中小企業の海外展開入門

「神戸マッチ株式会社」hibi 10MINUTES AROMA

2020年 3月 30日

ブランドの根幹とそれを伝える世界観を常に意識し、「共に育て、共に売る」という「チーム」を作ることが大切。

神戸港という日本の玄関口に近い立地から、1929年に姫路で創業したマッチ製造・販売の会社「神戸マッチ株式会社」。近年はライフスタイルの変化や技術の進歩により、マッチそのものの需要は減少傾向にあるそう。そんな中、マッチの持つ機能、「火をつけること」と「何か」を合体させたライフスタイル商品を作ろうと、2015年に、香りのアイテム「hibi 10MINUTES AROMA」は生まれた。「『hibi』がマッチそのものに再び新しい光を与えてくれる」という思いが込められたその商品には、構想の段階から海外進出を見据えてつくられた、揺るぎないブランド戦略があった。

INTERVIEW
全世界の人を対象にした商品作りと徹底した販売戦略。

リビングにそっと香りを添える。そんな癒し効果のある「hibi」。マッチの擦るという感覚も今では懐かしいものになりつつある。
リビングにそっと香りを添える。そんな癒し効果のある「hibi」。マッチの擦るという感覚も今では懐かしいものになりつつある。

「開発当初から海外への販路開拓はもちろんイメージしていました」そう「hibi」のことを教えてくれたのは、神戸マッチ株式会社代表取締役・嵯峨山真史さん。当初から、今は国内で販売してから海外へ、という時代ではないと感じていた嵯峨山さんは、「SNSの時代で世界に同時発信できるので、ならば並行してやってしまおうと思いました。日本好きな海外の方の興味を引きやすい、日本のレトロ感や、和風といった『日本産感』を強く出す商品ではなく、『擦るという行為、火をつけるという行為を残した、全世界の人の生活に寄り添う商品』を作り、長く暮らしの中で使ってもらうファンを作りたかったのです」と話す。その思いが、プロジェクトメンバーと決めた「hibi」の根幹だった。売り方もそんなストーリーがきちんと伝えられるように、国内での販売においては例外を除いて小売店への「直売」を基本に。そして海外でも、当初の戦略通り1〜2年目は国内同様に小売店への直売を中心として販売ルートを拡大し、3年目以降は信頼を置けるディストリビュータに間に入ってもらうという販売の仕方へとシフトしていった。

海外での展示会は2016年1月の「メゾン・エ・オブジェ」を始まりとして、今までに3回続けて出展。その理由は、「1年目は新しい出展者ということで注目が集まる。2年目は、『去年出ていたな』とバイヤーが気づくことがある。3年目は、『あ、本気なのだな』と思われる」と聞いたから。実際に、3年出展することで、海外のバイヤーとやり方や「hibi」に合った見せ方など、今後について見えてくることがあったそうだ。「ただ、半分勢いもありますね(笑)」と当時のことを笑って教えてくれた。実際にこれがきっかけとなり、フランスをはじめとした海外への販路開拓に繋がっていくこととなった。

相手は何を求めているのか、バイヤーの気持ちになること。

お話を伺った、「神戸マッチ株式会社」代表取締役・嵯峨山真史さん。
お話を伺った、「神戸マッチ株式会社」代表取締役・嵯峨山真史さん。

今まで海外の展示会に出してきた「神戸マッチ株式会社」。海外に向けた展示会全般で、学び・対応してきた一つの進化例が、ディスプレイ作りにある。初めはディスプレイなんて全く考えてなかったそうだが、バイヤーが「hibi」を手にとって机に戻す際、展示台がぐちゃぐちゃになってしまうのを嫌がる顔を見て、「海外の方は日本の方よりも、細かくて面倒なことが苦手なのかもしれない」と気付いた嵯峨山さん。実際に「きれいに整然と並べられるようなものがあればいいのに」という声も多かったという。ショップに並んだ時の良いイメージをバイヤーに見せることができれば、もっと買ってくれるのではないか。そして商品が自身の手元を離れても、自分たちが描く商品イメージが崩さないことへ繋がると思い、実際に店舗で売られるシーンまでオールプロデュースする商談方法を思いついた。これが見事に刺さり、問い合わせも増えていった。

視野は広く持ち、「展示した後が一番大切」だということを忘れない。

今後の海外販路の開拓や施策を尋ねると、「今後も売り方は変えず、『暮らしに寄り添うという「hibi」という商品の空気感、世界観を守ることができる展示会に出て、ディストリビュータを探していこうと思います」と嵯峨山さんは話す。これから海外へ挑戦する方へは、「商品をきちんと伝えることができる用意は当たり前。そして日本で売るときにでも言えることですが、展示会はきっかけであって、出展したことがゴールにならないようにすることが大切です。また海外のバイヤーと付き合う際に相手の『レスが早いかどうか』が、僕にとって、その人と『仲間』になるかのポイントのひとつでもあります。単純ですけど、これ、結構正しいです」とのこと。マッチ業界を思い、「今のままじゃいかんから、はよせないかん」という本気度と、チームで作る「hibi」の徹底したブランディング、その全てが、言語の壁を超えて海外へとファンを増やしている理由だと感じた。

※掲載している内容は取材当時(平成29年度)のものです。

企業データ

企業名
神戸マッチ株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役 嵯峨山 真史 氏
所在地
兵庫県揖保郡太子町鵤414番地
創業
1929年
事業内容
約90年にわたるマッチ製造のノウハウや技術を生かして、「擦るという行為」、「火をつけるという行為」を残した、お香スティック「hibi 10MINUTES AROMA」を展開。開発のタイミングから国内外問わず、全世界の人の暮らしを対象とし、新たなライフスタイルの形を提案している。