パリのアスリートを支える

“ものづくりのまち”の技術で生まれた国産アーチェリー【DYNASTY ARCHERY(新潟県三条市)】

2024年 1月 15日

DYNASTY ARCHERYを運営する加藤モーター社長の加藤健資氏(右)と店長をつとめる不破俊典氏
DYNASTY ARCHERYを運営する加藤モーター社長の加藤健資氏(右)と店長をつとめる不破俊典氏

70m離れた直径122cmの的めがけて矢を放つアーチェリー。手元のわずかなズレが的を大きく外す結果になるだけに、競技で使用する用具には高い精度が求められる。そんな高難度の注文に対し、金属加工を得意とする“ものづくりのまち”の技術で応えているのがDYNASTY ARCHERY(ダイナスティーアーチェリー)だ。選手に寄り添う形で製造された国産アーチェリー用品は多くの国内トップ選手から高い評価を受け、誕生からわずか4年でパリの大舞台にお目見えすることになる。

本業はキャンピングカー 2020年に事業部設立

「UNITUBE」には国内トップ選手が数多く出演。中央は2022年6月のW杯で優勝した安久詩乃選手
「UNITUBE」には国内トップ選手が数多く出演。中央は2022年6月のW杯で優勝した安久詩乃選手

DYNASTYを運営する有限会社加藤モーター(新潟県燕市)はオートバイの修理工場として1956年に創業。その後、キャンピングカー事業を始め、全国有数の“ものづくりのまち”燕三条地域にふさわしいクオリティーの高いオリジナルのキャンピングカーを製造・販売している。

アーチェリー事業を立ち上げたのは、2代目・加藤次巳智(つぐみち)氏の長男である加藤健資(たけし)氏(2023年1月に社長就任)。高校時代から本格的にアーチェリーを始めた加藤氏は、東京都内の大学でもアーチェリーを続け、在学時に新潟県代表として国体に出場するほどの実力だった。

大学卒業後、都内を中心にアーチェリーの中古用品販売を始めた。新品だと数十万円はするアーチェリー用品を手ごろな価格で販売したという。また、YouTubeに「UNITUBE(ユニチューブ)」というチャンネルを開設し、アーチェリー愛好者向けに情報発信も始めた。現在約3600人の登録者数を有する同チャンネルはやがて国内トップ選手や指導者らとの人脈づくりに大いに役立っていった。

中古アーチェリー用品の販売はその後、中古品を売買するメルカリなどの普及につれて低迷。「ここが分岐点だ」とみた加藤氏は本業のキャンピングカー販売のかたわら、アーチェリー用品の製造・販売を立ち上げようと決心した。燕三条で働く職人たちの技をアーチェリーづくりに活かそうと、2020年2月に加藤モーターの新規事業としてアーチェリー事業部を設立。翌年9月にはDYNASTYの店舗が三条市内にオープンした。

選手に寄り添い熟練の技術で微細な加工

店長の不破氏はインターハイ団体優勝など数々の実績を持つ
店長の不破氏はインターハイ団体優勝など数々の実績を持つ

アーチェリー製造はかつて国内大手メーカーが手掛けていたが、その後、事業から撤退し、現在は韓国と米国のメーカーが世界市場のほとんどを占めている状態。日本の選手がグリップの握り具合など細部での調整を希望しても、海外メーカーにはなかなか声が届かない。結局、自分で削るなどの加工を施しているのが実情で、選手の間では本格的な国内メーカーの登場を待望する声は多かったという。

こうしたなか設立されたDYNASTYは“選手ファースト”。「選手からの要望に耳を傾け、選手に寄り添ったアーチェリーづくりを行っている」と話すのはDYNASTYの店長をつとめる不破俊典氏だ。不破氏も全国高校総合体育大会(インターハイ)での団体優勝をはじめ多くの実績を持つ元選手で、加藤氏が開設した「UNITUBE」に出演するなど以前から交流を続けていた。その後、加藤氏から誘いを受け、2022年4月に入社。「DYNASTYに夢と期待を感じた」と不破氏は振り返る。

DYNASTYは設立時の2020年2月、リオ五輪で銀メダルを獲得した米国のザック・ギャレット選手と共同開発契約を締結。その後、アーチェリーのパーツであるグリップやスタビライザー、Vバーなどを製造してきた。また、国内トップ選手らと契約し、DYNASTYを使用しての感想や要望をフィードバックしてもらい、アーチェリー用品の精度を高めている。

こうしたアーチェリー用品づくりを支えているのが金属加工を得意とする燕三条の職人技だ。「DYNASTYでは少量ロットでも対応し、熟練した技術で微細な加工を施し、選手に合った製品に仕上げている」(不破氏)という。

設立から短期間で国内トップ選手が使用

DYNASTYの製品。前方に突き出しているパーツがスタビライザー
DYNASTYの製品。前方に突き出しているパーツがスタビライザー

確かな技術から生まれた国産アーチェリー用品は、契約選手のみならず、他の有力選手の間でも高い評価を得ていった。パリ五輪代表に内定している中西絢哉選手(シーアール物流)もその一人。アーチェリーでは、使用するアーチェリーの全パーツを同じメーカーの製品に統一する必要はなく、パーツごとに選択するケースが多い。中西選手は様々なパーツを試した末にDYNASTYのVバーを使用することになり、2021年10月の全日本選手権で初優勝を果たした。その後、他の選手から借りたDYNASTYのスタビライザーも気に入ったという。DYNASTY製品を使っていることを知った加藤氏は中西選手にアプローチし、現在は契約選手となっている。

また、ロンドンと東京でメダルを獲得し、パリ五輪で6大会連続となる代表に内定している古川高晴選手(近畿大学職員)も最近になってDYNASTY製品に切り替えた。古川選手とは、DYNASTY設立後、「UNITUBE」に何度か出演してもらうなど、つながりがあったという。さらに、同じくパリ五輪代表に内定している野田紗月選手(ミキハウス)らもDYNASTYの愛用者だ。

このほか、契約選手である上山友裕選手(三菱電機)と重定知佳選手(林テレンプ)はパリパラリンピック代表の有力候補である。今後の選考結果によっては、ほとんどの代表選手がDYNASTYを手にパリの大舞台に立つことになりそうだ。「アスリートが誇りをもって身に着け戦い、彼らの夢の実現を手助けする製品を、私たち社員が誇りをもって送り出す」という加藤氏の思いが設立から短期間で結実した格好だ。DYNASTY店長の不破氏もパリ大会に向けて「選手がベストパフォーマンスを発揮できるよう、パーツの調整などでサポートしていきたい」と話している。

さらに不破氏は「将来的には、日本選手だけでなく海外選手にも使ってもらい、“メイド・イン燕三条”の実力を世界に広めていきたい」との希望を持っている。4年前に“ものづくりのまち”で誕生したばかりのDYNASTYは早くも世界市場という的に狙いを定めようとしている。

アーチェリーのすそ野を広げる活動、初心者向け製品づくりも

「SUMMER SHOOT'22」で挨拶する古川高晴選手(写真上)
「SUMMER SHOOT'22」で挨拶する古川高晴選手(写真上)

DYNASTYでは、アーチェリーのすそ野を広げる活動も行っている。2020年の事業立ち上げ直後にはコロナの緊急事態宣言が発令され、甲子園大会など多くのスポーツ大会が軒並み中止となった。インターハイも中止となったが、「これまで頑張ってきた高校生のために自分たちの手で晴れ舞台をつくってあげたい」と考えた加藤氏はイベント会社などと協力し、代替大会として「SUMMER SHOOT(サマーシュート)'20」を企画。リーグ戦が中止となった大学生も招待し、同年9月に長野県内で開催した。

2022年7月に新潟県内で行われた「SUMMER SHOOT'22」では光の演出を加えた。「他の競技と同様、アーチェリーでもショー的な要素を加え、一人でも多くの人にアーチェリーに注目してもらおうと考えた」(不破氏)という。さらに、DYNASTYでは初心者向けの製品づくりにも取り掛かっている。アーチェリーの国内競技人口は現在1万2000人程度で、世界的にみて多いとはいえないが、加藤氏は「アーチェリーというスポーツを文化として根付かせていきたい」として今後も努力を積み重ねていく考えだ。

企業データ

企業名
有限会社加藤モーター(運営会社)アーチェリー事業部
Webサイト
設立
1956年(アーチェリー事業部は2020年)
資本金
1000万円
従業員数
25人(うちアーチェリー事業部5人)
代表者
加藤健資 氏
店舗所在地
新潟県三条市林町1丁目18-17 ヴィラ林203
Tel
0256-46-0533
事業内容
アーチェリー用品の製造・販売