中小企業の海外展開入門

「株式会社日翔工業」Success Case Introduction

2020年 4月 3日

最先端技術を“伝統技術”へ。狙いを定めた出展戦略で海外販路を拡大!

人工衛星など宇宙開発技術を応用したチタンコーティングでつくられたJewelry Glass〈PROGRESS〉。その七色に輝くガラス製品は、B to Bの工業系メーカーだった株式会社日翔工業が新たな販路を拡大するべく高級ブランドとして開発したプロダクトだ。国内におけるB to Cの販路開拓を経て、展示会への出展によって海外市場への進出を果たした同社の工場を訪れ、現在に至るまでの軌跡を辿った。

INTERVIEW
海外の話題づくりを狙ったブランディング戦略により、わずか3年で国内市場開拓に成功!

「当社のコア技術であるチタンコーティングの妖艶な輝きを何とか生かすことができないか、と新たな商品づくり取を始めたのが2011年頃のこと。それがB to Bの下請け企業からの脱却を目指す、自社ブランド開発の第一歩でした」。そう語るのは、日翔工業で新ブランドのプロデュースを一手に引き受ける小長井克久さんだ。

もともと宇宙開発や自動車など部品加工のOEMを中心に、技術屋として最先端の加工技術を提供していた同社。まず小長井さんが考えたのは、海外で話題づくりをして逆輸入するというブランド戦略だった。「例えば“ハリウッドで流行った”といえば日本人も惹きつけやすい。そこで海外をはじめ、ファッション業界やアートシーンなど感度の高い人たちのアンテナに響くような情報発信を積極的に行いました。彼らは既にその業界にマーケットを持っていますから、我々がゼロからアプローチするより早いのです」。小長井さんの狙い通り、イタリアの美術館やニューヨークの店舗ディスプレイといった案件のオファーが舞い込むようになる。

その後も、自社ブランドの構築を目指してroomsや素材展、Magicなど多様なカテゴリーの展示会へ出展し、多様な形状や素材にチタンコーディングを施したプロトタイプを使ってプレゼンテーションを行う。そこで特に商品化の要望が高かったグラスを、ライフスタイルの細部まで確立されたペルソナを想定してブランディングし、高級路線の〈PROGRESS〉として開発。国内展示会への出展などを通して、発売からわずか3年ほどで順調に販路を拡大し、実に売上の7、8割を占めるほど急速な成長を遂げた。

特定のターゲット層を狙ったブランディングでアジア圏をはじめ想定を超える商談成立へ

当初、欧米マーケットを狙ってブランディングをしてきた同社だったが、海外バイヤーが多く集まる展示会に出展後、大きな取引として実を結んだのは、意外にも中国の商談だったという。

「正直なところ、アジア圏は取引上やブランドイメージの面で懸念していた部分もあったのですが、今回の出展で中国の取引先と商談が成立しました。アッパー層に限定した会員制のオンラインショップで、ブランドイメージを大事にした特設ページを構築してもらって、取引額としても大きな案件となったのですよ。その他にも、シンガポールや中東からもたくさんお話をもらいました」。富裕層に狙いを定めたブランディングがバイヤーの目に留まり、見事に狙い通りのマーケット開拓につながった好事例といえるだろう。

「(海外バイヤーが多く集まる展示会は)伝統工芸だけでなく、その先を行く次世代のライフスタイルを提案するプロダクトも多いですね。展示会の出展者間でコラボ商品の話も持ち上がりました。横のつながりが生まれる可能性に満ちた場でもありますね」。

静岡発のパッケージブランドで集合体として海外進出を目指す

次のステップとして小長井さんが取り組んだのは、地元・静岡の中小企業に呼びかけてプロデュースした、パッケージブランド〈STYLISH × SHIZUOKA〉。現在、ショッピングモールや百貨店などから出展の要請が後を断たない存在となっている。

「今後、ニューヨークに〈STYLISH × SHIZUOKA〉のアンテナショップを出そうという話が持ち上がっています。〈PROGRESS〉単体ではパンチが弱い。やはりさまざまなカテゴリーの商品がクロスする集合体だからこそ人や集まってきます。今後も積極的にブランドのプロデュースを仕掛けていきたいですね」。

展示会で掴んだ海外市場への足がかりから、日本の伝統技術の新しい在り方を築く波が確実に広がり始めている。

※掲載している内容は取材当時(平成29年度)のものです。

企業データ

企業名
株式会社日翔工業
Webサイト
代表者
代表取締役 小長井 博夫 氏
所在地
静岡県藤枝市東町7-10
創業
2010年
事業内容
立体形状品やガラス素材などにも対応可能な独自のチタンコーティング加工によって、宇宙開発や自動車業界など多様なジャンルにおいて最先端の加工技術を提供。その技術を応用して開発された新ブランドJewelry Grass〈PROGRESS〉で、国内外の流通業界へ販路を拡大している。