後に株式会社セガに入社し、海外マーケティング、国内TVゲーム用のマーケティング、開発管理を担当。その後、1999年に仲間8人でゲームソフトウェア開発の会社を立ち上げた。塚本氏は29歳であり、彼らはいわゆる若手ベンチャーの先駆けでもあった。

当時、家庭用ゲーム機は伸び盛りだったので、ゲームソフトウェア開発という分野は、チャレンジしやすい環境でもあった。ソフトウェア開発に際しては大手ゲームメーカーに企画書を持ち込み、主に家庭用ゲームなどを制作していた。リーマンショックまでは、国内向け商品を海外に売ることはあっても、本格的に海外展開していく考えはなかった。ゲームソフトウェア開発という業界が好調だったので、わざわざ海外にまで営業しに行かなくても仕事のある状態で、むしろ国内受注をこなすだけで精一杯だったのだ。

ランド・ホー社内での制作風景

世界市場に目を向ける

しかしリーマンショック後、日本のゲームメーカーは自社の社員を食べさせることで精一杯になり、社外に仕事が出てこなくなった。そのような状況下では、仕事を待っていても仕方ないので、海外に目を向け始めたという。

リーマンショックで大きな変動があったものの、世界的に見れば、家庭用ゲームの需要は落ちていないし、むしろ上がっている。とくにスマートフォン向けは急速に伸びている。海外の会社はゲームを制作できる会社を探していた。

ランド・ホーの海外展開のきっかけは、国際展示会への出展だった。サンフランシスコで開催された展示会に出展したとき、具体的に商談が進んだ。商談内容は、「女性向けのプレイステーション・ポータブル向けのゲームを出したい」というものだった。塚本社長はこれをチャンスととらえ、帰国後、企画書とサンプルを作りそれを先方の会社へ何度か送ったところ、その熱意が通じ、具体的な話につながったのだ。その内容は、「Wii向けに身体を使って遊ぶソフトを作りたいのだが、一緒にやってもらえないか」というものだった。

スポーツクラブのゴールドジム(Gold's Gym)と提携し、Wiiを使ったプログラムを提供することになり、それはアメリカで70万本も売れた。すると、今度は、Wiiを使って次にまた何か作ろうという話になり、「JUST DANCE Wii」が出来上がり、これが200万本も売れる大ヒットとなった。

今は、Microsoft社とソフトを制作している。今年の年末にリリースされる「Xbox One」と同時に発売するソフトだ。

ランド・ホーは、国際展示会への出展で大きなチャンスをつかんだ。当時を振り返って、塚本社長は語る。

「商談会では、会ってすぐ仕事になるということはまずないと思うのです。手にしたチャンスをどうやって仕事に結びつけていくかが大事です。ただ、漫然と出展しているだけではだめです。商談会という場は、普通なら会ってもらうのが難しい大会社のキーマンと会える場でもあります。これは千載一遇のチャンスなので、そのチャンスをものにしなければならない。熱心に提案を重ねコミュニケーションを重ねることが、相手から逆に相談を持ちかけられるという展開につながります」

そして中国市場へ

ランド・ホーは2012年7月に上海に開発スタジオも作っている。2011年から2012年は、日本国内では多くのソフト開発会社が高給で新卒を大量採用していた時期であり、ランド・ホーにとっては人材採用の難しい時期でもあった。この人材難を克服すべく、ランド・ホーのソフトを中国で販売してくれていた現地のパートナー企業と組んで上海にソフト開発専門のスタジオを作った。上海のスタジオでもゲームソフト開発をやっている。現地スタッフはみな優秀で、そこで作ったスマートフォン向けのゲームソフトは中国国内向けにすでに5本がリリースされているという。

上海スタジオの風景

中国での活動実績も着実に増えている。この実績をもとに塚本社長は、今後は中国市場に向けてもより大きく挑戦していきたいと考えている。中国市場に向けた抱負を次のように語る。

「中国という巨大市場に向けた商品を中国のスタジオできちんとカルチャライズして出していきたいという夢があります。さらに言えば、これまでに培ってきたさまざまなコネクションがあります。例えば、私たちが作ったソフトをアメリカで売ってくれる会社、ヨーロッパで売ってくれる会社、南米で売ってくれる会社といったコネクションです。彼らは同時に自らもゲームを作っている。彼らが作ったソフトを私たちが日本や中国、アジアで売ることができないかと考えています」

海外展開にはもちろん苦労もある。

「日本で作ったソフトを中国に持って行っただけでは当たりません。中国の人々は日本人と嗜好性が違うので、中国で人気が出るゲームソフトは何なのか?と本気で考え、現地仕様で制作していかなければなりません。また、スタッフも現地で育てていかないと、本当の意味で現地の嗜好性に合わせたものは作れないと考えています。

ゲームに関しては、面白さや楽しさは万国共通でワールドワイドに広がっていきやすい商品であるかのように見えますが、実際はそれが当てはまらない場合も多いのです。とくにスマートフォン向けでは、アメリカのみでヒットとか、ヨーロッパのみでヒットということも多いのです」

今後の展開

ランド・ホーは、家庭用からモバイル、アジアを含めて、多方面で世界を視野に含めた展開をしようとしている。塚本社長は、世界で大ヒットする日本初のスマートフォン向けソフトを作ることを今の目標にしているという。

「日本初で、世界でも皆が知ってくれて、遊んでくれて、使ってくれる、そんなソフトを作りたい。そして、日本で初めてそれを作るのはランド・ホーでありたい」

塚本社長は、日本初のワールドワイドのメガヒット作品を来年上半期に出したいと語る。是非、期待したい。

企業データ

企業名
株式会社ランド・ホー
Webサイト
代表者
塚本 昌信
所在地
東京都大田区西蒲田8-4-4
事業内容
製造業(ゲームソフトウェア開発)