人手不足を乗り越える

保育園開設で女性社員が増加、“選ばれる企業”を目指す【株式会社タイヨー(広島県広島市)】

2025年 10月 6日

女性を積極採用するタイヨー代表取締役の元山琢然氏
女性を積極採用するタイヨー代表取締役の元山琢然氏

3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強く“男の職場”とみられがちな廃棄物処理業界で多くの女性社員が活躍している企業がある。株式会社タイヨーでは、人材確保に苦戦するなか、女性に着目。社内に保育園を開設して女性の積極採用に乗り出した。その後も設備や制度の整備を進め、女性社員比率は4割近くに。今後も魅力ある職場づくりを進め、「何事からも選ばれる企業」への成長を目指していく。

“男の職場”に目立つ明るいユニフォーム姿

タイヨーの本社工場
タイヨーの本社工場

広島市東部を流れる瀬野川の河口付近に広がる工業地帯の一角にタイヨーは本社工場を構える。市内やその近辺で見かけることが多い、虹と太陽の「ニコニコマーク」がついた収集車が頻繁に出入りし、リサイクルプラントに持ち込まれた廃棄物の選別作業が行われる。そこでは、ひときわ目を引くターコイズブルー(緑がかった青色)とピンクを基調にした明るいユニフォーム姿の女性をよく目にする。「女性が活躍することで、当社のイメージアップにつながっている」と同社代表取締役の元山琢然氏は話す。

同社は1951年に一般廃棄物の収集・運搬を手掛ける比治山衛生社として創業。社名変更を何度か経て2003年に現社名となった。初代代表は父・浩氏で、弟(元山氏の叔父)で専務だった博海氏が実務を取り仕切っていた。この間、業務の拡張を行い、2007年には廃プラスチックのリサイクルプラントが完成した。しかし、この事業が裏目に出て巨額の赤字を抱えることに。浩氏は責任を取る形で辞職し、2016年1月に元山氏が代表に就任した。

31歳で代表就任 リストラ、採用難で女性に着目

敷地内の「たいようすくすく保育園」には社員の子どもたちが通う
敷地内の「たいようすくすく保育園」には社員の子どもたちが通う

元山氏は大学卒業後、2006年に同社に入社。10年ほどのキャリアを経て代表に就任したが、その矢先、頼りにしていた博海氏が急死。31歳の若さで会社経営の舵を取ることになった元山氏は、経営改善に向けてリストラを断行した。当時の社員数は100人をはるかに超えていたが、退職勧奨を行い、20人ほどが同社を去った。そのほかにも自主的に退職するケースが続いた結果、今度は業務に支障が出かねない状況に陥った。

新規の採用が難しいなか、元山氏が着目したのが女性だった。「当時の社員のほとんどが男性だったが、女性でも働きやすい環境を整えればいいのでは」と考え、先行投資という形で保育園の整備に取り掛かり、2018年4月、同社敷地内に「たいようすくすく保育園」がオープンした。運営は、全国各地で認可保育園や企業主導型保育園などを展開するアイグラン(広島市)が担当。社員(一部のパート従業員を含む)ならば保育料は全額会社負担になる。

当時、保育園に入れない待機児童は大きな社会問題となり、2017年に全国で2万6000人を超え、ピークに達していた。そんななか、保育園開設のインパクトは大きく、求人に対し、県内外から応募が増加。とくに子育て世代の女性が目立った。2018年4月に10人だった女性社員数は19年4月に17人、20年4月に20人、21年4月に32人と急伸。開設前には1割程度だった女性社員比率も現在は4割近くに達している。

女性社員比率5割を目指してチーム発足

男女別に改築された休憩所はカフェのような雰囲気
男女別に改築された休憩所はカフェのような雰囲気

それまで“男社会”だった社内に女性が増えたことで様々な対応が必要になった。2019年4月には休憩所を改築し、男女別の休憩所とシャワー室を整備。社内に業務用の大型洗濯機も設置した。それまでは、汚れたユニフォームを自宅に持ち帰り、他の衣類などとは別に洗濯していたが、「一日に2回も洗濯機を回す必要がなくなり、とくに子どもを持つ女性社員からは喜ばれた」(元山氏)という。業務面でも改善を進め、ATトラックや産廃選別ラインを新たに導入。重たい家具などを運び出す際には2人1組で作業に当たるといった工夫を凝らし、女性が働きやすい環境を実現している。

2022年2月には、女性社員比率5割を目指して女性中心のチーム「READY SUNFLOWER(レディサンフラワー)」が発足。家事や育児の経験を持つ女性ならではの目線から、設備・制度の面のさらなる改善と、同社を含めて廃棄物処理業界全体のイメージアップを図る取り組みを進めている。同年4月にはチームの意見を採り入れて女性専用ユニフォームを導入した。同社のユニフォームは女性の積極採用を始めた後の2020年に変更。青をベースに赤や黒などでデザインしたカラフルな男女共通のものになっていた。これに対し、女性専用ユニフォームは「やさしさやかわいらしさを表して女性らしさをアピールしたい」というチームの声を受け、全体的に淡くやわらかい色合いに。これに合わせて、収集車など一部の車両もピンクを基調にしたデザインに模様替えしている。

一連の取り組みによって「会社のイメージアップだけでなく、採用面でもプラス効果が出ている」と元山氏は話す。さらに業務面では、不用品の処分など各家庭を訪れて行うサービスで「女性に来てほしい」とのリクエストが寄せられるようになったという。

働くシングルマザー「保育園が何より重要」

女性専用ユニフォームを着用する田中陽希さん(右)と城本奈奈未さん
女性専用ユニフォームを着用する田中陽希さん(右)と城本奈奈未さん

女性社員の大多数は子育て世代で、そのうちの6、7割はシングルマザーだ。その一人で、2020年に入社した田中陽希(はるき)氏は2児の母。以前はアパレル関係の企業で働いていたが、待機児童問題が深刻化していた当時、育児休業終了後に子どもを保育園に入れることができずに退職。しばらくは家事と育児に専念していたが、やがて仕事探しを始めたところ、タイヨーが社内に保育園を設置していると知り、すぐさま応募した。「当時、子どもは1歳半とゼロ歳児。保育園が何より重要だった」と田中氏は振り返る。

しかし、廃棄物回収という仕事に対する世間一般のイメージは根強く、同社に入社することを知った田中氏の両親は「なにかの資格を取って次の仕事が見つかるまでのつなぎだろう」という微妙な反応だった。こうした両親の思いをよそに、田中氏は社内でキャリアを積み上げ、現在は管理部戦略推進課マネージャーという管理職をつとめている。保育園で楽しそうに過ごしていた子どもたちは現在、小学生と年長組に成長。両親も今では、田中氏が同社で働き続けていくことに理解を示しているという。

透明度の高い評価制度、大きく変わった社内の雰囲気

虹と太陽の「ニコニコマーク」がついた収集車
虹と太陽の「ニコニコマーク」がついた収集車

元山氏の改革は女性採用に関したものに限らない。その一つが人事評価制度だ。代表就任直後から元山氏のもとには「正しく評価されていない」という社員からの不満の声が多く寄せられた。これを受けて透明性の高い評価制度を整備し、2019年から運用を開始した。

評価制度では、一般職、管理職とも等級を設け、それぞれの等級基準(あるべき姿)を明示している。各社員がこの先どうすれば昇格・昇給できるかが“見える化”されているのだ。評価は半期ごとに行い、個別面談も原則毎月行うことにしている。評価のポイントは「成果、能力、態度」(元山氏)の3点。各自が設定した目標に対する到達度や、業務に必要な法令などの習得や資格の取得、さらには、社会人としてマナーや常識、身だしなみなどだ。会社としても勉強会や研修を実施し、社員の成長を後押しする。これにより同社が企業理念に掲げる「かっこいい社員、かっこいい仕事、かっこいい企業」を実現していきたいとしている。

常務執行役員として人事や総務を担当する加藤勇樹氏は2001年の入社で、先代(浩氏)から元山氏への代替わりの様子を間近で見てきた。「先代の時は、社員は上から言われたことをやっていればいい、という状況だったが、(元山氏は)新しいことに積極的にチャレンジし、社員の自発的な意見を採り上げている。社内の雰囲気は大きく変わった」と話す。

働きたい、働き続けたいと思ってもらえる魅力ある職場づくりを

人手不足解消に向け、さらなる改革を続ける元山氏と加藤勇樹氏(左)
人手不足解消に向け、さらなる改革を続ける元山氏と加藤勇樹氏(左)

女性社員の増加や知名度向上などにより、求人に対する募集は増えている。それでも「人手不足感は解消していない」と元山氏は話す。その原因の一つが離職率の高さだ。労働環境の改善を進めているが、廃棄物収集の仕事はきつい仕事であることに変わりはない。「とくに昨今の猛暑で屋外での作業がいっそうきつくなっている」と嘆く。社員の定着に向けて元山氏は改革を続けていく。「一人当たりの業務量を減らしていく工夫を進め、性別や年齢などに関係なく、誰もができる仕事内容にしていかなければならない」と強調。加藤氏も「DXのさらなる活用などで業務量の低減を図っていく」と話す。

同社の事務所に掲げられている経営方針は「何事からも選ばれる企業へ成長する」。元山氏は「今は働き手が仕事を選べる時代。この会社で働きたい、働き続けたいと思ってもらえるような魅力ある職場づくりを引き続き進めていき、人から愛され、選んでもらえるような会社にしていきたい」と話している。

企業データ

企業名
株式会社タイヨー
Webサイト
設立
1951年
資本金
4300万円
従業員数
80人
代表者
元山琢然 氏
所在地
広島県広島市安芸区船越南5丁目11-1
事業内容
一般廃棄物の収集・運搬、産業廃棄物の収集・運搬・処分、各種リサイクル処理