生産性向上に取り組む企業事例

500年続く吉野材を多くの人に届けるために マーケティング拠点「YOSHINO WING」を開設【吉野製材工業協同組合】(奈良県吉野町)

2022年 5月9日


500年続く吉野材を多くの人に届けるために【吉野製材工業協同組合】

日本で最も古い植林の歴史を持つ吉野地方は、古くから吉野杉、吉野桧といった優良木材を生産してきた。吉野製材工業協同組合は吉野材に携わる事業者が参画する組合で、原木の仕入れや吉野材利用の推進などを進めてきた。吉野材流通量の約1/3を取り扱う。しかし、日本家屋が減少するなか、吉野材の需要は減少傾向が続いてきた。そこでより気軽に、より多くの人に吉野材を知って使ってもらえるよう、新たなマーケティング拠点「YOSHINO WING」を構築。オンライン上の共同受注を可能にし、全国からの多様な相談に応えられる体制を整えるとともに、積極的な発信に力を入れている。

日本屈指の良質な木材として古くから活用された吉野材

吉野材の特徴は、年輪材の均一さと密度の高さだ。苗木を1本1本植え付けて、枝打ち、間伐といった作業をはさみ、何十年もかけて質の良い木にしていく。「強くてたわみにくい」性質から古くは樽材として重宝され、まっすぐで色つやの良い特徴から住宅の内装材へと広がっていった。建築関係者からの信頼も厚く、以前は「出荷するだけ売れた」そうだ。しかし、木材をふんだんに使う日本建築が減少し、他の素材とも競合するなかで、需要減少、価格下落が徐々に進行していった。

吉野製材工業協同組合では、月に一度の製品市と単板市を中心に、全国の木材問屋に吉野材を販売してきた。しかし従来の販路だけでは新たな需要拡大の手を打ちづらい。日本全国の木材を使う工務店などに仕入れの窓口としてより広く知ってもらえないか、あるいは吉野材を使用したいという一般のユーザーが増えないか。そうした思いから、情報発信、マーケティングについて考え始めた。

その一環で、力を入れ始めたのが、吉野材を体験できるイベント型商談会の開催だ。伐採見学ツアー、木工作家展示会見学、手刻み建築の建て方実演、パネル工法上映会といった企画を進めている。企画を通じて、木材建築を推進する建築グループ等とも接点を広げた。たとえば手刻み建築の建て方実演では、手刻みの継承を行っている大工集団「手刻み同好会」と協力連携し、吉野材を使った小屋の棟上げをライブ実演した。オンライン・オフラインで実施したこともあり、これまで接点のなかった数多くの人が吉野材の魅力を知る機会となった。

手刻み同好会との建て方実演イベント
手刻み同好会との建て方実演イベント

より広く、より多くの人に届けるための販路開拓に着手

並行して進めてきたのが、オンライン共同販売システムの「YOSHINO WING」だ。製品の企画や木材の調達から、製造・物流・マーケティング・プロモーション・販売まで一貫して対応する。「必要なときに、必要なところへ、必要な分だけ、吉野の木材を送る」をモットーに、1本からの受注にも対応するような体制をとった。「吉野材で家を建てたいんだけれど」「木の菓子箱をつくれないだろうか」といった個人からの相談も受け付ける。

木材販売で特に聞かれるのが、価格である。通常、木材の市はセリで価格が決まる。見た目がさほど変わらなくても、数十倍の価格差がついてしまう世界だ。木材の質が柔軟に価格に反映できる仕組みではあるが、広く多くの人が購入するにはハードルが高い。オンラインによる販路開拓を考えるうえで、最初に整備が必要だったのが価格表示であった。せめて汎用的に売れる木材は明示化できないかという協議をし、主力木材の価格をオープンにして誰でも買いやすいような仕組みを整えた。

各事業者が協力的に動いた背景には、これまでも議論を続けてきた素地がある。たとえば3年ほど前には、県の「奈良の木ブランド課」が主催するモデル事業に参画し、ワークショップ型でこれからのマーケティングについて議論を重ねた。参加した主力メンバーは、組合の青年部の人たちである。実は、吉野材関連の事業者一帯で課題となっていたのは、売上減だけではない。人手不足、後継者不足も大きな課題となっていた。

実際、最盛期には100社が組合に参加していたが、現在は半分以下に減少。承継者がおらずに廃業した事業者も多い。事業の担い手不足の対策としても、吉野材の良さをいかに広く知ってもらうかが重要だと、青年部メンバーが率先して動いたことが、YOSHINO WINGの立ち上げをスムーズにした。

ワークショップの様子
ワークショップの様子

共同受注システムの構築から情報発信まで

YOSHINO WINGのWebサイトには主力材を見やすく写真掲載し、オンラインからの見積もり問い合わせを可能にした。「共同・協業販路開拓支援補助金」を活用したことで開発に弾みがつき、隣の東吉野村を拠点に活躍しているクリエイター集団に協力してもらうこともできたという。オフィスキャンプという名のもとに活躍するクリエイターたちは、多拠点で活躍する人も多く、さまざまなバックグラウンドを持つ。それぞれの経験を生かし、伝わりやすいデザインや見やすい写真の載せ方を工夫していった。

見積もり問い合わせがくると、組合がコーディネータとなり、事業者とつなぐ。柱の構造材を手掛けるところ、板加工を主業とするところなど、事業者もそれぞれ得意領域が分かれているので、内容によってつなぐ先(支援先)が変わるのだ。

逆に、組合の会員事業者からの要望を取りまとめるのも、組合の仕事だ。毎月の製品市で顔を合わせるときなどに聞く要望にはできるだけ対応していく。たとえば仕上げ加工をする機械の共同購入、木材の乾燥機の台数追加といったような要望である。

販路拡大が進んだことで増えた相談もある。たとえば、プレカット(住宅建築用に向けた木材の切断・加工)工場の設置ニーズが出てきたのは、工務店との直接取引拡大も影響している。用途にあわせて使いやすい形で納入してくれないかという相談が出てくるようになった。

「ワンストップでニーズに対応していくためには、こうした変化対応こそ力を入れていきたい」と、吉野ウイング室長の樫本さんは話す。「『吉野材で家を建てたい』というニーズを受けたときに、ワンストップですべて対応できるようになれたら理想的ですよね」と、イメージはふくらむ。今後は、さらに多様な取引先、あるいは個人ユーザーともつながりながら、一層の販路拡大を進めていく予定だ。公共建築への木材活用も見据えて、地方公共団体との接点も増やしている。吉野材を使った家具や木工製品の普及も期待される。

「強くてたわみにくい」吉野材の品質は、数値でも証明されている。この良さをより多くの人に知ってもらう活動を続けながら、多様な人や事業者とつながることによる発展を目指している。

吉野の山・伐採ツアー
吉野の山・伐採ツアー

企業データ

企業名
吉野製材工業協同組合
Webサイト
設立
1950年
従業員数
12人
代表者
(理事長)中西 利彦 氏
所在地
奈良県吉野郡吉野町大字丹治11番地