人手不足を乗り越える

若い社員に商品開発のチャンス、求人に応募者200人の町工場【株式会社タシロ(神奈川県平塚市)】

2024年 3月 18日

「日本一挑戦するベンチャー型町工場」タシロの田城功揮社長
「日本一挑戦するベンチャー型町工場」タシロの田城功揮社長

「日本一挑戦するベンチャー型町工場」をミッションに掲げる株式会社タシロは、社員の9割が20代という若さと活気があふれる中小企業だ。5年前に入社した3代目の田城功揮社長は、前職の経験をもとに町工場のイメージを変える取り組みに着手。その一環として開発した自社製品が東京インターナショナル・ギフト・ショーでグランプリに輝いた。この受賞を機に、ものづくりを志す若者たちの注目の的となり、社員数10人余の同社の求人には年間約200人もの応募者が集まっている。

24時間以内納品可能な「製造業界のコンビニ」

かながわ中小企業モデル工場に指定される「製造業界のコンビニ」
かながわ中小企業モデル工場に指定される「製造業界のコンビニ」

同社は1966年、田城氏の祖父・俊雄氏が自動車整備工場として創業。その後、父・裕司氏の代に工作機械を相次いで導入し、精密板金や精密切削加工など現在の事業内容へと転換した。顧客にとって便利な町工場であろうという思いから「製造業界のコンビニ」というキャッチフレーズを掲げたのも裕司氏である。現在は「スピード対応 見積即日 24時間以内納品可能」とホームページなどに明記し、便利さを具体的にアピールしている。2004年にISO9001認証を取得、2012年には「かながわ中小企業モデル工場」に指定されるなど、ものづくり企業としての評価を高めてきた。

3代目となる田城氏は大学卒業後、人材ビジネス大手のパソナに入社。同社には将来的に独立を目指す人が多く、田城氏も「祖父や父の姿を見て育ったので、跡を継ぐかどうかは別として、いずれは自分も経営者になりたいと考えていた」という。結局、勤めたのは3年に満たなかったが、その間、求人票の作成や労働基準法をはじめとした労働法規の知識習得、就職氷河期世代を対象にしたビジネスマナー研修など人材確保・育成に関わる経験を積んだ。そして2019年、家業を継ぐ決意を固め、タシロに入社した。

前職の経験を生かして人材確保の土台作り

今年2月の中小企業総合展にも出展
今年2月の中小企業総合展にも出展

入社するまでものづくりの経験がなかった田城氏が手掛けたことの一つが「株式会社タシロ」のブランディング。まずは自社のことを知ろうと、取引先に「自社の強みは何か?」と聞いて回った。すると「強みは人を含めた高い品質」との答えが多く返ってきた。「製造業界のコンビニ」を謳い文句にするだけあって、早いレスポンスや柔軟な対応が取引先には好評だったのだ。「ウチの強みは“人”。その強みを伸ばし、“人”で勝負していきたい」との思いを強くした。

とはいえ、多くの中小企業と同様、人材確保は容易ではない。その当時、20人弱の社員の大部分は技能実習生など外国籍。「日本人の応募はきわめて少なかった」(田城氏)という状況だった。そこで田城氏は前職での経験を生かし、人材を確保するための土台作りに取り掛かった。具体的には▽ビジョンとミッション、キャッチコピーなどの策定▽就業規則の見直し(完全土日休み、半日休暇制度、時短正社員制度など)▽人事評価制度の導入▽社員教育の充実▽認証や表彰などへの応募・申請▽自社製品の企画・製造・販売事業の開始▽展示会などイベントへの積極的な参加(年10回以上)—といったもので、これらの取り組みを2~3年の期間をかけて実行していった。

このうち社員教育では、田城氏自らが講師となり、ビジネスマナーなどの研修を実施した。また、社員の多能工化などを進めることで、「24時間以内納品可能」とする「製造業界のコンビニ」の看板を維持しながら働き方改革も実現。「完全土日休みはもちろん、残業はゼロ」(田城氏)という。さらに認証・表彰では2019年に「神奈川がんばる企業エース」認定を受けた。毎年10社程度しか選ばれず、田城氏は「その年の県内中小企業のトップ10に入った」と胸を張る。

採用面では、「大企業と同じ土俵で勝負していてはいけない」として、地元・平塚市を含む湘南エリアでの認知度向上に注力。エリアを絞った求人情報を検索できる求人サイトを活用した。こうした地道な努力の積み重ねが奏効したようで、それまで年間10人前後だった応募者数は2019年以降、徐々にではあるが、年を追うごとに増加してきたのである。

自社製品「3WAYピザ窯」のグランプリ受賞を機に応募者急増

ギフト・ショーでグランプリに輝いた「3WAYピザ窯」
ギフト・ショーでグランプリに輝いた「3WAYピザ窯」

そして2022年、大きな転機が訪れた。自社製品として開発した「3WAYピザ窯」を同年2月開催の東京インターナショナル・ギフト・ショー春に出展したところ、「LIFE×DESIGNアワード」のグランプリを受賞した。6カ月の期間と30回以上の試作の末に完成した力作で、1台3役(ピザ窯・焚き火台・燻製器)という機能性と、A4サイズに折りたためるコンパクト設計が高い評価を得た。さらに、田城氏が製品開発にまつわるストーリーをSNSで発信したこともあり、製品そのものの評価だけでなく、「タシロでは若い社員が製品開発に携わることができる」との評判が広がった。ものづくりを志す学生ら若者たちの心に刺さり、その年の応募者数は一気に120人に急増した。

「自社製品開発は社員のモチベーション向上につながる」として、「3WAYピザ窯」のあとも、若手社員のアイデアをもとに次々と新商品を送り出している。とくに、石をモチーフにした蚊取り線香ホルダー「盆石(ぼんせき)」は、大学でプロダクトデザインを学んだ入社内定者が企画・デザインしたもので、入社前に開催されたギフト・ショーに出品された。田城氏は「小規模企業だからこそ、社員の仕事のやりがいを大事にしたい。大手にはない裁量の大きさや、会社を成長させていく実感が持てる。自分のアイデアで商品を出すチャンスも大きい」と話す。

社員の9割が20代、若さと活気があふれる町工場

蚊取り線香ホルダー「盆石」は入社内定者が企画・デザイン
蚊取り線香ホルダー「盆石」は入社内定者が企画・デザイン

こうした話題を積極的に発信したことで、人気は一過性のものでは終わらず、2023年の応募者数はさらに増え、約200人に達した。「利用している求人サイトからは今も毎日のように応募がある」(田城氏)という。もちろん、いくら多くの応募があったとしても、企業規模を急拡大することはできない。そこで、求める人材として(1)自分のアイデアで商品化したいレベルでものづくりが好き(2)同じ作業を続けるより新しい作業が好き(3)挑戦や目標がモチベーションを高める(4)人より多くの経験をしてキャリアを築きたい—との条件を明確にしたうえで、少人数に絞った採用を続けている。その結果、現在は社員11人(田城氏ら役員を除く)のうち10人が20代という、若さと活気があふれる町工場へと変貌している。

今年4月には梶田勘太さんが大学新卒で入社する。梶田さんは、中小企業の魅力を発信することを目的とした「中小企業の日」(7月20日)のイベントとして開催された「中小企業ミライ絵日記アワード2023」に応募し、入選を果たした。梶田さんの作品は、自分が入社する会社の商品が世界中で売れる未来を描いたもので、「今は『タシロってどこにある会社なの?』と言われるかもしれないが、将来的には、世界中のだれもが知るブランドにしていきたい」との思いを込めているという。

10年後に年商10億円、社員50~60人規模を目指す

経営・デザイン方針を発表する田城氏
経営・デザイン方針を発表する田城氏

2023年9月、田城氏は3代目社長に就任。そして1月決算の同社が新体制となって初めて迎える新年度の初日(今年2月1日)、経営・デザイン方針発表会を横浜市内で開催した。招待した町工場経営者や地域の事業者ら約30人の出席者を前に、田城氏は、「日本一挑戦するベンチャー型町工場」とするミッションと、「町工場のイメージをカッコよく! 『共創』により日本の産業を勢いづける存在に」というビジョンを打ち出した。ビジョンに盛り込んだ「共創」は、自社製品の製造販売などで他社とのコラボレーションを積極的に進めていこうというものだ。

そのミッションとビジョンを実現する拠点となる新社屋の構想も明らかにした。「OPEN INNOVATIVE FACTORY」と銘打った新社屋は、社員が意見を出し合ったもので、工場を中心に、カフェやトレーニングジム、キャンプ場、保育園などを併設しており、地域に開かれたクリエイティブな拠点を目指す。着工は10年後が目標。「10年後には年商を現在の5倍程度となる10億円に、社員数を50~60人規模に拡大したい」と田城氏。「日本一挑戦するベンチャー型町工場」はさらなる変貌に向けてチャレンジしていく人材の確保を続けていく考えだ。

企業データ

企業名
株式会社タシロ
Webサイト
設立
1966年
資本金
2000万円
従業員数
11人
代表者
田城功揮 氏
所在地
神奈川県平塚市入野284-1
事業内容
精密板金加工・切削加工・自社商品の企画製造販売