中小企業の海外展開入門

「鋳心ノ工房」Success Case Introduction

2020年 4月 13日

モダンでスタイリッシュな鋳物の伝統美を

カラフルな鋳物は見ていても楽しい

世界へ広げていく青、赤茶、緑……と、色とりどりに並ぶティーポット。ハンドルとツマミが木でできたケトル。1997年、デザイナーである増田尚紀氏が、日本に伝わる鋳物の伝統美を今日の生活様式に提案すべく設立した鋳心ノ工房。モダンでスタイリッシュなデザインが目を引くプロダクトの数々は、特に欧米のバイヤーたちから高い注目を浴びている。かつては商社を介して海外と取引を行っていた同社は、現在、直接取引に力を入れているそう。その背景について、増田氏に話を伺った。

INTERVIEW
作り手が直接商品の良さをアピールする時代へ

デザイナーの増田尚紀氏
デザインだけでなく、マーケットリサーチやセールスなども自身で行うというデザイナーの増田尚紀氏

「鋳物自体は、50年以上前からヨーロッパに輸出されていたのです。フランスの高級紅茶ブランドが日本製の鋳物のティーポットを採用したことから、デザインもどんどんスタイリッシュに変化していきました」と、増田氏。保温性が高く冷めにくい国産の鋳物は、長年にわたり世界中から高い人気を誇ってきた。しかし、最近では外国製の安価で粗悪な製品も多く出回っているという。「安価な製品は、製造の過程で何を混ぜているのかわからない。その点、国産の高品質の鋳物は安全性が高いといえます。差別化をするためにも、作り手自身が直接バイヤーとコミュニケーションをとって商品の良さをアピールする必要があるのです」。

直接取引で、海外マーケットがより身近に

色とりどりに並ぶティーポット

2007年に、経済産業省生活関連産業ブランド育成事業に採択されたことをきっかけに、海外とのダイレクトなつながりがスタート。3回にわたって参加し、アンビエンテ、メゾン・エ・オブジェに出展。2015年から2019年にわたって、伝産協会主催のアンビエンテでのDENSANブースへのエントリーを続けています。「以前からも、海外のお客さまからは、『なぜ日本の商社を通さないといけないのか』と言われていました。商社を介さなくなったことで、大口のお客さまだけでなく、小規模の小売店にも販路を広げることができた。今までは、コンテナー単位で受注していたものが、宅配便の段ボール一つで配送することができる。きめ細かく対応できるようになったのです」。これまで“作り手”に徹してきた増田氏が、“売り手”としても活動するようになってからは、海外のマーケットがより身近に感じられるようになった。

すべての“出会い”を大切にして、つながりを絶やさない

様々な種類の鋳型

「弊社の商品を、商社を通じて注文しているバイヤーもいる。改めてお互いを紹介し、その後のダイレクトな流通にもつながっています。また、同じバイヤーとJETROのマッチング事業で再会して商談につながったこともある」。出会った人には必ずサンキューメールを出し、つながりを続けることを大切にしているという増田氏。海外の展示会に出展、また見学をした際には、マッチング事業の店舗を見学して直接挨拶をすることも心がけているそう。「展示会での出会いは、バイヤーだけではありません。さまざまな立場でモノづくりに関わる人が出展しているため、情報交換ができるのもいい」。

グローバリゼーションを意識しないと生き残れない時代

鋳物のティポットは保温性が高く、冷めにくいのが特徴

小規模経営の企業にとって、海外進出に欠かせないのが展示会への出展。しかし、「経費や人手などの問題で、単独での国内、海外展示会への出展は厳しい」と、増田氏は指摘する。「広いスペースに多くの商品を展示してアピールすることも大切ですが、バイヤーと直接会って拙い英語でも話し合うことがとても大切なことだと感じています」。また、冒頭でも触れたように、以前はメーカーと販売者で役割分担が明確だったので、作り手はつくることに特化すればよかったのですが、現在では作り手が流通まで担わなくてはならなくなったため、メーカー側の負担が増えているそうだ。こういった傾向は、今後も進んでいくと増田氏は予測する。「日々変化するグルーバルな時代において、情報はとても大切。それを踏まえてモノづくりを続けていかなくてはいけない。今後、小規模経営といえどもグローバリゼーションの時代の流れの中で生きていくしか道はありませんが、情報量は少なく、多くの情報は中小機構などの支援に頼らざるを得ません。たとえば昨年参加したセミナーでは、当時の販促状況を把握する良い機会となりました」。海外進出が身近になってきた今こそ、情報やサポートをどう活用していくかが販路拡大において成功を左右するカギになると言えそうだ。

※掲載している内容は取材当時(平成30年度)のものです。

企業データ

インテリアとして飾りたくなる鋳物
企業名
鋳心ノ工房
Webサイト
代表者
代表取締役 増田 尚紀 氏
所在地
山形市銅町2-1-12
創業
1997年
事業内容
日本に伝わる鋳物の伝統美を今日の生活様式に提案する工房。鉄、アルミニウム、ブロンズ等の素材を中心に鋳物のデザイン、製作、流通を一貫して手がけている。国内に留まらず、国外にも販路を広げている。