あの人気商品はこうして開発された「食品編」

「森永ファッジ」100年の知恵が隠し味

「あの人気商品はこうして開発された」 「森永ファッジ」—100年の知恵が隠し味  口の中でほろほろと崩れる—?キャラメルといえば粘り気のある食感を連想するが、森永製菓が発売した「森永ファッジ」はキャラメルなのに、サッとほどける口当たりが特徴。真逆の発想に行きつき開発を成功に導いた鍵は、1913年から続く「森永ミルクキャラメル」で培ってきたノウハウと知見だった

しっとりとした質感ながらも、サッとほどける食感が特徴のキャラメル「森永ファッジ」。キャラメルといえば、粘り気のある食感を連想するが、同商品はかむと口の中でほろほろと崩れる。手がけたのは、キャラメルのトップブランド「森永ミルクキャラメル」を製造販売する森永製菓。誰もが知るロングセラー商品を持つ同社が、食感がまったく異なるキャラメルの開発にチャレンジしたのは、固定化しつつあるキャラメル商品に新しい風を吹き込み、同市場を活性化させたいとの思いからだった。

ユーザー層の固定化を危惧

今年100周年を迎えた「森永ミルクキャラメル」。ロングセラー商品だけに、ユーザー層が固定化されつつあった

森永製菓が「森永ミルクキャラメル」(以下、ミルクキャラメル)を発売したのは1913年6月。今年100周年を迎えた。同商品は幅広い世代から支持されているが、ロングセラー商品だけに「年代が上がるほどヘビーユーザー率が高くなる」(菓子事業本部菓子マーケティング部キャンディカテゴリー担当の野条理恵氏)という。ユーザー層が固定化されつつあった。

もっとも、キャラメル市場自体は「堅調に推移」(同)していることに加え、生キャラメルのヒットなどから、若年層を中心とする消費者は同商品の味を敬遠しているわけではない。市場の活性化の方法について意見を交わすと「現状の歯につきやすい食感を改良すればチャンスがあるはず。キャラメル味の新しい食感なら、受け入れられるのではないか」(同)との考えに至った。

キャラメルといえば粘着性のある商品という固定観念に縛られてしまいがちだが、180度違う発想ができたのは、キャラメル商品の開発を長年続けてきた森永製菓だからこそ。「日本ではキャラメルといえば、粘り気のあるキャラメルがほとんどだが、欧米にはヌガーのような伸びる食感のキャラメルや、口の中でほどけるような食感のファッジなど、いろいろな種類のキャラメルがある」(同)。多様な“知見”をもつ森永製菓だから、食感を真逆に変化させる発想に行きつくことができた。

生かされた100年の知恵

パッケージの「美結晶」の文字には森永製菓が微細な“砂糖の結晶化”にかけた思いと自信が込められている

商品名にもなったファッジはイギリスの発祥で、欧米では一般的に食べられているキャラメル菓子だ。作り方が確立した菓子ではあるが、森永製菓は「森永ファッジ」(以下「ファッジ」)を開発するにあたり、ミルクキャラメルが持つ商品特性の「しっかりとしたミルク感や甘さ」を重視した。同商品で長年培ってきた“味わいのマトリックス”を参考にしつつ、風味づけに洋酒のフレーバーを追加するなど独自の改良を加えた。

また、ほろほろと口どける食感の成否は、砂糖の結晶の大きさで左右される。ここでも長年の経験が生かされた。「砂糖と水あめの比率や、煮詰めや冷却の温度・時間で結晶の大きさが変わってくる。口の中でほどける食感を生み出す最適な結晶状態にするには、ミルクキャラメルでの技術やノウハウが生かされた」(野条氏)。パッケージには「美結晶」の文字が大きく配置されている。同文字には森永製菓が微細な“砂糖の結晶化”にかけた思いと自信が込められている。

ただ、ミルクキャラメルを100年間作り続けてきた同社であっても、思わぬ誤算が待ち受けていた。ライン化した一連の工程での生産ができなかったのだ。「ファッジ」の食感は粘り気のあるミルクキャラメルとはまったく異なるため、ラインにのせると素材が途中で崩れてしまった。「工程を分断して人手をかけてつくっている。無人化したラインでの生産というわけにはいかなかった。森永製菓では珍しい生産方法」(同)という。

オフィスで手軽に食べられるように

「デザインには通常の新商品よりも時間をかけ、こだわった」(同)と振り返るキャンディカテゴリー担当の野条理恵氏

試作の回数は「ゆうに100回は超えた」(野条氏)。着想から3年、キャラメルについて知り尽くしている上層部も納得のいく味と食感が完成した。

ターゲットはミルクキャラメルで掴(つか)みきれていない層の「20-30代女性」に設定。オフィスで食べる利用シーンを想定し、女性が一口で食べられ、また甘さもちょうどよく感じられるように一辺が13ミリメートルのキューブ状の形にした。

パッケージデザインでは「堂々とした大人のイメージを演出するため」(同)、深い紺色を背景色に採用。また、崩れた「ファッジ」のイメージ画像を大きく配置し、口の中でほどけるような食感を訴求した。

パッケージの形状はミルクキャラメルのような箱型ではなく、売り場のフックにかけられる容器にした。「『ファッジ』のコンセプトはオフィスで手軽に食べられるキャラメル。このコンセプトに一番近い商品がグミだったため、同じ売り場に並べてもらえるように、グミ商品と同じようなパッケージ形状にした」(同)と狙いを語る。「デザインには通常の新商品よりも時間をかけ、こだわった」(同)と振り返る。

2011年に静岡県でテスト販売を行い収集した情報を基に、より口どけ感が良くなるように改良。食品スーパーや卸など流通関係者に提案すると「『まったく新しい食感のキャラメル』と言われ、高い評価をいただいた」(菓子事業本部菓子マーケティング部の高波健二キャンディカテゴリーマネジャー)と声を弾ませる。2013年6月4日、新食感キャラメル「ファッジ」は満を持して発売された。

キャラメルに“新しい価値”を付与

「森永ミルクキャラメル」100周年記念で行った本社ビルラッピング。誰もが驚くプロモーションの目玉づくりには頭を悩ませた

「ファッジ」はミルクキャラメルの発売100周年記念にあわせて発売された。発売前日の6月3日には、TVCMタレントの上戸彩さんが出席したイベントを開催。同イベントでは、「ファッジ」のほか、「森永ミルクキャラメルクッキー」などのブランドエクステンション品も紹介したほか、本社ビルをミルクキャラメルのパッケージでラッピングする演出も行った。「100周年記念のため、誰もが驚くようなプロモーションの目玉をつくることが至上命題。期待に応えられる内容にすることにみんなが頭を抱えた」(高波キャンディカテゴリーマネジャー)と苦労も多かった。

「ファッジ」は発売すると、消費者から「『一度食べると止まらない』や『すぐに口の中でほどける食感なので、電話対応しなくてはいけない時に便利』などの評価をいただいた。実際の購買層も想定した通りに20-30代女性になっている」(野条氏)とにっこり。もっとも店頭での試食販売では、口の中でほどけ歯にくっつきにくい特徴から年配者からも好評を得たという。今後はユーザー層をより広い世代に拡大できるように、ミルクキャラメルとファッジの2本立てでのブランド展開を加速させていく。

商品イメージが固定化しつつあったキャラメルに、従来とは異なるサッとほどける食感で挑んだ森永製菓。「ファッジ」の開発により、キャラメルという伝統の菓子に新しい価値を与えることに成功した。

企業データ

企業名
森永製菓株式会社
Webサイト
代表者
代表取締役社長:新井徹
所在地
東京都港区芝5-33-1

掲載日:2013年11月20日