中小企業の海外展開入門

「有限会社金照堂」Success Case Introduction

2020年 4月 2日

海外ならではの文化や思考を勉強し、柔軟に変化し続けることで、未来を拓く。

400年の歴史を持つ、磁器のまち・佐賀県有田町に、陶磁器の卸問屋として1961年に創業した「有限会社金照堂」。華やかな絵付けや、どっしりと構える存在感で食卓を演出する有田焼の中に、一際キラキラと目立つ器のシリーズ「麟 Lin」があった。数年前まで海外の販路開拓は「ほとんど興味がなかった」という同社。様々な出会いや気づきを経て生まれたこのシリーズは、カラーバリエーションを含めると今では130種以上にもなるという。有田焼の可能性と、未来を見据えて、新たな市場の開拓へと動き出した。

INTERVIEW
次の一歩を生み出すアンテナを張り続け、小さな気づきをキャッチする。

江戸時代からすでに海外へ輸出していたという有田焼。しかし近年は価格面や文化の違いなどから、輸出がうまくいっていない様子を見て、「国内で商売するしかないと思っていました」と話すのは、「有限会社金照堂」の代表取締役、金子真次さん。有田焼の卸問屋だったものの、既存の方法では売れなくなってきたことを感じ、十数年前からオリジナルの陶磁器作りに乗り出す。そこで生まれた、「富士山ペアぐい呑」が2011年に観光庁の「魅力ある日本のみやげコンテスト」の韓国賞とイギリス賞に輝いた時ですら、海外展開は考えていなかった。

「このぐい呑も結局は『インバウンド人気』で、ほとんどが国内で取引が完結するものばっかりでした」と金子さん。そんな中、2016年に有田焼が創業400年を迎えるため、佐賀県が海外に向けて本気で発信することを知る。様々な商社や窯元がイタリアのミラノサローネや、フランスのメゾン・エ・オブジェへの出展を決める中、参加したいけれど海外で勝負できるものがない、一から作るにもそれなりにお金がかかってしまうため難しい、と、この大きな流れに乗れず諦めムード。けれども華やかに活動している他の商社や窯元を見て、「やはり私たちも何かやりたい!」と、この県の海外に向けたプロジェクトに参加する方法がないかと考えるようになった。そんな折に、「海外で色鮮やかな南部鉄瓶が売れている」というニュースを目にする。そこで得た気づきをもとに、デザイナーや赤絵師と相談しながら、2015年に新ブランド「麟 Linシリーズ」を生み出した。

固定概念にとらわれず、海外への意識も、展開する商品のジャンルも変化していく。

「麟 Lin」の試作ができた2015年6月、周囲の反応も上々なことから、名古屋で行われた陶磁器だけの見本市に持っていった。ところが、なぜか誰も反応しない。「唯一、陶磁器のデザイナーさんが『すごくいいからメゾン・エ・オブジェに出しなよ』と言ってくれて勇気をもらいました」と当時を振り返る。この経験を踏まえて、陶磁器関連ではないところにアプローチしてみようと同年9月にギフト・ショーに出展。すると、打って変わって非常に注目されるようになった。時を同じくして、有田焼創業400年事業の中でアメリカ事業が後発でスタートすることになり、そこで満を持して金子さんも手をあげる。アメリカの文化に触れる中で、通常のコップが大きいこと、一般家庭用の器は、多少雑に扱っても問題ないものであることが大切であることを感じ、一般家庭ではなくとも和食レストランへの需要はまだまだあると考え、「麟 Lin」を暮らしの器ではなく「非日常を演出する陶磁器」として位置付けていこうと考えるようになった。

次世代へとバトンをつなげる為に取り組む、自社内の体制作りと産業の未来作り。

お話を伺った、「有限会社金照堂」の金子真次さん。
お話を伺った、「有限会社金照堂」の金子真次さん。

周囲から「有田焼400年事業の取り組みで一番変わったのは金照堂さんだよね」と言われるほど、海外展開を始めて今まで以上に勢いを増した同社。2017年度は、アメリカで開催される8月と2月New York NOWに出展することを決めた。計3回行ってみて、このままアメリカで販路開拓を行うか、新しくメゾン・エ・オブジェなど別の海外展示会に出すか考えていく予定だそう。また、今まで以上に海外へと展開していくためにも、英語ができ、海外で働いた経験のある若い営業の方をスカウトするなど、社内の体制作りを強化中。「海外への取り組みを始めて私が忙しくも楽しそうにしているのを見てか、『英語の先生になる』と言っていた長女が、有田焼の未来に興味を持ち、マーケティングを学ぶ大学への進路を決めてくれたのです。もし今後子どもが本当にこの家業を継ぐことになったら、そこからの体制作り、そこからの海外販路開拓では遅い。少しでもネットワークは作っておきたいのです」と金子さんは未来を見据える。この海外展開は、目先の販路拡大だけでなく、いずれ有田焼の国内事業が今よりも低下してしまった時のために、世界を相手にしていくためのノウハウをいち早く習得して次世代に繋げること、さらには海外の可能性を探り挑戦する姿を見て「有田焼っておもしろそう」と思ってくれる方を一人でも増やすことという狙いもあった。

有田焼は工芸ではなく産業。産業であり続けるためにも、海外に挑戦していく。

「今までは闇雲に新作を作ってきたけれど、2年やってきて分かることも増えてきました。今までの取組みを一旦整理する段階にきています。「麟 Lin」を「Lin Japan」としてブランディングしていくためにも、今から新しく作っていくものと、止めていくもの、整理するもの、新しいものはどういうものを作っていこうかと一旦振り返ってみようと思います」と金子さん。「これから海外販路開拓に向けて動く人へは、勉強会などを積極的に利用し、先人たちのノウハウをできるだけ吸収すること、そして出展する前に一度はその出展先の文化に触れてみることがポイントだ」と話す。先達の背中を見て、これからの世代は憧れを抱き参入していく。そんな次世代の可能性が海外販路開拓にあった。

※掲載している内容は取材当時(平成29年度)のものです。

企業データ

企業名
有限会社金照堂
Webサイト
代表者
代表取締役 金子 真次 氏
所在地
佐賀県西松浦郡有田町赤坂有田焼卸団地
創業
1961年
事業内容
有田焼・波佐見焼の陶磁器を扱う卸問屋が、固定概念を捨て窯元や赤絵師、デザイナーとタッグを組んで生まれた、メタリックカラーが特徴の「麟 Lin」シリーズ。洗練されたかっこよさと特徴的な色合いが、いつものテーブルに非日常を添える。積極的に有田焼の可能性を海外へと広げている。